truth

 

 

 

 

 数日前から、ずっとジクジクとした痛みが俺を襲っていた。

原因は、腹の中にいる九尾だと言われた。

じっちゃんは俺の体に器としての限界がきたと言い、大蛇丸は手遅れだって言い方をした。

何度も血を吐いて。体を走る激痛にのた打ち回って。

それでもじっちゃんの提案してくれた封印による延命を選ばなかった理由は、たった一つで。本当は原因も自分で分かっていた。

でも、それは誰に告げるつもりもなかった。

 

俺は、ただ静かに死を迎えるためだけに大蛇丸に預けられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

じっちゃんは俺の体に器としての限界がきたという言い方をした。

大蛇丸は手遅れだって言い方をした。

 

 本当は…違う。

 

俺のチャクラは、完全に九尾を封印していた。

封印は、九尾のチャクラをも俺のものにできるようになっていた。

結果、ますます俺のチャクラは大きくなり、九尾の封印はより強いものになっていく………四代目の封印は完璧だった。

予定外だったのは、九尾のチャクラと共にその知識までもが俺の中に流れ込んできたこと。

千里眼…瞬間移動…そして予知。

はじめは物珍しくて色々と遊んでたけれど、ふとあることに思い至った。

自分はもう、人間じゃないんじゃないか…って。

それで最初のうちは必死に隠そうとしていた。

ドベだった自分が、急に力を持ってしまうのはどう考えてもおかしい。

今更里人にどう思われようとかまわなかったが、ようやく手に入れた『仲間』まで失いたくはなかった。

いつバレるだろう、と怯える毎日に堪えきれず、俺は自分で自分に誓っていた決意を破って未来を覗いた。

里は………なくなっていた。

俺が見たのは、一年後の世界。

そこには、廃墟と化した里の姿しか映し出されなかった。

瓦礫に布きれのように引っかかっているのが人だと気づいた時の嫌悪感。

そして、無惨な姿を晒す大切な人たちの残骸を見てしまった時の絶望感。

呆然とする俺に九尾がふいに話しかけてきたのは、その瞬間だった。

 

 『あの未来を変えてやろうか………?』

 

 『お前の大切な人間共を、救ってやろうか………?』

 

一も二もなく頷いた。

あの光景をなくせるのなら、何をしても良いと思った。

 

 『ならば………』

 

 『 コ ノ 里 ニ 代 ワ リ 、 オ 前 ガ 滅 ビ ロ 』

 

そうして、俺は九尾に頷いた。

明日………明日になれば、俺の体はこの里に降りかかる災厄の全てを受けて息を止める。

この里が好きだった。

虐げられてきたが、優しい人もいた。

大切な仲間もできた。

最初から持っていても良かったはずの物を、少しだけ取り戻せたような気がした、この数年。

この里を守る理由など、それだけで十分だった。

ほんの一握りの人を守りたい…それだけでここまでの覚悟ができてしまうのが不思議だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここに戻ってくるために大蛇丸に言ったことは本当。

最後は、木の葉で迎えたい………そう伝えて、サスケと我愛羅に届けてくれるようにと封筒を二つ渡した。

だけど、大蛇丸には火影邸へ身を寄せると言ってあった。

それは、嘘。

最初からそんなつもり、俺には全然ない。

あそこにいれば、延命のために封印される恐れがあったから。

確かに死んではいないけれど、生きてもいないようなそんな状態になんてなりたくなかった。

第一、それでは俺の願いは叶わない。

だから、俺は最後のその日を確実に迎えられる場所を選んだ。

カカシ先生を頼った理由はたった一つ。

あの人が、俺のことを愛していたから。

けれどそれを決して口にしなかったから。

戻ってきた俺を黙って受け入れてくれて、しかもそれで幸せになってくれるなら十分な理由だと思う。

カカシ先生は、大切な人たちの内の一人………それだけだったけれど。

サスケと我愛羅も愛してくれたけれど。

あの二人は言ってしまったから。

告げられれば、応えられるはずのない俺が側にいることは苦痛以外のなにものでもないはずで。

だからこそ、何も言わないカカシ先生の側を選んだ。

残念だけれど、俺には『愛する』ということがどんなことか分からない。

ただ、『愛される』ことには酷く敏感になっていたから、寄せられる想いが無性に心地よかった。

だからかもしれない。

最後に、あの二人に『言葉』を残したことを………最後に、カカシ先生に『体』を残すことを………決めたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後の瞬間は、意外なことに苦しみはなかった。

今までのたうち回っていたのが嘘のようだ。

眠気にも似た感覚で頭がボーッとしてきて………少しだけ息苦しい。

カカシ先生が、ずっと俺のことを抱きしめていた。

朦朧としていく意識の中で、イルカ先生に『好き』って伝えるのを忘れていたことを思い出した。『ありがとう』って………言いたかったのに…………………

「………きって…」

「なに?なに、ナルト」

ああ、もう言葉もうまく紡げない。

最後なのに。

伝えてくれるように言わなくちゃいけないのに。

「好き、って…伝えて………」

口にした瞬間、白くなってきた瞼の裏に、カカシ先生の姿が見えた。

今の、じゃない。

もう少し先の…未来の先生の姿。

やつれた顔をして、辛そうに…苦しそうにしてる。

そんな顔しないで。

愛してはいなかったけれど、好きだったことは本当だから。

ねえ、先生…笑って?

こんな俺のことなんて忘れて。

そして、幸せになって。

ああ、もう一つ忘れてたね。

まだ、先生にも『好き』って伝えてなかったよね。

『ありがとう』も言えてない。

このままじゃ、消えられない。終われない。

九尾…九尾、力を貸して。

あの先生のとこまで連れていって。

少しだけで良い。少しだけで良いから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『せんせー…俺のこと、最後までありがとってば』

 

九尾は、俺の願いを叶えてくれた。

 

 『俺、イルカせんせー以外の大人にあんなに優しくしてもらったのなんて、初めてだってばよ』

 

そう。

カカシ先生は、俺に凄く優しくしてくれた。

愛して…くれた。

だから。

 

『俺………せんせーが、好きだってば』

 

本当に本当に、好きだから。

 

『だから、せんせーには、幸せになって欲しいってばよ』

 

どうかどうか、幸せになって。

 

『ごめんね、せんせー…』

 

愛してあげられなくてごめんなさい。

でも、好きだから。

ただ、好きなだけでしかいられなかったけれど………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さよなら、せんせー

 

さよなら、サスケ

 

さよなら、我愛羅

 

そして

 

さよなら、俺の大切な人たち

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あなたたちが幸せでありますように

 

 

end

 

 

 

 

 

 

 

 

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