………おかしい。
目の前で言い争う(ジャレ合う)サスケとナルトを眺めながら、サクラは首を傾げた。
自分は優秀なサスケ狙いだったはずで。
ドベのナルトは当然問題外だったはずで。
なのに、どうして今視線の先にいるのが、サスケではなくナルトなのか。
「だから、なんでなんだってばよっ!!」
「なんででもだっ!!」
最近ではサスケの様子も変わってきていて。
疎ましく思っていただろうナルトのことを、こんな風に相手にしていること自体が以前では考えられないこと。
「なぁっ、サクラはどう思う?!」
突然こちらを向いたナルトに、それでも表面だけは「さあね」と冷静に答えて。
「僕はサスケに賛成かな」
意地悪く笑ってみせると、ほら。
可愛い顔して頬を膨らませて。
「サクラはいっつもサスケの肩持つってばよ」ってブツブツ言いながら。
それでも次にはニパッと太陽みたいな笑みを浮かべて笑う、あの子。
自然と、見つめる眼が優しくなる。
最初はウザいヤツだと思っていた。
次に、手の掛かる弟みたいに思っていた。
けれど、今は………
* * *
「それじゃ、今日はこれで解散っ!」
カカシの声で、任務の終了が告げられる。
今日の任務は森の中での薬草集め。
季節の変わり目には出てきてすぐに枯れてしまう、ごく短い時期にしか採れない貴重な薬草が数多く芽を出してくる。
知識や情報の類は自分の得意分野であるし、トップであるサスケも当然のことながら知っていることばかり。
足手まといになるのは、当然ナルト。
けれど最近では自分やサスケのフォローが行き届いていて、ナルトのドベっぷりは見事にカバーされていた。
その度に「また借り作っちゃったってばよ」と落ち込むナルトの頭を撫でて。
頬をつついて。
「返すあてなんてないでしょう?」って言えば、ムキになって言い返してくる。
そう、その方が良いよ。
暗い顔よりも、怒った顔の方が何倍も良い。
笑顔が一番なのは当然のことだけれど。
あの子は作り笑いが他の誰よりも上手だから、時々胸が痛くなる。
「はぁ~、疲れたってばよ」
結果には繋がらないけれど、一番一生懸命に任務に励むナルトの疲労度は班で一番。
よろよろしながら帰っていく後ろ姿を見送っていると、手の甲に滲む赤い筋を見つけた。
視線を足に落とすと、案の定足首にも同じようなうっすらとした切り傷を見つける。
藪の中にまで入っていたことを思い出して、同時に上着を途中で「暑いから」と言って脱いでいたことも思い出す。
と、いうことは。
当然、あの上着の下は切り傷だらけで。
無精なナルトが、あの程度の小さな傷を自分で手当てするはずもなく…
辺りを見回して。
サスケが自宅への道を歩き出したのを確認して。
カカシが報告書を提出するために消えていることも確認して。
そっと、後を追う。
「ナルト!」
* * *
「何もないけど、好きなトコに座ってってば」
促されて初めて入った、ナルトの部屋。
一人で住むには広い部屋の中を簡単に見回す。
ベッドの側でボロボロになっている某上忍に似た人形を見つけて、笑いがこぼれる。
どうやらお茶を入れようとしているらしいナルトに向かって「そんなのいいから」と声をかけた。
どうやら自室に自分以外の気配があることに慣れていないらしくそわそわしているナルトに、嬉しさと悲しさがこみ上げる。
誰もここには来てくれないの?
訪ねてくる人はそんなに少ないの?
それとも、自分のテリトリーに他人を入れたくないだけ?
そうだとしたら、僕は特別?
「ほら、手を出して」
世話がやける、と口にすると、気まずそうに頬を掻く。
「こんなの、舐めておけば治るってばよ!」
そんなことを言って、せっかく差し出した手を引こうとするのを許さずに捕まえた。
揺れる、瞳。
眼を合わせたままで、取った腕に舌を這わせる。
傷口をなぞられ、痛みがあったのか、小さな体がビクンッと震えた。
同期の中てせは決して大きい方ではない自分。
その自分よりも小さいナルト。
「なに…すんだってば…っ」
うわずった、声。
動揺している。当然だけれど。
けれど、何でもないことのように、
「舐めてれば治るんでしょ?」
言ってやった。
黄色い上着を硬直したままのナルトの肩から落として。
露わになった肩に口づける。
「サク…っ」
何かを言おうとした唇を、明確な意図を持って塞いだ。
『ラ』の形に開かれたままの唇から舌を滑り込ませ、口腔をなぶる。
経験が多いわけではないけれど。
それでも、気持ちを込めて丹念に口づけた。
くちゅっ、と音が漏れる。
いやらしい………
そんなことをどこか遠くで思いながら、隙間なく重ねていた唇を少しだけ離した。
「ふぁ………あ…」
震える体を抱きしめて、せわしなく呼吸する唇を舐める。
「鼻で息するんだよ」
教えてあげると、コクン、と頷きが返ってきた。
「しても良い?」
だめと言われても止める気はないけれど。
やっぱり相手の同意はあった方が良いに決まってる。
何も答えないナルトの上に改めてのしかかって。
「何も言わないと、しちゃうよ?」
意地悪く囁いた言葉に、意外にも返ってきたのは小さな頷き。
震える小さな手がぎゅっと服を掴んできて、縋るように見上げてくるのが可愛らしい。
やばいな…と思った。
こんなに可愛い顔をされたら、セーブ出来ない。
「理性には自信あったんだけどな…」
少なくとも、明日の任務への影響を考えるくらいにはあった筈。
「え?」
「ううん、何でもないよ。ね、ナルトからキスして?」
何度か瞬きを繰り返した碧い瞳がそっと閉じられ、柔らかな感触が軽く触れて離れていく。
「僕のこと、好きなの?」
「す、好き…だってば…」
「僕も好きだよ」
返したら、元々大きな目がますます大きくなって自分を見返してきた。
「なんだい、その態度。まさか、思ってもみなかったとでも言う気?」
確かに優秀で顔の良い相手が自分のタイプだけれど。
そういう場合の相手には、大抵は抱かれたい、と思うわけで。
抱きたい、なんて思ったのはナルトが初めてなのだから。
「そんな態度を取るなら、一晩かけて分かってもらわないとね」
たくさん、愛してあげるよ?
その言葉の意味を理解していなかったナルトは、迂闊にも再び従順に頷いてしまうのだった。
* * *
「もっ、もぉやら…あっ!ひあぁっ!」
枕を抱きしめ、うつぶせたまま腰を高くあげる淫らなポーズのナルトを思う様突き上げる。
狭い未通だった肉筒は、今は自分の吐き出した精で酷く濡れて、動く度に卑猥な音を立てた。
「そう?こっちはそうじゃないみたいだけど」
「ひゃうぅっ!」
中で回すと、グチュッと熟れすぎた果実をつぶしたような音がする。
深くまで差し込んで腰を揺すると、泣きながら枕に顔をこすりつける。
可愛い………
「ナルト…ナルト、ほら」
頬に口づけ、髪を撫でて、枕を取り上げた。
すがるものを求めて伸ばされた手を取り自分の肩に捕まらせ、足を抱えて繋がったまま方向を変える。
「………っ!」
「ちょっと、きつかったかな?」
与えられた衝撃を受け止めきれず、ナルトの瞳からボロボロと涙がこぼれ落ちる。
ふっくらとした頬を伝うその滴を舐め取って、宥めるためのキスをした。
そうするときつく閉じられていた瞳が開き、自分を見返してくる。
「大丈夫?」
聞けば、頷きが返ってくる。
本当はキツいクセに、ムリして笑おうとするから、悔しくて乱暴に数回揺さぶってやった。
声にならない悲鳴をあげて、ボロボロ泣く。
そう、そうやって、辛いなら泣けば良い。
嬉しい時だけじゃなくて。
辛い時や哀しい時、寂しい時にまで笑うナルトだから。
そんな、ムリをした強さなんて見たくない。
自分が見たいのは、他の人間には見せない…弱さ。
縋って欲しい。
自分だけを頼ってきて。
「ナルト、ナルト…好きだよ」
だから。
自分は、そんな言葉でナルトを縛る。
自分の中にあるコレが、恋愛感情かなんて分からない。
けれど、誰にもこんなナルトを見せたくない。
「ひあぁっ、もっ、もぉ…っ!」
痛みを与えて。
快楽を教えて。
ナルトの体に、直接自分を刻みつける。
泣いてしがみついてくるその手をしっかりと握り返して。
その日は、気絶するまで可愛がってやった。
* * *
マッチ棒が二本は乗りそうなくらいに長い金色をした睫が震える。
ゆっくりと瞼があがって、パチパチと数回瞬きを繰り返した。
「おはよう、ナルト」
にっこり笑って声をかけると、驚いて飛び上がった。
「なっ、なんっ、ぇえっ?」
動揺しているらしいナルトは、おいしそうな体を朝の日の光の下にさらしている。
無防備にもほどがあるのではないか、とサクラは思っていたが、そんなことを言ってやる気は更々ない。
朝からの眼福をみすみす手放すなんてバカのすること。
「さて、と。そろそろ着替えないと任務に遅れるからね」
動揺しているナルトの髪をクシャクシャとかき混ぜて、立ち上がる。
ナルトよりもずっと早く目覚めていたサクラは、すでに身支度を整えていた。
「遅刻しないようにね。あぁ、今日はムリかな…?」
からかうつもりで続けるが、どうも反応が鈍い。
どうやら、まだ惚けているようだった。
まさか、昨夜のことを夢か何かだとでも思っているのだろうか。
あんまり反応がないものだから、悔しくてちょっとだけ意地悪をする。
素早く近づいて、ナルトの顔から10cm未満の超至近距離。
むき出しになっているまだ柔らかい胸を指でたどって、軽く開かれていた唇を塞いだ。
触れて、すぐに離す。
「あれだけ乱れたら、今日は腰が立たないだろう?」
途端に、かぁっと目の前の顔が赤く染まった。
「なっ、サクラがヤりすぎなんだってばよーっ!」
「何言ってるの。もっと、って最後にはすがりついてきたくせに」
ぐっ、と詰まるのは、きっとそれが記憶にあったから。
「僕の背中にすがりついて、抜かないで、って言ったでしょう?」
羞恥心で真っ赤に染まった頬のまま、枕で殴ろうとしてきた手を笑いながら避けた。
体術にはあまり自信がなかったけれど、ナルトの攻撃を受けるほど鈍くはない。
特に今は体のあちこちがギクシャクしているようだから、簡単に避けられる。
「無茶して起き出しちゃだめだからね。ムリ出来るほど、手加減したつもりはないから」
いい子で待ってなさい、と再び触れるだけのキスをすると、もみじのような手が昨夜と同じようにギュッと服を掴んできた。
何かを言おうとして、躊躇うその仕草が、可愛らしくて憎らしい。
まだ遠慮するの?
まだ躊躇うの?
昨夜あれだけ教えてあげたのに、ちっとも伝わらないんだから。
「ほら、ちゃんと言って」
突然の言葉に驚いたみたいだったけれど、それでもナルトは一生懸命にその言葉を言おうとする。
「き、今日も…あの………」
そこで再び言いよどむ。
じれったいったらないけれど、ここで自分から言ってしまっては意味がない。
ナルトが、自分の言葉で言えるようにならなければいけないことだから。
「任務…終わってから………来てってば」
小さな小さな声だったけれど、確かに聞こえたその言葉。
「よく言えたね」
小さな体を抱きしめて髪を撫でる。
どうしてそうされているのか分かっていないナルトは、不思議そうな顔をしていたけれど。
そう、この言葉が第一歩。
自分に依存させるために。
自分が言わせたその言葉。
「ナルトが望むなら、いつでも来るよ?」
寂しいって言って。
哀しいって言って。
辛いって言って。
そうして強く、欲しいって言って。
求めて。
もう、自分なしでは生きていけなくなるくらいに。
恋?
愛?
それともただの独占欲?
ソレの正体が何でもかまわない。
ただキミがボクを求めてくれれば………
終