壊れ物を扱うみたいにそっと頬に触れてきた手の感触にナルトは目を覚ました。
ひんやりと冷たいその手の持ち主は一人しかいない。
「カカシせんせ…?」
そう呟いてうっすらと目を開けたナルトに、呼びかけられた人物はその問いかけに答えず笑みを浮かべた。
「起こしてごめんね」
すまなそう表情を浮かべるカカシを見て、ナルトはううん、と呟いた。
謝るくらいなら最初から起こすような真似をしなければいいのに、とカカシは内心苦笑いを浮かべる。けど、どうしても会いたかったのだ。
ちょっと顔だけ見て帰ろうと思ったのに、窓の外からそっと覗いてみたら、今度はガラス越しじゃ物足りなくなって。
ちょっとだけ直に見てみようと窓に手をかけてみたら、からり、と乾いた音を立てて窓が開いた。不用心だなと思いながら、涎をたらしながら眠っている子供を起こさないように、そっと部屋に侵入すると、子供がにしし、と笑う。
その声に一瞬ドキッ、となりながらも、再び寝息を立て始めたナルトに、カカシはほっと胸をなで下ろした。
一体どんな夢を見ているんだか、と思いながらそっとベットの傍に腰を下ろすと、じっとナルトの見つめる。
時折笑みを漏らしながら眠る子供を見ていると、今度は少しだけ触れてみたくなって、カカシはグローブをはずすとそっと子供の頬に手を伸ばした。
ちょっとだけ、ちょっとだけ、と少しずつ欲張った結果、気持ちよさそうに眠っていたナルトの邪魔をしてしまったことに、軽い罪悪感を抱く。
ごめん、ともう一度カカシが謝ろうとする前に、ぼふっと勢いよくナルトがカカシに抱きついた。
「な、ナルト…?」
戸惑いの声を上げるカカシの体を、ナルトはぎゅうっと抱きしめる。
「どうしたの…?」
そう問いかけながら、カカシはナルトの背中を宥める見たいにぽんぽんと叩いた。
「せんせー…すき」
目を閉じて、ふふ、と笑いながらナルトはすりすりとカカシの胸に顔を擦りつける。幸せそうに夢を見ているナルトを見て、カカシは笑みを浮かべた。けれど、ナルトの夢の中にいる自分に少しだけジェラシーを抱いてしまう。
普段、滅多なことじゃ「好き」なんて言ってくれない。その言葉を貰うのに、どれだけ努力をしていることか。
小さな恋人に、こんな風に甘えられて、好きだなんて言われている夢の中の自分が心底うらやましい。
思わず、カカシはぎゅっとナルトの体を抱きしめた。
「んー…?」
ごしごし、と目を擦りながら今度こそナルトが目を覚ました。最初はぼんやりとした目でカカシを見上げ、にこ、と笑っておはよう、と言うカカシにはっとナルトの意識は覚醒する。
「な、何してるんだってば!」
ぎょっと目を剥いて、離れるナルトにカカシは少し、傷つきながらも笑みを浮かべる。
「言っておくけど、ナルトから抱きついてきたんだからね。こう、ぎゅーってさ」
抱きしめる真似をするカカシに、ナルトはカッと顔を赤らめる。
「…っそういう問題じゃなくって、なんでせんせーがいるんだってば!」
こんな夜中にヒジョウシキだってば!と言うナルトに、カカシは苦笑を漏らす。それについては反論のしようがない。それに加えて、にやにやナルトの寝顔を見ていたなんて知れたら、なんて言われるだろう。
もしかしたらしばらく口を聞いてもらえないかもしれないのでそれは黙っておくことにした。
「まぁ、それはいいじゃない。……あ、お前窓開けっ放しで寝るのやめなさいね。今日はたまたまオレだったから良かったけど、変なヤツがきたら…」
「だってさ、せんせー、窓からしかこねぇじゃん」
話を逸らそうと、説教を始めたカカシにナルトが唇を尖らせて呟いた。ぷいっと顔を逸らしているナルトを見て、カカシも思わず黙り込む。
もしかして自分がいつも窓からくるから窓の鍵を開けておいてくれたんだろうか。けれどそれを問うことはしなかった。
照れくさそうに顔を背けてるナルトがそれを肯定しているようなものだったから。
「カカシせんせー、オレ、眠い」
ぶすっとした様子で呟いて布団に潜り込むナルトに、カカシははっとした。
残念だけれど、これ以上ナルトの睡眠の邪魔をする気はない。元々少し顔を見たかっただけなんだから。
「じゃあ、帰るよナルト。ちゃんと窓の鍵はかけるんだぞ」
ぽんぽん、とナルトの頭を撫でると、その手をぎゅっとナルトが掴んだ。
「…せんせーの手、冷たいってば」
「さっきまでずっと外にいたからかもしれないね」
「覗きまでしてたんだってば?」
疚しいことを言い当てられて、カカシは内心ギクリとするがあえて答えずに笑みで誤魔化そうとするが、それは何の意味もなかったようでナルトは呆れたみたいにため息をついた。
「もう、せんせーってばしょうがねぇんだから」
もぞもぞとナルトはベッドの端の方に寄ると、布団をめくってぽんぽん、と空いたところを叩いた。
「オレが、添い寝してやるってばよ…」
そう言ったナルトはすでにうとうとしている。ぽんぽん、ぽんぽん、と繰り返されるそれはきっとカカシがベッドに入るまで続けられるだろう。
「お前は男前だねぇ…」
感心したようにカカシは呟いて、そっとナルトの横に寝そべった。するとナルトは安心したように、すぅっと眠りに落ちていく。
しばらく眺めていると、ころりと懐に入ってきたナルトの体を包み込む見たいに抱きしめた。
ふと、悪戯心が沸く。
するり、とカカシがナルトの服の下に手を差し入れる。
「…っ!!」
びくっとナルトの体が震えて、かっと目が見開かれる。
「手が、冷たいんだってばよ…っ!」
どかっとナルトはカカシをベッドからけり出すと、びしっと指を突きつける。
「カカシせんせーはそこで寝ろってば」
ふんっ!と鼻息を鼻息を荒くして布団に潜り込んだナルトを見て、カカシはあ~あ、とため息をついた。
終