Darling's Envy

「おはよー」

 後ろからカカシに声をかけられてアスマはおう、と声をあげながら振り向いた。だが、次の瞬間アスマは銜えていた煙草をぽろりと落とす。

「どうしたんだ、その怪我」

 床に落とした煙草を拾いながら、満身創痍なカカシに問いかける。あちこちに傷を作り、マスクと額当ての代わりに包帯が巻かれ、腕にギブスをはめていた。

「んー…ちょっとナルトにやられちゃったー」

 あはは、とのんきに言うカカシに、アスマの顔が引きつった。仮にも写輪眼のカカシと言われ、ビンゴブックにも名を連ねてる男をここまで痛めつけるナルトに恐怖を感じる。

「…なんかやったのか?」

「寝ぼけて昔の女の名前言ったらボコボコにされちゃったv」

 エヘ、と(本人的には)可愛い笑顔を浮かべて言うカカシには全く悪びれた様子はない。

「そりゃ、ナルトにしてみりゃ気分悪いだろうよ。それにしてもお前は何でそんなにのんきなんだよ、ナルトに嫌われたかもしれないぜ?」

「エー、それはないんじゃない?だってナルト、こんなに殴るくらい俺のこと好きってことだもん」

 自信満々に言い放つカカシに、アスマは呆れた眼差しを向ける。

「…カカシィッ!」

 がんっ!!激しい音を立ててカカシが目の前の床にめり込んだ。いきなりのことに、アスマもカカシから飛び退く。

「まだ話は終わってないってばよっ!」

 床にのめり込んだカカシを起きあがらせ、胸ぐらをつかむとガクガクとカカシを揺さぶった。その場にいた上忍達は、ナルトとカカシから思いきり距離を取っている。

「朝も言ったけど、もう終わったことだって」

 ナルトったら、ヤキモチ焼いて可愛いvなどと言いながらちょん、とカカシはナルトの鼻をつついた。笑顔のカカシが妙にむかついて、ナルトは目にもとまらぬ早さででカカシの顔を拳で殴った。

「ざっけんな!オラァ!そんな問題じゃなくて、起き抜けに俺以外のヤツの名前呼んだって言うのが気に入らないんだってばよっ!」

 叫ぶようなナルトの声と共に、めき、と音がしてカカシの腹にナルトの膝がめり込んだ。うわぁ、と見ている者は思わず目を覆う。けれど、カカシの表情は笑ったままだった。

 間近で見ていたアスマは「あばらが逝ったな」と思いながら煙草に火を付けて二人のことを見守る。

 怒り狂いながらカカシをボコっているナルトと、ナルトの拳をどこかにやけた顔で受けているカカシのやりとりをアスマは止めるつもりはないらしく、素知らぬ顔で煙草を吸っている。関わるときっとろくな事がない。

「だいたいっ、これで何度目だと思ってるんだ?あ?わざとやってんのかテメェは」

 じりじりと壁に追いつめて、ナルトはカカシを厳しく詰問する。どうもこれが初犯ではないらしい。どうでもいいが家でやって欲しいな、とその場にいる誰もが思った。ここにいたらいつ自分に火の粉が飛んでくるか分からない。

「だって、ナルトがそうやってヤキモチ焼いてるの見るの可愛いし」

「つーことはわざとか?わざとやってんのか?あ?」

 すごむナルトに、カカシは可愛らしくうんvと頷いた。そこで再びナルトの拳がカカシの顎に決まる。綺麗に吹っ飛ばされたカカシはそのまま床に沈んだ。

「そのまま寝てやがれ馬鹿野郎」

 床に倒れ込んだカカシに強烈な蹴りを食らわせ、ナルトはどかり、と椅子に座り込んだ。

「お前、アレはやりすぎなんじゃねぇか?」

 床に倒れ込んでるカカシが少しだけ哀れに思えて、アスマは思わず仲裁に入る。あまりにも容赦ない蹴りやパンチは、確実にカカシの怪我を増やしていた。

「最初は俺だってちょっと拗ねるくらいだったけど、毎朝やられてみろってば。いくら俺がカカシのこと大好きでもむかつくってばよ」

 ぎっとカカシのことを睨み付けながらナルトは呟いた。朝のことを思い出すと、怒りに震えそうになるがそれと同時にしょんぼりとナルトは肩を落とす。

「ごめんね、ナルト」

 口から血をだらだら流しながら、カカシが起きあがった。

「ナルトがヤキモチ焼くの可愛かったからちょっと調子に乗っちゃった」

「カカシせんせーのばか。絶対許してやらないってばよ」

 起きあがったカカシからぷい、と顔を背ける。アスマはやれやれ、と思いながらその場を離れた。ここまでくれば二人が仲直りするのは目に見えている。

 すぐにイチャイチャべたべたしまくるだろうから目も当てられないと思いながら他の上忍達も二人から視線を外した。

 当の二人といえば、まだ「ごめんね」「許さないってば」のやりとりを何度も続けている。あほくさ、と呟きながらアスマは短くなった煙草をもみ消した。

「ごめんって、ナルト。どうしたら許してくれる?」

「今日という今日は許さないってば」

 まだやってんのか、とアスマが呆れた目を向ける。いい加減にしろ、外でやれ、と声を掛けようとした瞬間、力が抜けるような言葉がカカシの口から飛び出た。

「じゃぁ、キスしたら許してくれる?」

 おい、と思わず突っ込みたくなるような言葉だったが、ちらりとナルトを見ればまんざらでもないらしい。さっきみたいに即答で「許さない」とは言わなくなった。

「……ほっぺじゃ、だめだってばよ?」

 目を閉じて、んー、と唇をカカシに寄せるナルトに、カカシはちゅ、と口づけた。

 だから、外でやれ。そう思いながらもアスマはなにも言い出すことができないまま二人を放置する。

 少しでもカカシを心配した俺が馬鹿だった。

 はぁ、とため息をつきながらアスマは二人の横をすり抜けてその場を離れていった。



「もう、しょうがないから今回だけは許してあげるってばよ」

 先ほどまでのカカシを殴りつけていたときの鬼のような形相とはうってかわって、にこにことしているナルトはカカシの頬に軽くキスを落とす。そんなナルトをカカシはぎゅっと抱きしめてごめんね、と言いながらちゅっとナルトの頬にキスを返す。







 どうでもいいけどいちゃつくなら帰ってやれ。







 その場にいた全員が心の中で二人に向かって呟いた言葉だった。















こんばんは、彩実です。

コンビニでなんちゃらEnvyとかいうチョコレートを見つけたので勢い余って嫉妬するナルトを書いてしまいました。

あ、ナルトがダーリンですが、カカナルです。嫉妬のあまりあばらが折れる勢いでカカシを攻め責めてしまうナルトがとても可愛いと思います。<ぇ

小説のページに置くには少し短いので拍手お礼文にしてみました。

読んでくださってありがとうございました。


2006/01/25