お別れの日
お別れの日。 今日はお別れの日。 あの人とのお別れの日。 永遠にお別れの日。
静かな霧雨の中、しめやかに行われているのは葬儀。 あの人の葬儀。 あの人の死を哀しみ、最後のお別れに訪れる人の列、列。 けれど、自分にはあの列には並ぶことができない。 自分は化け物だから。 化け物の九尾の器だから。 だから、こうして遠くから見ていることしかできない。 小さな手には、額当てがあった。 自分のものではない、別の人のもの。 あの人の、もの。 『たとえ俺が滅びても、ナルトのところに必ず戻ってくるよ』 だから持っていて、と告げられた。 あの時すでに、あの人は自分の死を悟っていたのかもしれない。 そうして、こうして葬儀の列にも並べない自分を予想して、こうしてあの人の欠片を渡してくれたのかもしれない。 『たとえ俺が滅びても…』 優しい声が耳に残るから。 『ナルトのところに必ず戻ってくるよ』 ナルトは、音もなくその場から離れた。
里の一番南側。 海に面した断崖の上で、ナルトは額当てを渡された夜に告げられた言葉を思い出していた。 『命はね。海から生まれたんだよ』 自分たちよりも遥か遥か昔に生まれた、小さな小さな命。 その話を聞きながら、自分は深い安堵の中で眠りに落ちていったけれど。 最後にあの人が言った言葉は確かに聞こえて、この胸にある。 『海から命は生まれたから…死んだら海に帰りたいよネ』 一度だけ、手にした額当てを抱き締めた。 あの人の欠片…あの人の残してくれた温もり。 けれどあの人は海に帰りたいと言ったから。
遠くへ。 出来るだけ深い海の元へ届くようにと。
投げた。
いつの間にか止んだ雨。 夕陽に真っ赤に染まった海は、それでも優しいゆりかごのよう。 赤い赤い海の、青い青い底。 あの人を…そっと、飲み込んでいった。
「せんせー………」
お別れの日。 今日はお別れの日。 あの人とのお別れの日。 永遠にお別れの日。
けれど涙は流さない。
「さよなら…」
そして。 おやすみなさい………
終 |