ナルトは、知っていたのだと思う。
普段なら、普段なら部屋のソファに座りながらいちゃいちゃして、いろんな話をしたり、たまに悪戯しては怒られたり。そんな日常を過ごしていたはずなのに、その日のナルトはキッチンをうろうろして、なにかを作ったり、牛乳を飲んでみたりと落ち着かない様子でものいいたげにカカシの顔をみつめていた。
「どうしたの?俺の顔になにかついてる?」
視線を感じたカカシは読んでいた新聞から視線をナルトに移して問い掛けた。
といかけられた瞬間、ナルトはは少しだけ怯えた色を瞳に映したが、なんでもないと小さく呟いた。
「ホントは、なにか言いたいことあるんじゃないの?」
ナルトが何かを隠していることは明白で、カカシは新聞を置くとナルトのほうへ向かおうとした。
そんな自分を見て、ナルトは怯えるように顔を引き攣らせた。
「時間だ」
カカシが一歩を踏み出したとき、そんなカカシの前に立ちはだかるように暗部がナルトを取り囲んだ。
「…どーゆー、コト?」
薄々気付きながらもカカシは暗部の面々に問い掛ける。そして、その質問はナルトにも向けられていた。
暗部の合間から見えるナルトは穏やかな目でカカシを見つめていた。
青い目に窺わせているのは、悲しいとか辛いとか、そんな感情ではない。
全てを受け入れて、この異常な事態も理解している瞳。
なんでこの状況に陥っているのか、カカシだけが理解できていなかった。
ナルトのことならなんでもわかっていたはずなのに一番重要なことを知らされていなくて、やり切れないようにカカシは拳を握りしめた。
ナルトは、言わなかったのではなく、言えなかったのだろうと思うとまたそれが切なくてたまらない。
「ナルト…」
たまらずに声をかけると、ナルトは首を振った。
なにも言わないでと言ってるようだった。
「カカシせんせー」
黙るカカシにナルトから声をかけた。見つめたナルトの青い目は潤んでいるように見える。
「カカシせんせーが、俺のこと好きだって言ってくれたの、いつもいつもすっげぇ嬉しかった。愛…してるっていってくれるのも、すっげぇ嬉しかったってば。俺も…カカシせんせーのこと、愛してるってばよ」
ぎこちなく笑ってナルトはそう告げた。その笑顔は今まで見たどの笑顔よりも痛々して、愛おしくて。
「けど、さぁ」
その先に続く言葉を、聞きたくないと思った。
俺は、この里を愛してるってば。
カカシせんせーと同じくらい。
愛してるんだってば。
微笑みながらナルトはそう言ってカカシから視線をはずした。
ナルトのまわりには相変わらず暗部が取り巻いている。そして、ナルトが背を向けて部屋を出ていくと、暗部もまた連なるように部屋をあとにした。
追い掛けようとしても暗部の面々から垣間見えるナルトの後ろ姿が、自分を拒絶しているようで、カカシはその場から少しだって動くことは出来なかった。
そのまま、ナルトの細い肩が震えてることにもカカシは気付かずに、その場に一人立ち尽くしていた。
初めて聞いた愛してるという言葉は、別れの言葉だった。
続