untruth
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ナルトがその短い命を終えて、一ヶ月が経った。 あの日から、カカシは自分を痛めつけるように任務を遂行していた。 下忍の担任を止め、自ら暗部へと戻り、ただ自身の死に場所のみを求めて。 同僚からも、元の生徒からも心配されたが、そうでもしなければ頭がおかしくなりそうだった。 ナルトがいない…ただそれだけで心が狂う。 「っ、はぁ…はぁ………」 最後の一人の首から突き立てたクナイを引き抜き、カカシは荒く息をついた。
一緒に行動していた暗部の忍に後の始末を託し、カカシは重い足取りで家路につく。 扉を開けても、返ってくるのは暗い静寂のみで。
『お帰りなさいってば』
ベッドの中からではあったが、それでも明るい声が自分を迎えてくれていた、あの日々。 けれどもう、あの子はいないのだ。 自分の腕の中で冷たくなって。 そうして、その短い命を終わらせた。 分かっている。二度とあの子が帰ってくることはない。 フラフラした足取りでベッドに近づき、ドサリと重い体を横たえる。 …眠れない。 熟睡できないのは昔から。 だが、完全に眠れなくなったのはあの子が死んでから。
『せんせー、おやすみなさい』
あの子の声が、子守歌代わりになっていたから。 体は限界まで疲れているはずなのに、眠れない。 それ以上に心が疲れ果てていた。死んでしまいそうなほど。 ふと、ベッドの横の小棚の上に置いてあるラジオが目に入った。 ナルトはここにいる間、カカシが任務に赴いている時間が暇だと言って、よくこのラジオを聞いていた。 そんなことを思いだし、気まぐれでスイッチを入れてみる。 ナルトがここにいたという感覚だけを思い出したくて。 そうすれば、少しはあの子の存在を感じることが出来るような気がして。 だが、スピーカーからこぼれたのは、今のカカシが聞いてもおもしろくないような番組などではなかった。
『せんせー…』
瞬間、耳を疑う。
『せんせー…』
「っ!!」 幻聴などではない。 間違いなくナルトの声だ。 「ナル…」 とっさに顔をあげると、そこにナルトが立っていた。 驚きのあまり声も出ない。
『せんせー…俺のこと、最後までありがとってば』
礼など聞きたくはなかった。 むしろ自分の方が言いたいくらいだった。 最後のその瞬間まで側にいてくれたのは、確かにナルトの方だったから。
『俺、イルカせんせー以外の大人にあんなに優しくしてもらったのなんて、初めてだってばよ』
柔らかな…優しい声色。 懐かしいわけでもないのに、胸が締め付けられるような苦しさを覚える。 それは、聞くことの出来なかったあの一言の行方を思い出したせい。 だが…
『俺………せんせーが、好きだってば』
耳を疑う。 今、ナルトは何と言ったのだろう。
『だから、せんせーには、幸せになって欲しいってばよ』
なれるはずがなかった。 ナルトのいない世界で、生きていけるはずもなかった。 体は生きていても、心はもう死んだも同然で。 壊れていく自分の心を感じながらもどうしようもなくて。 そうして今、自分はこんなにも飢えている。
『ごめんね、せんせー…』
言いながら、最後に見たあの儚い笑顔を浮かべる。 罪人を見つめる、慈愛に満ちた天使のような…微笑み。 「ナ…」 名を呼んで触れようと手を伸ばすと、スッと後ろに避けられた。 そのまま、段々遠くなっていく。 「ナルト…待って、ナルト………!」 反射的に走り出すが、どれだけ追っても手が届かない。 追ったままにたどり着いたのは、見覚えのない………草原。 突然そんなところに出たことに戸惑い、見失ったナルトの姿を追って辺りを見回す。 ………いた。 カカシの位置から100mほど先。 金色を纏った小さな体が立っていた。 「ナル…」 声をかけようとしてハッとする。 足が止まった。 ナルトは、こちらを見ることなく、ジッと空を見上げている。 泣いているようだ、と思った。 声が聞こえたわけではない。 涙が流れていたわけでもない。 なのに、その瞳は苦しみと悲しみに溢れ、見えぬ涙を流しているようでだった。 以前にも、ナルトはあんな目をして空を見上げていた。 あれはいつだったか…そう、突然自分の前にナルトが現れた時。 一年ほど前から行方の分からなくなっていたナルトを、任務を終えて家に帰ってきたカカシが見つけた時も、こんな風にずっと空を見上げていた。 あの時はなにも聞かなかった。 聞けなかった。 ただ、こちらを見て笑ったナルトに、「おかえり」とだけ告げた。 今、同じように声をかければ、再びナルトは帰ってくるだろうか。 「ナルト…」 あの日と同じように声をかける。 だが、ナルトはこちらを見ずに、反対方向へと走り出した。 慌てて手を伸ばす。
「待って、ナル………!!?」 自分の叫び声で目が覚めた。 慌てて部屋の中を見回す。 けれどそこにあるのは、ただ、痛いほどの静寂。 いつの間にか眠っていたらしい。 一ヶ月ぶりの眠りだった。 まだぼんやりとする頭を振り、思い出してラジオのスイッチを慌てて入れてみる。 だが、何度やってみても、そのラジオが音をこぼすことはなかった。 「壊れて…る、のか…?」 ギクシャクとラジオを元の場所に戻し、カカシは全身から力が抜けたようにベッドに座り込む。 はっきりとしない頭を振ってみるが、スッキリしない。 何か、不思議な魔法にでも魅せられたかのようだ。 ばかな夢を見たものだ、と自分の手を見つめながら苦笑する。 ナルトはもういないのに。 確かにこの手で確かめたのに。 腕の中で冷たくなっていく体を感じたのに。 ふいに手の上に落ちたものに首を傾げた。 ポタポタッと散っていく、透明な………涙。 「ナルト………………ぉっ!!!」 堰を切ったようにあふれ出す涙を止められず、カカシは子どものように泣き続けた。 ナルトの名を、声が枯れ果てるまで叫びながら………
ナルトは、俺のことを『好き』だと言った。 けれど、その瞳の中に自分の望んでいた感情は見つけられなかった。
本当に俺が『好き』だったの?
君の言う『好き』は、俺の望んだ『好き』とは違うの?
じゃあ
君は誰を愛していたの…?
To truth |