森の妖狐さん〜サスケ登場編〜

 

 

九尾ナル ※サスケ登場 編※

 

 

うららかな日差しに誘われて、お昼ご飯を食べながらコクンコクンと船をこぐ子狐が

一匹。

それを、向かい側で発禁もののだらしない顔をして眺めている妖狐が一匹。

いつも通りの変わりない時間が流れ、今日も箸を握りしめたままナルトがコテ、と倒

れた。

妖狐と過ごすハードな夜の生活(!)のせいで、最近ナルトは寝不足なのだ。

あれから銀狼が来る度に妖狐に虐められ(ているとナルトは思っている)てしまい、

ますます寝不足は深刻になっている。

けれど、どうしてもお日様が顔を出し始めるとウズウズしてしまい、どれだけ眠くて

も起き出して外で遊んでしまうのだ。

そのしわ寄せが、こうして昼にやってくるのである。

口の周りにご飯粒を付けたままくぅくぅと寝息を立てているナルトの側にしゃがみ込

み、床につきそうなほど鼻の下を伸ばして、妖狐は深く深く幸せの溜息をついた。

『あぁ………こんなに幸せで良いのか』

小さな手から箸を離してやり、自分の尾の一本でその幼い体を擽る。

そうすると、無意識にギュッと抱きついてくるのだ。

むにゃむにゃと何事か寝言を言い、またすぐにくぅくぅと寝息を立てるナルトの何と

可愛らしいことかっ!!

が!そうそう幸せな時間は続かない。

デレデレになりながらナルト観察を続けていた妖狐の元に、使役神が封書を持って飛

んできたのだ。

一瞬「打ち落としてやろっかな〜」などと考えたが、大人げないのでやめておく。

綺麗に折り畳まれた手紙の差出人に、妖狐は顔を真っ青にした。

【木の葉の森 夕日紅】

そこには確かにそう書いてあった。

何度も見直すが、振ってもひっくり返しても裏から透かして見ても書いてあることは

同じだった。

『や、殺られる………!』

どうやら、先日追い出された銀狼の口から洩れたらしい。

何故か宿主であるはずの自分も追い出されたが………いやいや。

あの後謝り倒して許して貰ったことを思い出して、別の意味でゾッとする。

お休みになっていらっしゃるナルトは、可愛い顔して最強なのだ。

これを世の人間達は惚れた弱みと言うのだろうか………などと哀愁を漂わせている

と、手の中にある手紙の存在を思い出させるかのように使役神がチョイチョイと妖狐

の背中をつつく。

早くしてくれとばかりの態度に、返事を持って帰れと言われているのかと思ったが、

がっちりと腕を掴まれて瞬く間に屋敷の上空へと連れ去られた。

「なっ、何なんだあぁーっ!?」

哀れにも響きわたる妖狐の叫び声。

妖狐の手にした手紙。

それは………紅による、強制連行の通知書だった。

ちなみに、夢の国へと旅立ってしまっているナルトは、そんな悲痛な妖狐の叫びにも

起きることなく、すやすやとお昼寝続行中………

 

※       ※       ※

 

ソレは、ハタと歩みを止めた。

いつまでも続く道。

先程も見た切り株。

ぐるぐると回っているかのような感覚

どうやらこれは………

「迷った、か?」

クールでかっこいいと女の子達に絶大な人気を誇っていたソレは、己の身に起こった

出来事が信じられず溜息を吐く。

このループを抜けるには、もう何もないところへと突っ込む以外に方法はない。

意を決して、ソレは近くの茂みへと飛び込んだ。

 

※       ※       ※

 

さてさて、相も変わらずおねむのナルト。

いつの間にやら暖かい場所を目指して転がったらしく、縁側ですよすよと寝息をたて

ていた。

「ぅにゅぅ〜、ラーメンはやっぱりミソだってばよ………」

などと寝言を言いつつ、何かを食べているかのようにムグムグと口を動かしている。

『ガサガサガサッ』

「ん?」

突然生垣から飛び込んできたソレは、目の前に広がる景色に首を傾げた。

こんなところに誰かが暮らしている様子の屋敷があるなどとは、聞いたことがない。

少しばかりあやしい、と思いながらも、今は迷子である自分を脱出することが何より

も先決で。

ここに暮らしているだろう誰かに道を聞くため、ソレは庭を横切って縁側に近づい

た。

「………っ!!」

あと1mというところで、ピタリと足が止まる。

絶句してしまった。

そよそよと金の髪が風に揺れている。

ふくふくとした柔らかそうな頬は、かすかにピンク色で。

ぽってりとした唇は桜色。

寝息で、薄い胸が上下していた。

本人と同じほどもあるシッポがアンバランスで、肌は雪のように白い。

『なっ、なんだ、この動悸はっ!!?』

バクバクと暴走を始めた自分の心臓に戸惑う。

今まで、どんなに魅力的な女達に迫られても動じなかった心臓が、目の前でその子が

寝ているだけで早鐘を打っている。

「んにゅ〜…」

寝ぼけた鳴き声とともに、小さな体が寝返りを打った。

うつぶせていた体勢から、大の字になったため、ますます眠っている子供の様子が見

て取れる。

閉じられた瞳を縁取る睫までもが薄い金色をしているのを見て、初めて眼にする色に

驚きを隠せない。

自分の暮らしている場所にだって、狐ぐらいいる。

だが、こんなに綺麗な金色をしている者はいなかった。

子狐特有の色なのかとも考えたが、そういった覚えはない。

「ん?」

ふと目を落とした子狐の胸元。

はだけた衣からチラリと覗くこれまたピンクの…。

「ぐはっ!」

思いっきり叫び声をあげて、3mほど飛びすさる。

鼻の奥のツンとした感じに、なにやらなま暖かい液体が…。

すぐさま上を向き、鼻を摘んで首の後ろをトントン叩いた。

とんでもないものを見て、とんでもないことになってしまったと後悔しながら、止ま

らない鼻血を根性で止めようとしていると、後ろで「うぅ〜ん」とうなり声がする。

「ふぁ…〜っふぅ。よく寝たってばぁ〜」

丸めた手の甲で目を擦りながらナルトが目を覚ました。

ん〜っ、と伸びをして、はふぅ、と一息つく。

「あれ?」

そこでようやく、自分以外の存在に目を向けた。

真っ黒い犬が、なぜか首の後ろをトントンしながら立っている。

「犬ーっ!!」

「ぅわっ!」

甲高い絶叫に驚いて、その黒犬がこちらを振り向いた。

あわあわと手足をバタつかせて奥の襖の陰に隠れてしまった子狐に、なんだか少し

ムッとする。

「おい」

声をかけると、大きな耳とシッポがピーンッと立って、こちらを警戒していることが

丸わかりだ。

「なっ、お前っ、誰だってばっ!」

どもりながらも必死に威嚇する姿は、迫力どころかますます可愛らしさを増してい

る。

「別に取って喰ったりしねーよ、ウスラトンカチ」

あまりのナルトの怯えように、心外だと黒犬はため息を吐いた。

「なっ!」

だが、ウスラトンカチ、と言われてしまったナルトは、カッと頬を紅潮させて、

「何言ってんだってばよ!自分だって鼻血ブーのくせに!!」

襖の陰から指をさしてまくし立てる。

そんな仕草さえも黒犬の眼には愛らしく映ってしまい、ますますもってヤバイ。

「こっ、これは、さっき怪我しただけだ!」

まさか子狐の寝姿(オプション付き)に鼻血を噴いたとは言えず、勝手に武勇伝を作

り上げて臨場感たっぷりに話して聞かせた。

はじめは疑うように警戒心をむき出しにしていたナルトも、徐々に黒犬の話しに夢中

になって縁側まで出てくる。

「へぇ〜、すごいってば」

感心そうに聞いていたナルトは、そう言ってにっこりと笑った。

そうすると、怒っていた時よりも数倍可愛くて、黒犬は胸を突き破って出てきそうな

心臓をひた隠し、「別に」とクールぶって答える。

「なぁなぁ、名前なんて言うんだってば?」

「人の名前を聞くときは、まず自分から名乗るものだろ」

言い方にカチンときたが、言っていることはもっともだったので、

「俺はナルトだってばよ」

と教える。

「…サスケ」

花のようなナルトの笑みにドギマギしながらも、黒犬はそう答えることに成功したの

だった。

 

※       ※       ※

 

自己紹介は済ませたものの、二匹になにか共通の話題があるわけでもなく、しばらく

無言の時間が続く。

気詰まりになって、先に口を開いたのはナルトだった。

「そういえば、サスケはなんでここにいるんだってば?」

聞かれたくない部分を抉られて、黒犬は一瞬にして凍り付いた。

グキキ、と音がしそうなほどぎこちなく回した目線の先で可愛い子狐がキラキラと眼

を輝かせて答えを待っている。

そうなれば、まさか迷子になりましたと答えることもできない。

彼とて、まだ好きな子の前では格好つけたいお子さまなのだ。

「…散歩の途中で見つけた」

とりあえず、当たり障りのない答えを返しておく。

「ふ〜ん。じゃあ、サスケの家はここから近いのか?」

「…あぁ(多分な)」

自信はなかったが、黒犬は自分に言い聞かせる。

ここまで自分は歩いてきたのだから、そう遠くはないはずだ、と。

だが、これ以上会話をしていれば、いつボロが出てもおかしくない。

何か別の、ナルトの興味を惹くうなものはないかと視線を巡らせた先に、赤い花を見

つけた。

音もなく立ち上がり、その花を一本手折って花びらを二枚ほどちぎる。

「ここ、舐めてみろ」

差し出された花の花弁の奥、雌しべの根元に向かって、ナルトはおそるおそる舌を伸

ばした。

触れた舌先に広がる甘い味。

「甘いってばvv」

嬉しそうに花を受け取って、ナルトが蜜を舐め始めたのを見てから、ようやく安堵す

る。

同じ年頃の同姓とうまくコミュニケーションのとれない黒犬は、戸惑いながらもナル

トの笑顔を損なわずに済んだことにいたく満足した。

ぺろぺろと小さな舌を動かして蜜を舐めるナルトを横目で伺いながら、他に何かない

かと辺りを見回す。

だが、それ以上特別な何かを発見することはできずに、仕方なくナルトへと視線を戻

した。

それにしても可愛い。

なんと表現すれば良いだろう。

子狐が笑うとそこにパッと花が咲いたようで、こちらの気分も明るくなる。

たんぽぽか、ひまわりか。

マリーゴールドも捨てがたい、などと考えていた黒犬の視界に、ナルトの頬が映る。

夢中になって舐めているせいか、頬に花粉がついていることに気づいていない。

「ひゃっ!」

突然頬を舐められて、ナルトは肩をすくめた。

「なっ、何だってば?」

舐められた箇所を手のひらで擦りながら動揺する。

以前、こうして頬を舐められて、妖狐に夜のごにょごにょをいたされてしまったこと

を同時に思い出してしまい、かあぁ〜っと顔が赤く染まった。

ナルトが何を思い出して赤面しているのか察することのできない黒犬は、その反応を

脈あり☆と思いこんで、唐突に頭に浮かんだ言葉をそのまま口にした。

「俺と結婚してくれ!!」

「はあぁ〜っ!?」

あまりにも突拍子な言葉に、思わず気の抜けた叫びがあがる。

ぱちくり、と瞬きをしてみても、ごしごしと目を擦ってみても、黒犬の顔は真剣だ。

真剣すぎてちょっと怖い。

「あの、お、俺、男…だってばよ?」

その言葉を聞いた時の黒犬の衝撃を、どう説明すれば理解してもらえるだろうか。

脳天に雷が直撃したとか、大岩が落ちてきたとか、そういった次元のショックではな

かった。

「お、男…?」

コックリと頷くナルトをよくよく見てみれば、確かに少年のそれではあっても少女で

はありえない体つきをしている。

意気込んで思わず口走ってしまった言葉で、自分は幸せな未来を失ったのか、絶望的

な未来から救われたのか。

とにかく泣きたくなったのは言うまでもない。

「さ、サスケ?」

「あらら、こんなところにいたんだ?」

がっくりと肩を落としてしまったサスケを多少不気味に思いながらも心配している

と、突然背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「あ、カカシせんせー」

多少の知識を隻眼の銀狼から学んでいるナルトは、慕わしげにそう名を呼んでいた。

「や、ナルト☆遊んであげたいけど、今日は遊びにきたわけじゃないからまた今度な

?」

軽くナルトの頭を撫でてから、黒犬の方に向き直る。

「ゲッ!カカシ?!」

引きつった顔をした黒犬の首根っこを軽く噛んでつまみ上げ、

「さて、帰ろうか?」

とさくさく縁側から庭へと降り立った。

「放せ!俺はナルトとっ、ナルトとおぉぉ〜っ!!」

「んじゃね、ナルト。天雷によろしく言っといて☆」

じたばたと前足を動かして暴れている黒犬をさらりと無視して、銀狼はにっこりと笑

いながら去っていった。

遠くから、それでも諦めの悪いサスケの叫びが聞こえていたが、あまりの展開の早さ

に付いていけなかったナルトは、何も見なかったことにしよう、と一人で納得して手

にしていた花の蜜を舐める。

「…ぁぁぁぁああああああああああ!!」

『グシャッ』

タイミングをはかったかのように、なんだか上空から落っこちてきたものがあった

が、ナルトは無視して熱心に蜜を舐め続けた。

 

 

 

 

 

ちなみに落下物の正体は、紅の使役神に上空から叩き落とされた妖狐で。

相手にしない、というナルトの判断はとっても正しかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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