全部
全部壊してやる
お前がいないこの世界なんて
たった一人の子供に守られて安穏としているこんなちっぽけな里なんて
全部壊してやる
もちろん、守られることしか出来なかった自分自身すらも。
全てを。
Arcadia
カカシは丘の上から里を見下ろしていた。
ナルトがいない里はムカつくくらい輝いていて、活気に溢れていた。
それをカカシは冷ややかな目で見つめている。
これが、お前が愛した里だよ?
お前が命を賭して護ったことなんて誰も、なにも気にとめていない。
守られて当然なのだとお前の命の上に胡座をかいて暮らしているこの里が
それが、お前が愛した里。俺よりも、愛した里の、姿。
けれどきっとナルトのことだから活気に溢れたこの里の光景をみれば手放しで喜ぶのだろうけど。
そんな想像をするだけでカカシの胸にはどす黒い感情が生まれた。
喜ぶ姿なんて見たくもない。
この里を愛してるなんて言葉も、二度と聞きたくない。
お前が愛してるなんて言うのは俺だでいいんだよ。
他の誰かに目を向けることも、何かに目をむけることもしなくていいんだよ。
ましてや、俺以外を愛してるだなんてそんなこと、思うことも、言うことも許さない。
けれど、そんなことを口に出して言えるはずもなく、カカシはずっとその言葉を胸にしまったままだった。“大人”としてそれは口にしてはいけないと思っていたから。
しかし、それを口にしてもいいくらいナルトは大人だったかもしれない。
ナルト特有の無邪気さはあったけれどなんの臆面もなく『里を愛してる』と言ったナルトの顔は酷く大人びていた。
もしかしたら、ナルトの方が大人だったのかもしれない。こんな醜い感情を持っている自分なんかよりも。
もし、この胸の内を言葉にしてナルトに伝えていてもナルトはそんあ自分も受け入れてくれただろうと、カカシは思う。それもごく自然に。
自分たちの何かが変わるというのではなくて、ただそんな自分がいるということをナルトが理解してくれるだけということだけれども。
そうしたらこの醜いほどにナルトを愛しいと思う感情は、次第に穏やかになっていっただろうか?
それはもう、問い掛けてもだれも答えはくれない。
問い掛けたい相手はもうこの里のどこにもいない。
カカシの心を照らす存在は、もう…
続