横たわる君の体。
ひっそりと、まるで隠れるように息絶えた君の、抜け殻。
猫
「猫、みたいだよね」
膝を枕にして横たわるナルトの頭を撫でながら、カカシがぽつり、とつぶやいた。
「え?なに?せんせー」
それまで、気持ちよさそうに目をつぶって撫でられていたナルトが、ぱちり、と音をたてて目を覚ます。
「…ナルト、撫でられるの好きでしょ?」
「うん、カカシせんせーに撫でられんのは大好きだってば!」
ふわふわとした髪を撫でながら、ナルトは言った。
愛おしそうに、撫でてくるカカシの手は、とても気持ちがよくて。
「…ほんと、猫みたい」
ごろごろと、好きな人のところにすり寄っていく猫。けれどそんな風に可愛くなついてくるときもあれば、とたんに気が変わったかのようにふいっと去ってしまう。
気を許しているのか、いないのか、分からない猫。
ナルトだってそうだ。好きだという思いを自分に向けてくれるのだとは思う。時折甘えてもきてくれるし、こうやって髪を撫でることにもイヤだとは言わない。
けれど、ナルトには確かに自分には見せない闇や、孤独や、傷があって、それを覗こうとすればふいっと身を交わしていってしまう。
傷を舐めることすらさせてくれないのだ。
「カカシせんせーは、猫はきらい?」
むくりと起きあがってナルトはそのままカカシの瞳を見つめた。吸い込まれそうなくらい蒼い瞳に、自分の情けない顔が写っているのが見えた。
こんな顔をナルトに見られてるのかと思うとちょっと恥ずかしくなって、カカシは小さく笑みをつくった。
「そんなことないよ。猫は、大好き」
「じゃあ、俺がもし、猫になったら飼ってくれる?」
「当たり前デショ。…そうだなぁ、ずっとずっと家の中に閉じこめて可愛がっちゃうかも」
誰にも見せないで、ずぅっと、部屋に閉じこめて。ご飯をあげて、お風呂に入れて、一緒に眠って。
ナルトが猫であれば、それも可能だったかもしれない。けれど、ナルトは紛れもなく一人の人としてそこに存在していて、猫でないのだからそんな風に過ごすことはできない。
「えぇー…それってば、ちょっとウザイかも」
ナルトの言葉がぐっさりとカカシの胸に突き刺さる。心の中ではもっと酷いことを思っていただけにその言葉はかなり痛かった。
「あ、でもさ!それでもちょっと嬉しいってばよ?」
べっこりと凹んだカカシをフォローするように、ナルトはカカシに言葉を投げかける。
「…いいよ、俺もちょっとウザイって思うからさ」
ぷいっと横を向いてすねてしまったようなカカシに、ナルトはどうしよう、とおろおろする。
「…カカシせんせーおこったってば?」
ぽつり、と元気無く呟くナルトの声を聞いて、カカシはちらり、と横目でナルトを見る。
眉毛を不安そうに寄せて、上目遣いで見上げてくるナルトに、カカシはくすり、と笑みを漏らす。
「…怒ってなんか、ないよ」
そう言って今度はナルトを膝に抱きかかえ上げると、そっとナルトの頬に顔をすり寄せる。その仕草こそ、まるで猫のようで。
「…かかしせんせー、くすぐったいってば」
くすくす、と笑うナルトの頬に、カカシは構わず唇を落とす。
「でもさぁ、俺生まれ変わったらカカシせんせーの猫になりたいな」
「さっき、ウザイって言ったのに?」
「…やっぱり、怒ってるじゃんよー。」
「怒ってないって言ってるじゃないの」
ぷぅ、と頬を膨らますナルトの顔を胸に押しつけて抱きしめた。
「…猫に生まれかわったらね、こんなふうにカカシせんせーにずっと、抱きしめてもらうんだ…」
とくとくと、カカシの胸の音を聞きながらナルトは呟いた。
「ナルト?」
「…猫になって、ずっと…せんせーといるんだってば…」
それだけを呟いて、ナルトはかくり、と眠りに落ちた。ナルトを抱えたままのカカシは、まいったなぁ、と思いながらも眠ってしまったナルトの髪をずっと、撫でていた。
「猫、か…」
ひっそりと、まるで誰にも見つからない場所でこんな風に冷たくなっているナルトを見て、そんな昔の話を思いだした。
どんなに心を許していても、死に場所を証さずにひっそり死んでいく猫みたいにナルトは息絶えていて。
「…ほんと。猫みたいだよね」
ぽつりと呟いて、カカシはナルトの躯をもう一度強く抱きしめた。あのときのように髪を撫でて、抱きしめて。
一粒だけ、涙を流した。
終