惨劇

 

 

 

 

   お前だけだよと今誓って

   罪を感じて懺悔をして

   どれだけ罵っても反論しないで

   泣いて許しを欲しがって

   そして言い訳をして

   次は、いつもみたいに甘えさせて

   それができないのなら

 

   ここで

 

 

 

   今、死んでみせて………

 

 

 

 

 

 

 

 

見てしまったのは偶然。

けれど、それは必然のようにも思えて。

目の前を歩いているのは、大切で大好きな人。

なのに、その隣にいるのは自分じゃなくて、誰か知らない女の人。

どうしてその人と一緒にいるの?

今日は任務じゃなかったの?

なんで腕を組んでるの?

「俺だけ、って…」

「ナルトだけだヨ」って言ったくせに。

「ウソツキ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの人を守るべきはずの盲目の愛は。

それだけあの人を許せないままで、何度もこの胸を抉る。

目の前で笑うあの人が憎くて。

それでも、最初は笑っていられた。

でも、それももう限界………

あの日胸の奥に現れた小さな火は、今はもう青白い炎となってこの身を焦がすばかりで。

燃え上がるこの激情を止める術が、もう…見あたらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   誰かのものになるくらいなら。

   あなたをこの手で。

   ちぎれてしまうまで…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大きく見開かれた右目が、呆然とナルトの姿を映す。

「ナル…ト………?」

ズルリ、といやな音が部屋に響いた。

切り裂かれた肉の間から姿を表したのは、赤く染まった…刃。

「なん………」

くず折れたカカシに、再びナルトがその手を振り上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   どこへも行けないように足をつぶして。

 

      −誰カノトコニ行クタメノ足ナンテイラナイヨネ。

 

   なににも触れられないように手をつぶして。

 

      −誰カニ触レルタメノ手ナンテイラナイヨネ。

 

   なにものも見れぬように瞳を抉って。 −誰カヲ見ツメルタメノ眼ナンテイラナイヨネ。

 

      −誰カヲ見ツメルタメノ眼ナンテイラナイヨネ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これで。

これで、苦しまずにすむ。

苦しまずにすむから。

この人は自分だけのものになったから。

もう…誰のものにもならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ああ、これでようやく手に入れた………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつまで待っても任務に来ないカカシとナルトを心配したサスケとサクラが訪れたのは、翌日の午後。

「ナルト!アンタいつまで………っ?!

いつもの調子で怒鳴り込んだサクラよりも先に錆臭い匂いをかぎつけたのはサスケ。

「見るな!」

サスケが叫んだ時には遅かった。

目の前の惨劇に、サクラは口元を押さえて外へと駆け戻る。

「ゲェ…ウ………ウェ………」

嘔吐を繰り返すサクラを気遣うこともできずにサスケは立ちつくす。

部屋中の壁が赤茶色に染まっていた。

床は、歩く度にニチャリと粘着質な音がする。

あきらかに異常なこの状況で、その鮮やかに黄色い服を赤黒く汚したナルトが嬉しそうにカカシを抱きしめていた。

男は一目で死んでいると分かるが、その遺体から見て取れる異常なほどの猟奇性に、喉の奥からこみ上げてくるものを必死に飲み込む。

カカシの遺体は、両手がつぶされていた。両足がつぶされていた。

眼球はくり抜かれ、その口の中に押し込まれていた。

なによりもサスケを怯えさせたのは、そのカカシの体を抱いているナルトの存在だった。

胴体からちぎれかけている頭を抱きしめて、繰り返し銀の髪を撫でている。

「ナルト…?」

そっと声をかけてみる。

ナルトの行動は、どう見ても狂ってしまったとしか考えられなかった。

一定の距離を保ったまま、サスケはもう一度呼びかける。

「おい、ナルト」

ようやく聞こえたのか、髪を撫でていたナルトの手がピタリと止まった。

ぼんやりとした瞳が、焦点の合わないままでサスケを見返す。

攻撃してくる様子はない。

出来るだけ刺激しないように気を配りながら近づき、指につけた眠り香をその鼻先で擦り合わせる。

しばらくふらふらしていたナルトが完全に眠りに落ちたことを確認してから、サスケは外で蹲っていたサクラに声をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カカシの葬儀は秘密裏に行われた。

目覚めてからも何をするでなくぼんやりとしているナルトは、一時的に火影邸で保護されている。

カカシの死因がどう見ても他殺であることから、ナルトは裁判にかけられるそうだ。

だが、実質裁判など形だけで、幽閉か処刑がその先に待っているのは明白だった。

里中がナルトに怯え、口々にその死を望んだ。

火影は、決断せざるを得なかったのだ。

だが、その後ナルトの裁判が行われることはなかった。

ナルトが失踪したのだ。

里のいかなる場所でもその姿を認められず、里の重鎮達はナルトが里を抜けた可能性が高いとして追い忍を飛ばした。

だが、ナルトに近しい人間たちは、ナルトがどこにいるのかを知っていた。

そして、そのあまりにも哀れな選択を、受け入れがたい気持ちで飲み込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

土を掘る。

「せんせー…」

小さな手が、最近埋められたばかりの色をした土を掘り返す。

「せんせ…せんせー………」

ある深さまで掘ったところで、ピタリと手が止まった。

「せんせ…いた………」

嬉しそうにつぶやき、子どもは土の中から人間の頭骨を取り出す。

愛おしむように何度もそれを撫で、そっと口づけた。

頭骨にうっすらと残る、元は左眼の収まっていた辺りに走る傷跡。

そこに獣がするように舌を這わせ、子どもは満足げに手の中のものを抱きしめる。

自らが掘り返した穴の底で丸くなり、子どもは静かに目を閉じた。

その腕に愛した男の頭を抱いたまま………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   限りなく惨劇に近い悲劇は、最悪の結末で幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

痛い。水神に言いたいことはそれだけです。

感想ありましたら、BBSまでお願いしますv

 

 

 

 

 

 

 

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