Smoker



Smoker





「俺さ、ナルトのこと凄く好きなんだけど、ナルトは?俺のこと、好き?」

 いつも眠そうにしてて表情なんて出さない上忍がマスク越しでもわかるくらい照れたような顔をしてナルトへ話しをきり出した。

 ナルトが意外性ナンバーワンだと常々カカシは思っていたけど、次のナルトの台詞は予想できなかった。

 ナルトはいつものような笑顔を浮かべて子供は口を開いた。



「俺ってば、あんたのこと大嫌い」



 言葉を発したあとのナルトはやっぱり、いつもの笑顔を浮かべていて。だけどその目は笑っていなかった。



「だから、カカシせんせーも俺のこと嫌いでいて?」



 ぞくり、とカカシの背中を冷や汗が流れる。まるで、首筋にクナイを突きつけられたときのように生きた心地がしない。

 笑った顔にここまで寒気を感じたことは今までにあっただろうか。

 青ざめているカカシを余所に、やっぱりナルトは微笑んでいて。

「それでも、好きだって言ったらどうするの?」

 長い沈黙のあとで、カカシはそれだけをやっと口にすることができた。途端、ナルトの顔つきが変わる。

「迷惑な、だけ」

 それだけを言い捨てるとナルトはくるりとカカシに背を向けてその場を立ち去ろうとする。

「ちょっ、待っ……」

 引き留めようとするカカシに、ナルトは視線を送った。

 底冷えするような目つきでカカシを睨みつける。それは一瞬のことであったけども、カカシは、その場から動けずにナルトを凝視する。

 一瞬だけ絡み合った視線。ナルトはすぐにカカシから目を背けると再び歩き出した。



 カカシは、それ以上ナルトを追いかけることもできず、その場にただ立ちつくしていた――。











「くそっ……!」

 ナルトは小さくなった煙草を投げ捨てながら毒づいた。滅多に吸うことがない煙草の匂いが鼻について仕方ない。

 煙草を吸うのはイライラしたときだけだ。このところイライラするコトなんて滅多になかったのに。

「あいつがあんなコト言うから……」

 先ほどのカカシの告白に、今までにないくらいナルトはイライラしていた。思い出すとまたむかついてきて、再びナルトは煙草銜え火をつけた。

「こら、未成年が煙草吸ってんなよ」

 背が伸びねぇぞ。

 なんて言われながらぱっとナルトの手にあった煙草を取り上げた人物――アスマがそこに立っていた。

 ナルトから取り上げた煙草を吸いながらアスマはどっこいしょ、と多少おじさんくさいことを言いながらナルトの隣に腰掛けた。

 ナルトと間接キス…なんて思ってるのはアスマだけの秘密だ。

「俺に指図すんなっつの」

 心底イライラしているようにガシガシと頭をかきながらナルトはアスマに文句をぶつける。

 こんなにもイライラしているナルトを見るのは初めてのことだ。ナルトは気づいてないかもしれないが、これまでにないくらいチャクラが乱れている。

「未成年なのは事実だろうが」

 ふぅ…っと白い煙を吐き出す。その煙もやがて空気にかき消された。

「なに、そんなにイライラしてんだ?」

「うるさい」

 ナルトは頭を抱え込んでアスマの質問をはねつける。

「らしく、ねぇぞ」

 ぽん、と頭に手を乗せる。

 ばしっっ!

 乗せた手は凄い勢いではねとばされた。

「…れに…俺にさわんな…!」

 ぎらぎらとアスマを睨みつける目には、確かな殺気が宿っている。

 全身が総毛立ちそうだ。

「…くそっ……」

 だんっと地面を殴りつける。何度も、何度も。

 カカシに言われた一言がこんなにも自分を動揺させている。それが、悔しい。

「カカシにでも告られたか?」

 からかい混じりでアスマはナルトに問いかける。たかだかナルトのひと睨みで腰が引けていたのでは上忍として情けなさ過ぎる。

 ナルトは再びアスマを睨みつけた。

 なにげなく図星を指してしまったことにアスマはぎくりとする。

「別に、その…なんだ…からかったわけじゃ……」

「ないわけねーだろ?」

 地の底から声を出したように低い声でナルトに思わずアスマは距離を置く。

「うぇ…やぶへびじゃねーか…」

「わかってるんだったらさっさとどっかに行けってば…」

 かさり、と再びナルトは煙草を取り出す。イライラが収まらない。

「オイ、マジでやめとけって」

 ナルトがとりだした煙草を再びアスマ取り上げようとするが、素早い動きでかわされて取り上げることができない。

「あーあー…もーうぜぇっつの。邪魔だからさっさと帰れよ」

 アスマをしっしっ…と冷たくあしらう。まぁ、それで引き下がるようなアスマではないが。

 ライターを取り出して火をつけようとするがガスが切れたのかいっこうに灯がともる気配がない。

「火もつかねぇんだし、あきらめろって」

「…火なら、あるだろ?」

 ぐいっとアスマの胸ぐらをつかみ、アスマを引き寄せる。

「うわっ……」

 急にアップになったナルトの顔にアスマは動揺の色を隠せない。

 じじっ…と音を立ててナルトの銜えた煙草にアスマがくわえてる煙草の火が移る。

 ふわり、とナルトの口から白い煙が立ち上がった。

「……な?」

 上目遣いで見上げてくるナルトに、アスマは一瞬くらり、と目眩を感じた。わかってて、こんなコトをやっているのならとんだ野郎だと。

「……俺の理性を崩壊させる気か……」

 ぼそり、とアスマはつぶやく。そのつぶやきは幸いにもナルトには聞こえてなかったみたいだが。

 無防備に目を閉じられるとその場に押し倒してキスをしたくなる。もっとも、そんなことをすればぶっ飛ばされるじゃすまないだろうが。

「カカシのやつに、ばれた」

 ナルトが発した一言にアスマははっと我に返る。

「……そりゃ、また…唐突なことで…」

「あいつが、あんなコトいうから…」



 好きだとか、言うから。

 俺にそんなこと言うから。



 深く煙を吸い込んでふぅ…っとはき出す。

 その白い煙はナルトの複雑な思いをはらんだように白く揺らめいている。

「だからって、煙草に逃げてるんじゃねーぞ」

「わかってるってば…」

 うるせー、とイイながらナルトは煙草の火を消した。

「ポイ捨てすんなよ」

「んなこと、あんたじゃないからしないってば」

 ごそごそと、ナルトはポケットから携帯灰皿をとりだして、そこに吸い殻を片づけた。

「俺のも、入れてくれよ」

「しょうがねーなー……ま、ポイ捨てされるよりましか…」

「あんたも、携帯灰皿くらい持てよな」

 しぶしぶアスマの吸い殻を受け取ってナルトはまだ火のついた吸い殻を灰皿に収めた。

「お前がいるときだけ吸えば問題ねぇだろう?」

「言ってろ、馬鹿」

 げしっとアスマにけりを入れながらナルトは背を向けた。

「おめぇはもう、煙草は吸うなよ?」

「やめさせてみる?」

 顔だけアスマの方を向いて挑戦的にナルトは笑ってみせた。

「まぁ、そのうち、な」

 アスマも、ナルトに背を向けて反対方向へと歩いていった。









「ナルト~!!」

 明け方、がんがんと窓を叩く音でナルトは目を覚ました。

「あぁ…?!」

 不機嫌そうに目を覚ましたナルトの目に映ったのは、カカシ。

「入れてvv」

「いやだってばよ……つーか、なに?」

「じゃぁ、ここでおっきな声で叫んでもいいのかなぁ~?」

「脅す気か、貴様……」

 すぅっと額に青筋が浮かぶ。ナルトはがたんっっ!と派手な音を立てながら窓を開けた。

「ちょっと、言っておこうと思ってね~」

 ごそごそと靴を脱ぎながらカカシはナルトの部屋に侵入する。

「煙草、アスマじゃなくて俺がやめさせてあげるからねv」

「……盗み聞きしてんじゃねぇよ…」

 ふるふるとナルトの手がふるえる。

「じゃ、そーいうワケで俺ナルトのことあきらめないからね~v」

 しゅた、と素早くカカシはナルトの部屋からでると、あっという間に消えてしまった。

「……やっぱり、迷惑なヤツだ…」

 はぁ…とナルトはため息をついてカカシが去っていった窓を見つめる。







 カカシと、アスマ。どっちがナルトに煙草をやめさせられるか、戦いはまだ始まったばかり…・。

 ナルトの苦労はいつまでもつきることはないだろう……。












スレナル。
アスナル風味。          




アスナル風味だけど、なんだかんだでカカシとくっつきそう。
喫煙はハタチになってから。

2004/02/11