二人で

 

 

 

 

 

 

 僕たちは幸せになるために、この旅路を行く。

 

 

 

 

 

 

繋いだ手が暖かい。

年中温暖な気候の木の葉と違って、外の世界には厳しい四季が存在する。

先程からチラホラと舞い始めた白い真綿は、肌に当たると冷たく解けた。

知識で知っているだけの四季に戸惑うナルトの手を、彼はギュッと強く握った。

見上げれば、記憶にあるよりもずっと大人びた顔が見下ろしている。

大丈夫、と告げたけれど、無言で抱き上げられた。

彼のマントで包まれ、ぴったりと肌が密着する。

長く感じることのなかった人肌の暖かさを思いだし、ナルトは彼の肩に軽く頬ず

りした。

彼がナルトを迎えに来たのが一週間前。

昔約束した通りに迎えに来てくれた彼の手を、ナルトは躊躇いなく取った。

今頃里は大騒ぎになっているだろう。

上層部は追い忍を出してくるだろうし。一時的にでも仲間だった彼らは悲しんで

いるのだろうか。

あの里には辛い記憶も埋まっていたが、それ以上の想い出が溢れている。

離れ難くなかったと言えば嘘になる。

それでも、危険を犯してまで迎えに来てくれた彼を拒むことなど、ナルトには出

来なかった。

どこに行くの?と問えば、どこに行こうか、と返ってくる。

だから、どこでも良い、と答えて。

 

 一緒にいられるなら、どこだって良い

 

彼に着いて里を捨てたことも、たくさんの大切な人たちを置いてきたことも、寂

しいことではあるけれど。

それらよりもなお、大切なものがあるから。

ふと、波の国で出会った少年を思い出した。とても綺麗だった少年を。

鬼人と呼ばれた男に従い、そしてその男のために死んだ少年のこと。

あの少年も、もしかしたらこんな気持ちで鬼人に従っていたのだろうか。

鬼人は、あの少年を道具だ、と言い切ったけれど。

今、ナルトを抱いている彼は自分を道具扱いなんてしないけれど。

それでも、今の自分たちに負けないほどの絆があの二人にはあったのだと理解で

きる。

きっとあの二人も、幸せになるために里を抜けたはずだから。

ただ二人でいたかっただけのはずだから。

 

 だったら、もう一度だけ会いに行こうか…?

 

彼の言葉に、小さく頷く。

静かに降る雪は、いつもあの少年を思い出させた。

初めて人の死を目の当たりにした任務だったからか、今でも強く記憶に残ってい

る。

微笑みを浮かべたまま逝った少年と。

その少年と同じところへ逝きたいと言った鬼人。

二人は、同じ場所へ行けたのだろうか。

そこで幸せになれただろうか。

ぽんぽん、と軽く背を叩かれて、ナルトは意識を現実に戻した。

雪が強くなってきたのを期に、今日はここで休もう?と言われる。

顔をあげれば、そこにはぽっかりと口を開けた洞窟。

ナルトを抱いたまま、器用な手がたき火に火を付ける。

数年ぶりに眠る、彼の腕の中。

暖かさが伝わってきて、酷く安心する。

 

 俺が起きたら、寝てね?

 見張りぐらいはできるようになったから

 

まだ無力な子どもだけれど。

これでもちゃんと忍者だから。

ああ、そうだね、と答えたその声の落ち着きが嬉しい。

この声よりも少し高い、けれどよく似た声を聞いていたからか、久しぶりだとい

う気がしない。

それでも、似ているというのはホンモノと違うということだから。ホンモノには

敵わない。

洞窟の外は吹雪いているようだったけれど、洞窟の奥は地熱でほのかに暖かい。

それでもやっぱり肌寒さはごまかせないから、抱いてくれる彼に出来るだけ密着

する。

子どもは体温が高いっていうから。少しでも彼を暖めたくて。

ギュッと強く抱き返してきた彼の耳元で聞いてみる。

 

 ねぇ、俺たちシアワセになれるよね?

 

そうしたら、そっと頬にキスが落ちてきた。

 

 ナルトと一緒なら、どこでだって幸せになれるよ

 

見合わせた顔が、自然と笑みで彩られる。

これからどんな辛いことが起こるか分からないけれど。

もしかしたら、命を落とすことだってあり得るけれど。

二人でいれば、何も怖くない。

怖くない。

二人でなら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕たちは幸せになるために、この旅路を行く。

だからほら、笑顔が溢れてくる。

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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