没溺 
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そんなに我慢強い方じゃないと思われがちだが、そんなことはないと自分では思う。
好きな人に初めて好きと告げたのはまだ12のころだ。拙い言葉で思いを伝え、付き合ってと告げたら、上忍になったらね、なんてからかうような言葉を返された。
それを信じて数年。やっと手に入れた大事なあの人。
数年も我慢したのだから少しくらいタガがはずれることなんて見逃して欲しいものだ。
それともため込んだ欲望を全部ぶつけて欲しいのだろうか。後から後から沸いてくるそれは留まることを知らないけれど、そうして欲しいというのならいつだって叶えてやれる準備はある。手に入れて余計にそれは強まったかもしれない。
そんなあの人は未だに何か引っかかりがあるらしいがそんなことには構ってなんていられない。自分が言ったことにはキチンと責任をとって貰わないと。
12の自分が忘れるとでも思ってたのなら、それは考えが甘かったのだ。だからあがいてないで今の状況を受け入れれば自分もあの人ももっと幸せになれる。
なんだかんだで年の差を気にしているようだけど、そんなのは自分だって同じだ。けれど気にしたってその差が埋まる訳じゃない。
それだけはどうしようもないことなのだからいちいち気にするのを止めればいいのにと思う。
あの人がそれを気にする度に自分も否応なしにそれを意識させられるのだから。
オトナの分別がとか、男同士だとか、何かにつけて口にする人の将来のことよりも、もっと自分のことを考えてくれればいいのに。
悩んでる姿も実は嫌いじゃない。それだけ自分のことを考えてくれているということだから。だからいっそ自分のことしか考えられずに溺れまくってしまえばいいとすら思う。
今の自分と同じくらいに。
没溺
「あ…」
遠くを歩いているカカシの姿を見つけてナルトは声を漏らした。その瞬間、無意識にカカシの名前を呼んでいて、自分に気付いて立ち止まったカカシの方へと急いで走っていく。
カカシの傍まで辿りつくとちょっと苦笑いを浮かべられ、もっと忍者らしくしろと怒られたけど早く傍に行きたかったのだから仕方がない。そんなことを言えばきっとまた子供っぽいと笑われるだろうから言わないけれど。
「カカシ先生、このあと時間ある?」
「今日の任務はもう終わったよ。オレの部下はまじめで優秀だからな」
誇らしげに言うカカシに、つい苦虫をかみつぶしたような顔をしてしまう。きっとカカシのことだからイチャパラを読みながらゴロゴロしてばっかりなんだろう。
同じ経験をしてきた自分たちだからこそ、今カカシが担当している下忍たちの苦労が手に取るようにわかる。
けれど、きっとそいつらも口ではなんだかんだ言いながらもカカシのことを嫌ったりはしていないのだろうと思う。そしてカカシもまた。少なくとも今ナルトが見る限りでは嫌ってるようには見えない。
それが少しだけ気にくわない。
カカシが好きでいるのは自分だけでいい、と心の中で思う。猫の額より狭い自分の心にたまに自分でも笑ってしまいそうになる。けれどそんなことができるわけがないのは分かり切ってることだ。だからそれをカカシに言うつもりはなかった。
例え言ったところできっとまたバカだとか子供っぽいとか言われて、年下扱いされるのが目に見えている。
だから絶対にそれは口にしない。
けれど心に芽生えたカワイイ嫉妬くらい、カカシに受け止めてもらうのが道理だとナルトは思う。
「今日さ、先生の家に泊まってもいい?」
少し声のトーンを落として、ナルトはカカシに問いかけた。カカシの身体が一瞬だけぴくりと動いたのがわかった。動揺しているのが目に見えて、そんなカカシが心底可愛い。
泊まって、夜なにをするかなんて決まっていて、それを恥じらうような年でもないだろうと思うのに、カカシはいちいち動揺するのだ。
けれど今は気付かないふり。それをからかうのはベッドの上だけでいい。ベッドの上でからかわれる方が、カカシは好きなのだ。だから今はじっとカカシを見つめるだけだった。
「…いいよ」
少し躊躇って、カカシは返事を返した。ナルトは無邪気そうに笑って、カカシよりも前にでて一楽の方へうきうきと浮かれたように一楽の方に歩いていく。
後ろにいるカカシにはナルトが今どんな顔をしているかわからなかっただろう。カカシが見ているときに浮かべていた無邪気そうな笑顔は消えて、意地悪そうな笑みを口許に湛えていた。
************
「ナルト、お風呂沸いたよ」
忍術書を読んでいたナルトにカカシは声をかけて、タオルを手渡した。
ナルトは忍術書に目をむけたまま「ん」と言ってタオルを受け取っても、まだそれを読み入っている。
こんなときのナルトに何を言っても無駄だというのがわかっているのか、カカシは何も言わなかった。
切りのいいところまで読んでから、ナルトは立ち上がると脱衣所の方に向かっていく。部屋を出るときにぴたりとナルトは足をとめてカカシの方に振り向いた。
「カカシ先生も一緒にはいる?」
にや、とからかうような笑みを浮かべてナルトがカカシに問いかけると、一瞬カカシの顔がカッと赤らむ。
「馬鹿なこと言ってないで早く入ってきなさい」
けれどそれはほんの一瞬でナルトの誘いはカカシの呆れたようなため息とともに一蹴される。そんなカカシにナルトはニシシ、と笑いながら再び足を動かし始めた。
「あ、ナルト…」
「なに?」
カカシに呼び止められてナルトはもう一度足を止めてカカシの方を振り返る。
視界に入ったカカシは何かを言おうとして躊躇っているようだ。
少し濡れた瞳は今すぐにでも押し倒してやりたいくらい情欲に満ちていて。
カカシは無意識なんだろうが、身体全体でナルトを誘っている。
なんてエロい顔をしてるんだ、とナルトは心の中で呟いた。
けれどやっぱりナルトはそれに気付かないふりをする。
きちんと言えばいくらでも与えてあげる。風呂なんて二の次だ。どうせまたあとで浴びるハメになるのだから。
「…ちゃんと肩まで浸かるんだよ」
そんなカカシの言葉にナルトは「子供じゃねーんだから」と笑って脱衣所に向かった。
扉を閉めて、服を脱いだナルトの顔から笑顔は消えていた。
自分がガキ扱いされることが嫌いなのはカカシもよく知っているはずなのに、わざとみたいにガキ扱いするのだ。ガキなのはわかってる。ガキ扱いされることを笑って流せないようじゃまだまだ子供だ。
そんなことを思いながら、あぁ、そうかとナルトは思い当たる。
わざとやっているのか、と。
ガキ扱いされた日は決まって手ひどくカカシを抱いてしまう。濃厚に際限なく。
やめろと言われても、もう無理だと言われても絶対にやめてなんてやらない。
やめてやる必要なんてない。口ではそんなことを言いながらも、腰は振りっぱなしだし、あそこからは垂らしっぱなし、ナルトが自身を抜こうとしようものならきゅうきゅうと締め付けてくる始末。
そっか、と呟いて、ナルトは上半身だけ服を脱いだ恰好で脱衣所を出た。そんな恰好で出てきたナルトに、ベッドに寝転がってイチャパラを読んでいたカカシはぎょっと目を剥く。そんなカカシを気にもせずに、ナルトはその変に放っていた自分のポーチを手に取ると何かを取り出して、ベッドにいるカカシの方へ向かう。
起きあがろうとするカカシを制して上に覆い被さった。ぎしっとベッドが軋む音がする。
「カカシ先生、期待してる?」
ナルトの顔がカカシの顔ギリギリまで近づいて、呟いた。ごく自然な動作でナルトの手がカカシの股間を捉える。軽くさすってやるとあっというまに固くなるカカシのペニスにナルトはくくっと喉の奥で笑った。
「…っ、あ」
ぞくぞくと身体を震わせるカカシから、ナルトはすっと手を離した。そんなナルトに、カカシは物欲しそうな光を瞳に湛えながらも不思議そうにナルトを見つめる。
「はい、これ」
ベットから下りたナルトは小瓶をカカシに手渡した。なに、とカカシが聞く前にナルトがカカシの顎を掬う。なにかとろりとした液体が入っているのを見て、用途がわかったのかカカシがカッと顔を赤らめた。
「オレが風呂から上がる前までに、用意しておいて」
「用意って…」
何を用意しろと言っているのか、カカシにはわかっていた。
「先生のチンコ勃たせて、オレが風呂から上がったらすぐ入れられるようにグズグズになるまで濡らしといて言ってるんだってば」
さらり、と言ってのけるナルトにカカシの身体がびくっと震える。一体今のカカシに自分はどんな風に映っているのだろう。自分としては微笑んでいるつもりだが、もしかしたらカカシには酷く悪辣な顔に見えているかもしれない。
「せめて風呂にさ…」
「一緒に入ろうって言ったのに嫌そうな顔をしたのは先生じゃん?」
風呂に入りたいと言いかけたカカシを一蹴して、ナルトはすっとカカシの顎を撫でながら手を離した。
「カカシ先生はオトナだからちゃんとできるよな?」
少しだけ、ガキ扱いされた嫌味もこめて、ナルトはカカシに囁く。カカシはまだ戸惑っていた様子だが、返事を聞かないままナルトは再び風呂へと向かった。
身体を洗い、ゆっくりと湯船に浸かり、今頃カカシがどんな姿になっているのかを想像する。
なにもしてないなんてことは絶対にない。扉を隔てているというのに、先ほどから微かにカカシの艶のある声が聞こえてくるのだ。
さっきまではシャワーの水音で外の音など全く聞こえなかったけれど、今は時折、髪から水滴が滴り落ちてくる音とカカシの声くらいしか耳に入らない。
正直なところ大分煽られている。脳裏に浮かんでくるのは自分のものを擦って、指で中を弄っているカカシだ。
早くカカシの中に入れてめちゃくちゃに突き上げてやりたいと逸る心を押さえつけてナルトはばしゃっとお湯で顔を洗う。
そのときに立ち上がりかけている自分のものが視界に入った。
微かに漏れ聞こえてくる声と、自分の妄想だけでこんな風になってしまうなんて実物を見てしまったら一体どれだけ興奮するのだろう。好きで好きで堪らない人間の淫らな声を聞いてるのだ。若さのせいだけじゃない。
感極まったような声が聞こえたあと、ひっきりなしに聞こえていた声が途絶える。ナルトは仕方なさそうに、けれど勢いよく湯船から立ち上がった。
ナルトもそれが我慢の限界だったらしい。
「声がデケーんだってばよ…」
脱衣所に続く扉を開けながら、ナルトはぽつりと呆れたよな言葉を漏らして、意地悪そうに笑った。
************
気配を消してナルトはそっと脱衣所の扉を開けた。
声は一度途絶えていたのにも関わらず、脱衣所の扉を開けるとすぐに甘い声がナルトの耳に入ってくる。
そっと覗きこむとベッドの上で身体を丸めて、下履きの中に手を入れて自慰に耽るカカシが視界に飛び込んできた。頬を紅潮させ、瞳はとろんとどこか焦点が合わず理性を失いかけている。
「…ん、あ、あっ、あっ…!」
後ろに回った手が激しく動いているのがわかる。ぐちゅぐちゅと卑猥な音が響いていて、ナルトはごくり、と唾を飲み込んで部屋に入った。けれどカカシはそれに気付かずにただ快楽を追うことに必死だ。
「イッていいなんて、言わなかったってばよ?」
カカシに近づくや否や、ナルトはカカシの下履きの中に手を差し入れ、ぬるつくペニスを撫で上げて指に付いた精液を確かめる。
「下着の中ベタベタだってばよ。先生、気持ち悪くねぇの?」
そう言いながら精液にまみれた指をカカシの口の前につきだした。
「ナル…ふぅっ…」
カカシはつきだされた指を躊躇いもなく口に含む。まるでナルト自身を銜えるみたいに愛おしそうにそれに貪りつき、自分の精液を舐め取った。
「ふ、あっ…ぐぅっ…」
ちゅぱちゅぱとナルトの指に吸い付いているカカシの咥内をぐるりとかき回すとくぐもった声を上げた。口を閉じることもできなくてカカシは口の端からだらしなく涎を垂らす。
漸くナルトがカカシの口から指を抜くが、カカシは物欲しげにその指を見つめる。
「…んな顔してんなってば」
ずるり、と膝のところまで下履きを下げてナルトはカカシの唾液で濡れた指を後ろにそっと忍ばせて割れ目の中を探る。
「んん…っあぁぁっ!!」
孔の周りを探られるのに、むず痒い感じがして身を捩り、今度はぐちゅっと音を立ててナルトの指がカカシのアナルに突き入れると、カカシはあられもない声を上げる。傍にはナルトが渡した小瓶が空になって転がっていた。
「あんな短時間でこんなになってんのかよ」
先ほど口の中をかき回したように、ナルトはカカシの中をかき混ぜる。カカシが感じるところを意図的に避けて、ぐちぐちとわざとみたいに音を立てるナルトにカカシはときおりぴくぴくと体を震わせた。
「あ…っは、あっ…ね、ナル…ト」
カカシがすり、とナルトの股間に手を伸ばした。不意打ちのようなカカシの手にナルトも思わず顔をゆがめる。
カカシは手のひらでナルトのものが形を変えていく様を確かめるみたいに刺激し、硬くなったそれに服の上から口を寄せる。
「…っんなに、欲しいのかよ」
服の上から与えられるもどかしい愛撫にナルトは顔は少し息を荒くしながらカカシに問いかけた。カカシはナルトの股間に貪りつきながらこくこくと頷く。
「じゃあ、先生の口でオレの濡らしてってば」
そう言われたカカシは力の入らない手でナルトのズボンに手をかけてゆっくりとおろす。勢いよく飛び出てきたナルトのペニスにカカシは少し戸惑いながらそれを手にする。
「これが欲しかったんだろ?先生」
おずおずと口を付けるのを躊躇っているようなカカシに焦れたのか、ナルトがカカシの頭を後ろから押さえて、口許に自分のペニスを押しつける。
「んっ…」
しっとりとしたカカシの唇がナルトのそれを口に含んだ。最初は先端をちろちろと遠慮がちに舐めていたが、次第に舌の動きは大胆になり、カカシの口から水音が漏れはじめる。
「カカシ先生…っ」
は、と息を漏らしながらナルトはカカシの名前を呼んだ。カカシは口に銜えたまま上目遣いでナルトを見つめた。普段はマスクで覆われている口を自分のペニスが犯しているのかと思うと酷く興奮する。そしてカカシの挑発するような眼差しがナルトを一気に高ぶらせた。
ぶるり、とナルトは体を震わせてカカシの咥内に精を吐き出した。
「ぐっ…ん…っく…っ」
不意の出来事に、カカシは一瞬咳き込みそうになるが、一滴も漏らすまいとするようにそれを嚥下する。口の端を伝う、飲み込みきれなかった精液もぬぐい取ってぺろぺろと舐めている。
「先生、オレの精液美味しい?」
「ん…っ。おいし…」
恍惚とした表情で、カカシはナルトの問いかけに答えたあと、まだ固いままのナルトのペニスに再び口を寄せようとするが、ナルトがそれを制する。なんで、と縋り付きそうな勢いのカカシを乱暴にベットに押し倒すと、下履きを取り去り、大きく足を広げさせた。
「今度はここにブチこんでやるよ」
言うや否やカカシのアナルにぴとりとカカシの唾液と自分の精液で濡れたペニスを宛う。
「っん…ああぁっ…!」
ゆっくりと入ってくるナルトのペニスの感覚にカカシは声を上げる。漸く望んだものが与えられて、カカシはナルトのペニスをぎゅっと締め付ける。
「…っもっと、弛めろ…ってば」
きついカカシの締め付けに、ナルトは顔を歪める。
「あ、あ、…む、り…っ」
「無理じゃねぇよ、できんだろ…っ」
パチッ、パチッと二、三度ナルトがカカシの尻の横を叩くと、一瞬カカシの中が弛んだ。ナルトはその瞬間を逃さずにカカシの奥へと侵入していく。
性急に腰を進めていくナルトに、カカシの体が撓った。
「あっ、アァッ…!ひぁ…っ!」
びゅっとカカシのペニスから精液が漏れてナルトの腹を濡らす。はぁはぁと肩で息をするカカシに休む暇も与えずにナルトは腰を揺すった。
「…あっ、はぁ、ぁぁっ!」
「入れただけでイッてんなよな…」
まだまだこれからだと言う風にナルトは激しくカカシに腰を打ち付けた。カカシは完全に理性が飛んだ瞳でナルトを見上げると、誘うようにナルトの腰に足を絡めて、もっとと小さく呟いた。
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翌朝、ナルトが目を覚ますと、既にカカシの姿はなかった。
時計を見るともう昼にさしかかろうとしている。自分の任務がないとはいえ、少し怠惰な自分に呆れてしまう。カカシが抜け出したことにすら気付かないなんて不覚だった。
カカシが自分に気付かれないように出て行くところがさすがというところだが。
緩慢な動作で服を着替えながら、ナルトは昨日のことを反芻する。少しやりすぎたかな、と回数の多さやカカシに強いた行為を思いだしてほんの少しだけ反省した。
今日カカシが任務があるのは知っていたのにセーブできなかった。ガキ扱いされたくらいで情けないと思いながらナルトはカカシの家を出た。
朝食兼昼食に一楽でラーメンを食べたあと、明日の任務を確認してからカカシの任務が終わるのを待つ。ふらふらとあてもなく歩いていると丁度カカシが歩いているのが目に入った。
昨日も今日もついてるなぁ、と思いながらナルトはカカシの方に近づいていく。
朝、自分が目を覚ましたときに既にいなかった薄情な人に恨み言を言ってやろうと。そしてどうせだからいきなり現れてびっくりさせてやろうと思いながら。
ナルトは悪戯する子供みたいに笑って歩みを早めた。我ながらこんなところがガキくさいんだと少し苦笑も交えながら。
気配を消してそっと近づいていると、カカシの前にアスマが現れた。熊みたいな体格の男はカカシくらいだったらすっぽり包んでしまえそうだ。ふと、そんな姿がナルトの脳裏を過ぎっておもしろくなさそうにむっとした顔つきになってしまった。
アスマがカカシに気安そうに声をかけて何かを話し始める。ナルトは気配を消したまま二人の会話が聞き取れるくらいの位置にまで移動した。
「いつでも別れる準備はできてるよ」
いきなり飛び込んできたカカシの言葉に、ナルトは大きく目を見開いた。
それが誰を対象として言っているのか、当てはまる人間は一人しかいない。
別れる?
言っている意味がわからなかった。昨夜だってなにもかも尽き果てるくらい愛したのに、まだわかってないんだろうか。
セックスのときはあんなに自分の与える快楽に溺れるくせに、誰が誰を忘れることができるんだと。
目の前が真っ赤になりそうなほどの怒りを感じた。ぶるぶると握った拳が震える。
気配を消したままナルトはカカシの背後に回り込んだ。自分の存在に気付いたアスマがぎくり、とした表情を浮かべてカカシに声をかけようとするが、カカシはそれに気付かず言葉を続ける。
「ナルトが別れたいっていうならいつでも…っっ!」
それ以上は聞きたくなくて、ナルトは後ろからカカシの首を後ろから腕で締め上げた。
「…カカシ先生はさぁ、いつもそんなこと思ってたんだ」
自分でも驚くくらい低くて、冷ややかな声が出た。カカシが身を固くするのがわかる。今どんな顔をしているのか見られないのが残念だ。
「どういうことだよ、センセイ?」
先生、という言葉に軽い嘲笑が含まれる。軽い調子の言葉とは裏腹に、ナルトはギリギリとカカシの首を捉えた腕に力を篭める。さすがにカカシも苦しそうな声を漏らし、ナルトの腕を振り解こうとしたが、敵わなかった。
「おい、あんまり無茶は…」
「アスマ先生は黙ってろってばよ。オレ、カカシ先生と二人で話がしたいから」
見かねたアスマがナルトを落ち着かせようとするが全く効き目はないらしい。
仕方がなさそうにため息をついて「無茶をするなよ」と言って消えた。
だがそんなアスマの言葉もナルトには右から左の様子で、カカシを強引に引きずって人気のない路地裏に連れ込んだ。人ふたりが向き合ってられるくらいの狭い路地だ。
「…っどういうつもりなんだってばよ!別れるなんて、絶対にありえねぇ。フザけたこと考えてんじゃねーよ!」
ぎりっとカカシの胸ぐらを掴み上げて、ナルトはカカシを問いつめる。
碇で頭がどうにかなりそうだ。自分を押さえるのに必死でカカシがどんな苦しそうな顔をしても掴んだ胸ぐらから手を離すことができない。
「…っ逃げ道を、作ってあげてるんだよ」
「逃げ道?」
苦しそうに呟いたカカシの言葉を、ナルトはハッと鼻で笑い飛ばした。
「そんなもん、いらねーよ。オレは逃げたりなんてしねぇ」
まっすぐにナルトはカカシを見つめる。だが、そんなナルトを見ることもできないのかカカシは気まずそうに目を逸らした。
だんっ!とカカシの顔の横に手を付くとびくっとカカシの体が震えた。
「ちゃんと、こっちを見ろよ」
オレのことを見ろよ、と言うようにナルトはカカシの体を揺すった。片手はまだカカシの胸ぐらにあって、まだギリギリと力を篭めている。
今離したら二度と掴めないのではないかという思いが更に力を篭もらせる。
絶対に逃がさない。何年も待って、ようやく手に入れたのに。
「ナルト、落ち着いて…別に今すぐ別れるって言ってるんじゃ…っ」
逃がさないためだったらどんな卑怯な手でも使ってやる。唇でもカラダでも、自分が一番嫌ってる『ガキ扱い』されることももうどうでもいい。
だからカカシにも今更言い訳なんてさせないとナルトはカカシの唇を自分のそれで塞いだ。一方的にカカシの唇を貪っていると、徐々にカカシも自分の舌の動きに応えてくる。
しばらくして、ナルトはカカシの唇から離れた。
「オレは逃げたりなんてしねぇ、そんなこと、先生が一番わかってるだろ?」
声が震えそうになるのを必死で堪えてナルトはカカシを見つめた。それが伝わったのか、カカシは初めてまっすぐナルトの目を見た。
「それにさ、カカシ先生はオレのせいにして逃げたいだけなんじゃねーの?」
うっすらとナルトは涙を浮かべる。
「なんで、オレの思いを踏みにじるようなことすんだよ…っ」
だんっ、ともう一度ナルトは壁を殴った。何度も何度も殴りつけて血が出てきても不思議と痛みは感じない。
「もう、わかったから。…わかってたから。オレが逃げてたことに」
壁を殴り続けるナルトの手をカカシが制した。ところどころ血が出ている手を握りしめてカカシはナルトを見つめる。
「…オレが、どれだけカカシ先生のこと好きか、わかれよ」
締め上げていた胸ぐらから手を離してナルトはカカシの肩に顔を埋めた。こんな自分が弱々しく映ったのだろうか。そっとカカシの手がナルトの背中に回る。
「ごめん、ね」
そう呟いたカカシの言葉にナルトは返事をせずにぎゅっとカカシを抱きしめた。
「ちゃんと、オレもお前のこと愛してるよ」
自分を抱きしめながら言うカカシの言葉にナルトはカカシの肩に顔を埋めたままニィと笑った。嬉しいからだけではない、なにか企んでいたことが思い通りになったかのような笑み。
「じゃあさ…証明してよ。口先だけじゃなくて、さ…」
ズボンのジッパーに手をかけた自分に、カカシが一瞬とまどったような表情を浮かべる。だがカカシは素直にナルトの足下に跪いた。
躊躇いもなく自分のペニスを取り出して口づけるカカシにナルトは今度こそ満足そうな笑みを浮かべた。
ちゅ、くちゅと水音が響く。
「愛してるってばよ、先生」
そう言って悪戯がうまくいったときの子供みたいにぺろりと舌を出してカカシの頭を撫でた。
ガキ扱いなんていくらでもすればいい。そのほうが安心できるみたいだから。そのためならいくらだってカカシの前で「子供っぽい自分」を演出してみせる。
もっともっと、溺れて、いつの日かわけがわからなくなてしまうくらいに。
終
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ナルトに溺れまくりなカカシの話。
2006/10/10
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