「かかしせんせー、だいすき」
腕を首に絡ませて、軽くナルトはカカシに口付ける。
血の味がするキス。
どれだけカカシがねだっても、決してナルトの方からしてくれなかったキスをする
と、ナルトはするり、とカカシの首から手を離し、床に倒れこむ。
恐る恐る抱きしめるカカシ。
幸せそうに微笑んでるナルト。
がくりと、力無くうなだれた身体は、もうぴくりとも動かなかった。
聞こえないナルトの鼓動が、カカシの心臓より高鳴らせる。
ぎゅうと、力強くナルトを抱きしめた。
もはやまともに言葉つむぐことすら、カカシには出来ない。
「…っ…!」
引きつったような声を漏らしながら小刻みに震えながら首を振り、子供の頭をなでた。
信じない。と心の中でつぶやきながら。
やっと、好きだといってくれたんだ。
ナルトからキスだってしてくれたのに。
これが最後だなんて、信じない。
信じない。
『だいすき』
「ナルトを離すのだ。カカシ」
急に浴びせられる固い声。上層部の重鎮たちがその光景を見守っていた。
「……なぜです?」
やっとの思いで絞り出した声は静かで、怒りに満ちていた。
「今のうちに封印をせねば、九尾が漏れてくるやも知れぬ。聞きいれよ」
ナルトと、自分を引き離そうとするもの全てが許せないと思った。
「ナルトが、決めたことなのだ」
殺されて、なお封印されることを?
ナルトが決めたことっていうよりも、そうせざるを得ない状況をあんたたちがあの
子に事細かに説明したんでしょ?
くっ…と口元を彩る暗い嘲笑。
きっと、ナルトが死ぬことが当然のことだとこの里の人間は言うのだろう。
誰に守られたかも理解しないのだ。
そんな連中に、ナルトの遺体を渡したくはない、けれど。
「わかりました…」
カカシはナルトをいつのまにか回り取り囲んでいた暗部に引き渡す。
ぼそり、とそのときカカシはなにかをつぶやいた。
その声は、誰かに聞こえることは無く。
暗部はナルトを抱え早々にどこかへ消えていく。
「…じゃ、俺ももう行きますんで」
あっさりとした反応のカカシに上層部の面々は少し面食らう。
先ほどナルトを抱きしめて震えていたカカシの面影はどこにもない。
「待つのだ!」
背を向けて歩き出そうとするカカシに一人の老人が声をかける。
「まさか、良からぬことを考えているのではあるまいな?!」
その言葉に、カカシは冷たい視線を投げかける。
感情もなにも持たない瞳を見て、重鎮たちは固まった。全てを憎むような瞳。
この世の全てを見捨てた、空虚な瞳。
「…何もしませんよ?別に。俺が何をしでかすっていうんですかね?」
そう言い捨てるとカカシはさっさとその場を立ち去った。
あの体は、もうナルトの躯じゃない。
ナルトの魂が入っていた器だ。
もうナルトはここには、この里にはいない。
この世のどこにも。
だから。
「すぐ側に逝くから」
先ほどとナルトを暗部に渡すときにつぶやいたせりふをもう一度呟いた。
なんのためらいも無くカカシはクナイを心臓へ振り下ろす。
どさり、と仰向けに倒れると、カカシはどこか遠くを見つめた。
もう力が入らない震える手をそっと空へ手を伸ばす。
そして、何かを握るような動作をした後、嬉しそうにつぶやいた。
「あぁ…迎えにきて、くれたんだね…」
薄っすら瞳に涙を浮かべながら。幸せそうに微笑んで。
ごぼっと大量の血を吐くとカカシはゆっくり目を閉じた。
ねぇ、カカシせんせーどーして?
なんで死んじゃうんだってば。
俺のあとなんか、ついてくるんだってば!
薄れゆく意識のなかで怒り顔のナルトが見えた気がした。
怒っているような、泣いているような、そんな顔。
ナルトはこんな自分を望まなかったのなんて、わかってた。
でも、絶対許してくれるって知ってるから。
わがままな俺でも大好きだって言ってくれるから。
ごめんね。わがままで。
けど、またあの言葉を聞かせてよ。
ナルトのこと大好きだよ。ナルトは?
俺も、カカシせんせーのこと。
だいすき。
終