アナタと夕食を
ある日の木の葉の里は、未だかつてない程の緊張に包まれていた。 何故かと言えば、過去里を抜けていった忍の中でも一、二を争う強さを持っていると 噂されている二人の忍が、その姿を見せているからだ。 しかも! 商店街のド真ん中という場所で、二人とも手に買い物袋を下げたトホホな格好で。 「………初めまして。うちはイタチと申します」 にっこりと笑みを浮かべながらも、背後にブリザードを背負っているイタチと。 「そう………私のことを知っているっていう顔ね」 獲物を狙う大蛇のごとく瞳を細めて、静かに殺気を漲らせている大蛇丸だ。 通行人はといえば、二人と眼を合わせないように下を向いて、セカセカと競歩とも呼 べる速さで去って(逃げて)いく。 不運な商店の皆様は、出来ることなら店ごと逃げ出したいと思いながらも、せめて被 害を最小限に留めようとシャッターを閉めた。 夕方という、商店街が一番にぎわうだろう時刻なのに、ヒュオオォ〜ッと風が吹きす さぶような荒野を彷彿とさせる程、辺りからは綺麗に人の気配が消えていた。 が、そのド真ん中で熱く暗い殺気を漲らせた二人の男が、凍えそうなほど薄ら寒い緊 張感をはらんで対峙している。 「これからご夕食ですか?奇遇ですね。俺も今からなんですよ」 イタチは表面上は穏やかだが、いつでも攻撃出来るように空いている手が微妙な動き を見せていた。 「なら、早くうちはの屋敷に帰ったら?サスケくんが待っているでしょうに」 大蛇丸も顔には笑みを浮かべてはいるが、どう見ても殺る気になっているようで、や はり空いている手が不気味な動きを見せている。 二人の間で微妙な火花が飛び散るが、誰もいないので止めようがない。 と、いうよりも、不気味な笑みを口元に浮かべながら今にも殺し合いそうな雰囲気を 放っているこの二人を、止めようという勇気ある人物はいないだろう。 誰だって巻き添えや八つ当たりで命を落としたくはない。 「サスケ、ですか?愚弟の名前を、よく知っていましたね」 にこにことイタチ。 「あの子の側をちょろちょろしていて目障りだったのよ」 フフフッと大蛇丸。 聞きずてならない言葉を聞いたとばかりに、ピクッとイタチの片眉が上がる。 「どういうことですか?」 多少口元がひきつりながらも、なんとか笑顔をキープできたイタチを見て、大蛇丸は しとめ損ねたかと舌打ちする。 「サスケくんったら、あの子とスリーマンセル組んでるんですって。半端な温情で生 かしておいた弟に先を越されるなんて、うちは最強の名折れじゃないの?」 フフン、と勝ち誇ったように笑う大蛇丸に、イタチはキレそうになった自分の理性を 総動員して、なんとか怒りを抑え込んだ。 「ふふ、そういえば、どなたかのコマでもあるあのエセ下忍くんを、あの子はとても 慕っているようですね」 今度は大蛇丸の片眉が上がる。 「一次試験の前に、親切にしてくれた優しいお兄さんらしいですけれど。手の早い飼 い犬一匹しつけられないなんて、それこそ伝説の三忍の名折れじゃないんですか?」 今度は大蛇丸の額で、浮いた血管がピクピクし始めた。 お互いに相手を瞬殺したいと思いながらも、表面上は不気味なほどに笑みを浮かべて いる。 だがそれ以上に、頭の中では、今聞いた自分の手ゴマだと思っていた相手を、どう やってシめてやろうかと考えていた。 しばらく、にらみ合うだけの時間が過ぎた。 互いにいつでも相手を攻撃できる体勢でいるというのに、何故自分から攻撃しようと しないのか。 理由はただ一つ。 もうすぐ、ここを彼等の愛しい愛しいあの子が通るはずなのだ。 そんな時に殺し合いをしていれば、絶対に怒られ責められるだろう。 そうなってしまった場合に、コイツが先に手を出してきたから反撃していた、という 言い訳が出来るように、決して自分からは手を出さないでいるのである。 これがうちは一族の長子と音隠れの里の頭領かと思うと、ご先祖様や音忍達が泣いて しまいそうだ。 相手の一挙手一投足に注意しながら、全身に殺気と緊張感を漲らせ、まさに一瞬即発 といった状態になってきた。 その時! 「なんでサスケまで来るんだってばよ!」 可愛い可愛いあの子の声が商店街の入り口の方から聞こえてきた。 「別に良いだろうが。別に減るモンでもねーし」 素直になれないサスケが、いつも通り憎まれ口で返す。 と。 「減るってばよ!」 ガツンッと怒鳴ったあの子に、カブトがクスクスと笑いを漏らす。 「なっ!」 好きな子に拒絶されたことと、恋敵に鼻で笑われたことに対して、サスケは再起不能 なほどのダメージを受けた。 「な、ならなんでソイツは良いんだ?!」 さり気なくあの子の肩に手を置いているカブトを睨み付け、憎々しげに言う。 「カブト兄ちゃんは、これから俺の家でラーメン作ってくれるんだってば。だから、 サスケが来たら食べる分が減るってばよ!」 プリプリ怒っているその子に、サスケは軽く舌打ちして「餌付けか」と呟いた。 カブトの耳にしか届かないように呟かれたソレに、エセ下忍は眼鏡を押し上げつつ勝 ち誇ったように笑みを浮かべている。 「なら、一楽行けば良いだろ!」 「俺、今金ないってば!イルカ先生にラーメン奢って貰おうと思ったら、テストのテ ンサクがいっぱいあって無理だって言われたんだってばよ」 添削、を漢字に変換できない辺りに突っ込みを入れようかどうか悩んだあげくに、サ スケはとにかくカブトを阻止することが先決だと心に決めた。 「お前の分は俺が奢ってやるから、一楽に行くぞ」 小さな手をどさくさに紛れてギュッと握り、サスケは来た道を引き返そうとする。 「ちょっと待ちなさい」 背後からかけられた声に、サスケの背筋がビクッと反り返った。 額に冷や汗がダラダラ流れてくる。 いつか殺すと心に決めた兄だったが、今だその声で話しかけられると背筋が凍る。 「あー!イタチ兄ちゃんだってば!」 嬉しそうに歓声を上げて飛びついてくるその子を受け止め、イタチは周りの三人に向 かって勝ち誇った笑みを浮かべた。 先程までの殺気立った雰囲気など欠片もなくなった笑顔でナルトに離しかける。 「ナルト、またちょっと大きくなったかな?」 絶対にそんなことはないのだが(何と言っても前に会ったのは3日前だ)、ナルトは 「俺ってばセーチョーキだから」などと言って喜んでいる。 成長期のなんたるかもよく分かっていないだろうナルトを抱き締め、頬摺りし、三日 ぶりのナルトの匂いを思いきり堪能したイタチは、満足そうに息をついた。 「ナルトくん、久しぶりね」 イタチに抱っこされたままのナルトの頬をつつき、大蛇丸は出遅れた分を挽回するた めに声をかける。 「あ、えっと、うーんと………あっ!大蛇丸だってば!」 「そうよ。良く覚えていたわね」 良い子良い子と頭を撫でられて、ナルトは中忍試験の時の出来事も忘れて、嬉しそう に頬を掻いた。 差し出された手に飛び移って、今度は大蛇丸の腕に抱っこされる。 一瞬顔色が悪くなったイタチだったが、すぐに気を取り直して、 「ナルトはご飯食べたのか?」 と最初の一言を切り出した。 途端、その場にいるナルトをのぞいた四人の空気が緊迫する。 ジリジリと互いを警戒しながら、ナルトの言葉を待っている。 「まだだってばよ。でも、これからカブト兄ちゃんがラーメン作ってくれる予定なん だってばv」 答えたナルトの言葉に、大蛇丸が反応した。 ナルトに見えないところで、カブトを睨み付ける。 「あら、残念ね。さっき火影様の使いの人と出会ったんだけど、カブトに用があるっ て言ってたわよ」 「ねぇ、イタチ?」と穏やかな声で言いながらも、消えないと殺るわよ、と視線でカ ブトを脅しあげた大蛇丸に、今回は相手が悪いとカブトも引き下がることにしたよう だった。 「そうですか。それじゃ、残念ですけど、ラーメンは次の機会ですね」 残念そうに言いながらも、腹の中で「こんのクソ蛇野郎!」と大蛇丸へ呪いの言葉を 投げつける。 「じゃあ、俺と一緒に一楽に行けば良い」 立ち去ったカブトに、今がチャンスとばかりのサスケの言葉に頷きかけたナルトを遮 るようにして、今度はイタチが、 「サスケは、今日はアルバムの整理をするって言ってただろう?」 と笑いかける。 「なにを言っ………!」 反論しようと上げた視線の先で、写輪眼全開な兄の姿を眼にしてしまい、サスケは思 わず一歩引いた。 「なぁ?」 ナルトにはにこにこと笑っているようにしか見えないだろうイタチは、だが確かにサ スケに向かって、今消えないと(今度こそ)殺すよ、とばかりの視線を送る。 何よりも、笑みの下の眼が笑っていない。 瞬時に頭の中で計算したサスケは、今命を落とすよりも、今後のチャンスを待つとい う方法で妥協した。 「………ああ」 今だ兄に勝つことが叶わぬ自分を自覚し、ナルトをゲットするためにはその兄を倒さ なければならないことを認識する。 一体いつの間にナルトに目を付けたんだ、と思わなくもなかったが、取り合えず今後 に期待、ということでサスケは身を引くことにした。 言うことを聞くしか出来ない自分の無力さに歯がみしながら、サスケは軽く舌打ちし て背を向ける。 スゴスゴと去っていくサスケの後ろ姿に、大蛇丸とイタチはこれで邪魔者はいなく なったとばかりにナルトに手を伸ばした。 大蛇丸は肩を抱き、イタチはナルトの柔らかいふわふわした髪をくしゃくしゃと撫で る。 「二人とも行っちゃったってば」 あまりの展開の早さに半ば呆然としているナルトをニコニコと見つめながら、イタチ も大蛇丸も、次はコイツを、と頭を巡らせていた。 「せっかくタダでラーメン食べれると思ったのに!」 「食べさせてあげるわよ」 ブー、と頬を膨らませて拗ねているナルトの頬をつついて、大蛇丸が手にしていた袋 をあげてみせる。 「ナルトくんのために、材料買ってきたのよ。無駄にならなくてよかったわ」 「ホントだってば!」 袋の中身を見て歓声をあげるナルトの頭を撫でつつ、勝ち誇ったように鼻で笑う大蛇 丸。 先を越されてしまったイタチは内心歯ぎしりしながらも、表面はにっこりと優しいお 兄さん状態で、 「ナルト。こっちにもラーメンの材料があるんだけどな」 苦笑しつつ主張すれば、食い気が先立つナルトは大蛇丸から瞬く間にイタチへと意識 を移す。 「やった〜っvだからイタチ兄ちゃん好きだってばよ〜っvv」 飛びついてくるナルトを受け止め、イタチは大蛇丸に向かってニヤリと笑ってみせ る。 なんともイヤな笑いだ。 だが、それに対して中指を突き立てて反撃する大蛇丸も怖い。
>>ラーメン対決へ(オロナル)
>>漁夫の利へ(ハヤナル)
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