一緒にいてほしかった。
一緒にいれてとても幸せで、このまま二人で生きていけたらよかったのに。そんなことを思ったときもあったけど、やっぱり、あの人は里の人間だから。
愛してる、と言ったあの人の言葉を利用したのは俺の弱い心。
だれか一緒にいてほしかったから。
『あいしてる』なんてたった5文字の言葉を口にするのは簡単だったから。
愛なんて、俺にはない。
『あいしてる』と言うといつも嬉しそうに笑って、抱きしめてくれて。そのぬくもりが心地よかった。けれどなぜかほんの少し、切なくて胸が痛んだ。
Miniature garden 前編
木葉の里を離れて、小さな家でふたりだけで住んでいた。
ある日突然、里を連れ出された。ここにいてはだめだと、お前を一人にさせたくないんだと、妙に思い詰めた顔で。
きっと九尾のことでなにかあったのだろうとすぐに予測はついた。問いただしてみれば、案の定そんなことで。九尾を結界をはった社に封印するのだという。くだらないな、と思いながらもカカシの誘いに頷いた。
一人にはなりたくなかったんだと思う。だれかと一緒にいたかった。一人にはなりたくなくて。ただ、あいしてるという単語を口にするだけで誰かが傍にいてくれるのなら、いくらでも心のこもらない言葉が紡げた。
たったそれだけのことで自分のためにすべてを棄てた男を哀れにすら思う。自分の故郷も、仕事も、里での地位も全てを棄てて自分なんかといることがどれだけ馬鹿馬鹿しいことなのか、本当にわかっていないのだろうか。
「カカシせんせー」
「なに?ナルト」
ことん、とカカシはナルトの前にココアを入れたカップを置いてナルトの傍に腰掛けた。里を出て、カカシは少しやせたような気がする。
「木葉に帰りたいってば?」
ナルトの質問にカカシの顔が笑顔のまま凍り付いた。ほんの少し、沈黙が流れる。
「…ナルトは俺に帰って欲しいの?」
「そういう訳じゃないけど…」
微笑みながら逆に聞き返してくるカカシの顔がほんの少し歪んでいた。
帰って欲しい訳じゃない。誰かに傍にいて欲しいと思っていたけど、カカシがいなくなっていればひとりぼっちだ。寂しい。けれどあの里には、カカシの居場所があって、自分とこんな風に隔絶された世界で生きていくよりもよっぽど幸せだと思う。それに、傍にいるといいながらも、いつカカシが自分から離れていくかわからない。帰りたいと、言い出すかわからない。
それならばいっそさっさといなくなってしまってくれた方がいい、そう思っていたはずなのにあんな顔をされるとなにも言えなくなってしまう。
「ナルトは、俺のこと好き?」
不安をかき消すようにカカシはナルトに問いかけた。
「うん、大好きだってば」
ナルトは、カカシの問いかけに笑顔で頷いた。これは嘘なんかじゃない。この世にいる誰よりもきっとこの人が一番好きだ。そして、一番可哀想な人。
「じゃぁ、俺のこと、愛してる?」
「……愛してるってばよ」
一瞬の間を置いて、ナルトはカカシの問いかけに答えた。
いつからだっただろうか、こんな風に自分だけが言葉を求められるようになったのは。聞くだけ聞いてカカシ自身はなにも伝えてこない。
好きだとも、愛しているとも、なにも。
ただ言葉を聞いて嬉しそうに笑うだけだった。心を伴わない、形だけの愛の言葉に嬉しそうに笑うカカシの顔にナルトはほんの少しだけ心が痛んだ。
帰してあげよう、と心の中でつぶやく。この人は俺には必要がない人だとそう思ったから。
「カカシせんせー」
「ん?なに?ナルト」
優しい声、優しい笑顔。自分のことを呼ぶその声ももう聞くことがないのだと思うと、どうしようもなく胸が痛んだ。ずきずきと、壊れそうに痛む胸の痛みを感じなかった振りをしてナルトは口を開く。
「カカシせんせー、大好き」
泣きそうなくらい、胸が痛んだ。
続