「ナルトーv」
がしっっとカカシはナルトの背後から抱きついた。ここまでは、日常茶飯事、振り払うのも面倒くさいのでナルトはなにもないようにカカシの事は放置する。
しばらくすりゃ飽きるだろう、と思った瞬間、カカシがすりすり、とナルトの頭に頬を擦りつけた。
「…ナルト、いいにおい…」
ばきっっっ!
カカシが悦には入りながらそう呟いた瞬間、ナルトの拳がカカシの顎を捕らえた。そのままカカシは綺麗に放物線を描いて後ろへ飛んでいく。
「で、アスマ、次の任務なんだけど」
カカシを殴り飛ばしたことをナルトは微塵もなかったことのようにアスマに任務について話しかけた。カカシは倒れ伏しながらも速攻でまたナルトの背後に近寄る。
だが、カカシがナルトに抱きつく前にはじき飛ばされる。こんどは綺麗にナルトの回し蹴りがカカシの腹に決まった。鈍い音が当たりに響き、だれもがカカシのあばらが折れたことを感じ取る。それも2本は軽い。
「俺、明日昼は下忍の任務があるから、明後日に変更な。どっかの馬鹿が絶対遅れてくるだろうし。ばーちゃんには許可取ってるから」
どっかの馬鹿、に多少力を入れつつも、ナルトは淡々と任務内容の変更について話す。
腹を押さえて蹲っているカカシに、アスマは可哀想なものを見る目つきで見てしまう。
「聞いてんのか?」
「あぁ、わりぃ」
カカシを見ていたアスマはナルトの声にはっとする。不機嫌そうなナルトの声に、ぼんやりしていると自分もカカシのようになりかねない。だが、ほんの少しだけカカシが可哀想にも思える。
殴られても、蹴られても、踏みつぶされてもめげずにナルトに求愛している様は、いっそいじらしくも見える。たまに視線を逸らしたくなるほど気持ち悪いが。
「ナルト…痛い」
ずるずるとナルトの回りを這い回りながらカカシがうらめしげにナルトの足にしがみついた。ナルトは無言でカカシを踏みつける。
「いたいって、ナルト…」
カカシに視線を移すことなく、ぐりぐりとナルトはカカシを踏みつけながら、アスマと任務の話をしている。他の忍びがカカシを見る目は哀れみに満ちている。それはなにもナルトに踏まれているからではない。ナルトに踏みつけられて、ほんの少し嬉しそうに顔を弛めてることだ。そんなカカシを見ると、本当に可哀想だなぁと思う。
「…あー!うざいんだってばよ!お前は!」
アスマとの話が終わると、ナルトはげしっとカカシの顔を蹴り上げた。カカシは「あっ」と声を上げて地面へ倒れ込んだ。カカシは上体だけ起きあがり、ひどい、と涙目でナルトに訴えかける。
「ナルトに蹴られたからすりむいちゃった…痛いよ」
ちょこん、とすりむいた掌をナルトの前に突き出した。一体これをどうしろとカカシはいうのだろうか。
「手当てしてv」
「唾でもけてりゃ治るってばよ。ボケが」
けっ、と吐き捨てられたナルトの言葉に、カカシはしょんぼりと項垂れるが、なにか思いついたらしくすぐにぱっと顔が明るくなる。
「ナルトが舐めて?」
「………今すぐ死ね」
カカシの言葉に、一瞬思考回路が止まったものの、ナルトはぼきっと手の関節を鳴らすと、カカシに向かって拳を繰り出した。ぎゃあ、だの痛い、だのカカシの声が響き渡る横で、アスマを始め他の忍び達は二人から目を逸らしている。
ちらり、とカカシを窺えば、やはり少し嬉しそうな顔をしていた。たとえ暴力を振るわれるといえど、ナルトに『構ってもらえる』というのがカカシにとってはとても嬉しいのだろう。直向きな愛だ。それはとても哀れではあるけれど。
「ナル……ト」
しばらくして、力尽きたカカシに漸くナルトはカカシをいたぶる手を止めた。
「ふー…っやっと落ちたか」
ナルトは満足そうに呟くと、カカシの胸ぐらを掴んでいた手の力を緩める。どさ、と音がしてカカシが地面に突っ伏した。ズタボロになりながらも、カカシはナルト、と呟いている。ここまでくるといっそ天晴れと拍手を送りたくなる。
「ナルトォっ!」
と、そこへ事態を聞きつけたのか額に青筋を浮かべたツナデが現れた。
「このっ馬鹿たれが!こんなのでも里の立派な戦力なんだぞ!それをここまでボコボコにして…!何度言ったら分かるんだ、お前は」
「だって、こいつ蹴っても殴っても俺から離れないし」
「減るもんじゃなし、くっつかせておけばいいだろう!お前の個人的な感情でこの人手不足の時に人員減らされちゃたまらないんだよ!わかってるのかい?」
「…わかってるけどさぁ、ツナデのばーちゃんあんまり怒ると皺が増えるってばよ?」
ナルトがその台詞を吐いた瞬間がつんっ!と頭にげんこつが振り下ろされる。
「カカシの手当はお前がするんだよ。でないと、お前にカカシに振り当てられてる任務逝かせるからね」
痛みに呻いているナルトに、救急箱を押しつけると、ツナデは怒りながらその場をあとにする。「女性に対して皺が増えるだなんて失礼なガキだよ、まったく」とぼやいた。げんこつ一発で済ませてやったのだからありがたく思って欲しい。
「あの、ババァ……っ」
自分の怪力考えろってばよ、とツナデがいなくなってもなお、痛みに呻いてるナルトは恨めしげにツナデの消えた方向を見つめた。
押しつけられた救急箱をいっそ投げ捨ててやろうかとも思ったが、ツナデのことだから本気でカカシの任務を自分に回しかねない。そうなれば24時間戦えますかだ。冗談ではない。
「おい」
未だ地面に突っ伏しているカカシを蹴り起こす。
「ナルト…?」
事態が掴めてないカカシは、不思議そうにカカシを見つめる。
「手、出せよ」
憮然とした顔でナルトはカカシに向かって言うが、カカシはぼんやりとしたまま手を出そうとしない。そんなカカシを見てナルトは強引にカカシの手を取った。
その瞬間、かっとカカシの頬が赤らんだ。妙に慌ててるカカシにナルトは気付いていたが、ここまで動揺されると、こっちが恥ずかしくなってくる。
的確な治療を施して、ナルトはぱたん、と救急箱を閉じた。骨をくっつけるのとかはツナデのばーちゃんにやってもらえ、と小さく呟く。
「ありがと、ナルト」
にこにこと、ご満悦なカカシに少し殴りたい、という思いが芽生えるが包帯だらけのカカシを見てほんの少し反省しているのでぐっとそれを堪える。
ツナデの言うとおり、抱きしめられようが頬を擦りつけられようが、とことん無視を決め込めばいいのだけど、どうしてかカカシに限って我慢できない。こうやってぼこぼこにしていつもちょっぴりは胸を痛めるのだ。
「…ごめん、な」
ぽつり、とナルトは呟いた。それは誰にも聞こえないくらい小さい呟きで。
「え?なに?ナルト」
「なんでもない」
顔を覗き込んで聞いてくるカカシにナルトはぷい、と顔を背ける。ナルトの耳が本の少しだけ赤らんでいた。
「ねー、なに?教えてよー」
ねーねー、としつこく聞いてくるカカシに、ナルトの顔が次第に険しくなってくる。
「…しっつけーんだってばよ!」
がしゃーん!!っと音を立ててカカシが窓の外へ飛び立っていく。しばらくするとべしゃ、となにかがつぶれる音がした。
「…しまった」
と、後悔してもあとの祭。向こう2週間ほどナルトはカカシの代わりに任務に出向させられることになったのだった。
※※※カカシ的後日談※※※
「カカシ、お前よーナルトにあれだけやられてんだからちったぁ学習しろよ」
ミイラ男のような風体をしたカカシに、アスマが呆れたようにカカシに言った。けれどカカシは照れくさそうに笑う。
「でも、ナルトが構ってくれるの嬉しいし、それに……」
ちょんちょん、と包帯で覆われた人差し指をくっつきあわせる。気持ち悪いからその仕草はやめろ、とアスマは心の中で呟いた。
「それに、なんだよ」
「俺を殴ってるときのナルト、ちょっと嬉しそうだからいいんだ」
エヘ、とカカシは嬉しそうに呟いた。口元が弛んでるカカシを見て、本人達が納得してるならもうなにも言うまいとアスマは深いため息をついたという。
終