修行の最中、影分身のナルトの一人が、森でうろうろしているサイの姿を見つけた。
様子でも見に来てくれたのかと、少し嬉しく思っていたのだが、いつまでたっても姿を見せる様子はない。
やっぱり、変なヤツだってば、と思いながら、影分身のナルトは再び掌の中にある葉を切ることに意識を集中しはじめた。
リンゴいっこ
軽い音を立てて影分身立ちが次々と消えていく。途端、ナルトはぐったりと身を投げ出した。
「5分休憩っ…」
肩で息をしながらナルトは大の字になって空を見上げる。視界に広がる空は憎らしいほど青く、雲一つ無い。自分の心とは正反対だ。
焦りやいらだちでナルトの心は暗く沈んでいた。まだわずかに葉っぱに切れ目が入った程度だ。こんなことじゃ、サスケには追いつけない。いや、今のサスケに追いつくだけではダメなのだ。
今この瞬間にだって自分たちの差は広がっているかもしれない。
ちくしょう、とナルトは心の中で呟いた。サスケが里を出てから幾度となく呟いた言葉だ。
最後の影分身が消えたところで、ナルトはぴくりと肩を揺らし、起き上がる。今消えたのは先ほどサイを見かけた影分身のナルトだ。ナルトは少しふらつきながら立ち上がると、サイがいた森の方へ歩いていく。
一体サイはなにをしているんだろうか。また変なことを考えている気がする。
森をのぞき込んでみると、サイの姿はみあたらず、リンゴだけが大量に置いてあった。ナルトは思わず眉根を寄せる。10や20とは言わない数だ。いったいこんなにたくさんのリンゴをサイはなにに使うのだろうか。
「…絵、とか」
それにしてもこんなに大量には不自然だ。本当に、本当にわからないヤツだ。ナルトは思わず頭を抱え込む。
カサッと葉が擦れる音がして、ナルトははっと肩を揺らした。視線を向けてみると、そこにはまたリンゴを抱えたサイがびっくりしたような顔をして立っていた。驚いたせいなのだろうか、サイの腕からぼろぼろとリンゴが落ちる。
「あ…」
無表情のままサイは呟いて、落としたリンゴを拾おうとするが、屈んだせいで次々にサイの腕から転がり落ちる。ナルトは呆れたような目をしてはぁ、とため息をつき、地面に転がったリンゴを拾ってサイに手渡した。
「お前何してんだってば?」
「さっき、リンゴ一つしか持ってなかったんだ」
「は?」
「ナルトがさっきいっぱいいたから、今度はリンゴもいっぱい持ってきた。足りるかな…」
きょろきょろとサイはあたりを見回している。もしかして影分身のナルトを探しているのだろうか。
なにか入れ物に入れて持ってくればいいのに、わざわざ両手にリンゴを抱えて、里とここを何往復もするなんてバカだ。
「こんなに、食えねーよ」
ぽつり、とナルトは呟いてサイからリンゴを奪うと、服のすそでごしごしと表面を拭う。大きな口をあけてリンゴに歯を立てると、そのまま歯を立てた。
しゃくっと瑞々しい音がして、リンゴの甘酸っぱい味が口に広がる。
「ん、うまい。お前も食えってばよ」
租借しながらナルトはサイにリンゴを差し出した。
「ボクはいいよ、ナルトに持ってきたものだから」
「お前が持ってきたんだから、お前も食うんだってばよ。それに、オレ一人じゃこんなにいっぱい食えねーもん」
ほら、と言ってナルトはサイにリンゴを押しつけた。
サイは少し戸惑いながらリンゴを受け取ると、ナルトがやったように服のすそでリンゴの表面を拭き、かぶりつく。
「うまいだろ?」
「うん、おいしい」
にこ、とサイが笑った。その笑顔を見てナルトは急に恥ずかしくなる。
「これ、オレ一人じゃ食べきれないから、お前も一緒に食べろってばよ」
ぷいっと横を向いたナルトに、サイは嬉しそうに笑ってうん、と呟いた。