『愛してる』ものは決して、自分を愛してくれない。
あの人を愛してると言うだけで、あの人はもう自分を愛してくれなくなるような気がして言えなかった。
けれどこれが最後の言葉だから。
あなたに告げる最後の言葉だったから。
愛してると云いたかったんだ。
ArcadiaⅤ
木葉の里を一望できる丘で、ナルトは町を見下ろしていた。
周りには相変わらず暗部が取り巻いていたけれど、最後に見る里の景色をこの目に焼き付けたかった。
「…きれい、だってば」
みんなみんな笑っていて、活気に満ち溢れていて、輝いているこの里が。
決して自分はそこには存在できないけれど。
自分がここにいるだけで、シミができるみたいに黒い感情がぽつりと浮き出ててしまう。
それはこの里で一番醜い感情。
どれだけ、自分と九尾が違うものだとわかっていても、それは里の人間には理解してもらえない。九尾=自分なのだ。町を歩いてるだけで石を投げられたり、すれ違いざまに殴られたりしたのは数え切れないくらいある。
そんなとき、ナルトはじっと下を向いて、なにもなかったような振りをするだけ。
一度、すれ違いざまに殴ってきた人の顔を見たことがあった。その顔は、筆舌しがたいくらい恐ろしい顔をしていて、憎んでいる、とかそういう生易しいものではなかった。
存在すらも認めないと云っているような、そんな顔で自分のことをにらみつけていた。さっきまで、優しい笑顔で子供に笑いかけていたのに、自分を目にした瞬間、一変して恐ろしい顔になるなんて。
まわりを見てみれば、みんな同じような顔をしていた。
活気にあふれてざわめいていた町の姿が、いつのまにか静まり返って、自分の存在だけが、浮き彫りになっていた。
存在を認めないというのに、たしかにそこには存在する自分を憎んでいる感情があって。そのときは、どうやって家に帰ったかなんて覚えていなかった。
あんなふうに見られることは珍しいことではなかったけど、自分がこの里にいるということがこんなにも黒い感情を生み出すのを目の当たりにして、消えたくなった。
存在することが許されないほど憎まれてるからじゃない。この里に、あんな醜い感情を抱かせる自分が。
この里を愛してる。たとえ、その想いが返ってくることはなくても。ここが、俺をそだててくれた里。
俺の大好きな人が、生きていくところ。
「…行こうってば」
まぶしくて活気に満ち溢れた里に背を向けて、ナルトは歩き出した。
未練なんて、ない。
悲しいなんて、思いもしない。
そう思いながらも、心の中はカカシのかでいっぱいで。
あんな顔させたかったんじゃないんだ。
きっと、もっと違うときだったなら。
愛してるって言ったらもっとカカシは喜んだだろう。
そして、伝えられなかった言葉もある。
「…カカシせんせー、大好き」
だれの耳にも届かないくらい小さな声でナルトはつぶやいた。
「…だいすき」
一番、伝えたい言葉だった。
続