すやすやと天使のような寝顔を浮かべて眠っている子供が独り。 ぱちり。と目を覚ました。
お昼寝から目が覚めたナルトはキョロキョロあたりを見回す。
「かーち?おとーしゃん?」
いつもは必ずどちらかが傍にいるのに、今日はいない。
ひょこ、とナルトは起き上がると隣の部屋を覗いてみる。
そこには仲良く(実際には険悪に)おしゃべり(罵り合い)しているカカシと四代目の姿。
なんだか仲間外れにされたみたいで。
「とーしゃんもかーちもあそんでくえないってば…」
しゅん、落ち込むナルトの頭にぱっと良い考えが浮かんだ。
「…おそとにあそびにいくってば!」
そうナルトは決めるとさっそくお出かけ用の赤い帽子をかぶって外へと出掛けて行った。余談だが赤い帽子は四代目の趣味である。
上機嫌で外へと飛び出したナルトはカカシや四代目から言われた約束をポーン
と忘れていた。
約束とは『ひとりでおそとにでかけないこと』
ナルトがいないことに全く気付いてない二人が、そのことに気付いたらどれだけ取り乱すか見物である。
そんな二人はやはりお互いを口汚く罵りあっているのだった。
うんめいのはにー
ふらふら歩いているとナルトは公園へとたどり着いた。
人気はない。
一通り滑り台やブランコ等の器具で遊ぶとナルトは砂場で高い山をつくろうと一生懸命砂を固めていた。
…とそのとき
「おい!ここでなにしてる?」
突然後ろから聞こえて来た声にナルトはびっくりして後ろを振り返る。
そこには黒い髪をした少年が立っていた。 年はナルトと同じくらいだろうか。
「なにをしているかきいてるんだ」
なんだか怒っているみたいな口調にナルトは首をかしげる。
「なゆと…おやまつくってるんだってば」
「なゆと?それはおまえのなまえか?」
「うん!うじゅまきなゆとっていうのー!」
にこっと笑うナルトの顔に黒髪の少年はズキューンとハートを打ち抜かれる。
「おれはうちはさすけだ」
「さしゅけ?」
「ちがう!さすけだ!」
「す」がうまく発音できないナルトにサスケが速攻で間違いを正そうとする。
「…さしゅけ…?」
「すだ!さすけ!このうすらとんかち」
「さしゅ…さしゅ…け…」
なかなかサスケと言えないナルトはだんだん瞳に涙が溜まってくる。
「もうさしゅけでいいっ!!」
「…さしゅけ!」
「なんだ?」
「さしゅけも一緒におやまつくってくえゆ?」
にっこりと天使のような笑顔でナルトは問い掛ける。
ぐっとサスケは鼻から熱いものが吹き出しそうになるのを我慢して赤くなったままコクリと頷いた。
「しょうがないからつきあってやる。ところでおまえ、おやはどうしたんだ?」
サスケの問い掛けにナルトはしゅんと肩を落とした。
「おとーしゃんなゆととあしょんでくえないの…」
そんなナルトの仕種にどきっと胸を高鳴らせるサスケ。
とある決意を心に固め、ナルトに向かって高らかと言い放った。
さて、ナルトが一人で外へ出掛けてしまったことを全く気付いていない馬鹿2人は延々罵りあいを続けている。
「だいたい、アンタは過保護すぎるんですよっ!」
と、カカシ。
「アンタ?!誰に向かってそんな口聞いてるのかな?…殺すよ?」 と四代目。
「ぐっ…と、とにかく四代目はおとなしく公務をこなしてください!ナルトの面倒は俺が見ます!」
だっとカカシはナルトが昼寝をしていた部屋へと駆ける。
「させるかっ!!」
ガタガタ音をたてるながら二人はナルトの部屋を目指す。バタン!と激しく扉を開けるとふたりは大声で叫んだ。
「ぎゃーっ!!」
もぬけの殻の布団をみてあたふたとあわてふためくカカシと4代目。
もしや誰ぞに連れ去られたのでは…という不吉な考えがふたりのあたまを過ぎった。
「け、警察に電話を!!いや、暗部を呼べーっ!」
めちゃめちゃ職権乱用な四代目の台詞にカカシは直ぐさま部屋を飛び出ようとした。 と、そのとき
「たやいまー!」
元気なナルトの声が外への扉から響いてきた。
「な、ナルトぉぉ!」 ものすごい勢いでナルトに駆け寄るナルト馬鹿2人。
「どこに行ってたの!…こんな泥だらけになって…!」
ナルトにはゲロ甘な四代目にはめずらしく、ちょっとだけ恐い顔をしてナルトを怒る。
「こうえん、だってば…」
大好きなお父さんの顔が恐くて、ナルトは少しいい難そうに、公園に言ったことを告げた。
「一人でお外にいっちゃダメだって言ったよね?」
一段と怖い顔になった四代目に、ナルトの顔が歪む。
「うえっ……らって…」
ぼたぼたナルトの目から涙がこぼれ落ちる。
「あぁぁ…!ごめんね、泣かなくていいからね~!」
泣いてしまったナルトに慌てて、四代目は笑顔を作る。
「ダメですよ~なかしちゃ。…ナルト、おいで?」
にっこりとカカシはナルトに向かって両手を広げた。
「…かーち!!」
ずずっと鼻をすすりながら、ナルトはカカシに飛び付いた。
ときどきカカシの服で鼻水を拭いながらナルトはすすり泣く。
「ナルト、泣かなくていいからね~?ほら、お顔上げて?」
「う?」
ぐしっと鼻をすすりながらナルトは顔を上げる。
その顔は涙と鼻水でぐしょぐしょだった。
「…四代目、ティッシュ取ってください」
カカシのその言葉に、四代目はおとなしくティッシュをカカシに手渡す。
「ナルト、お鼻ちーん、しよっか?」
カカシはナルトに鼻をかませる。ちーん、とナルトはおとなしくカカシの言うことに従った。
「ハイ、きれいになった。…ねぇ、ナルト、どうして一人でお外に行ったの?」
ん?とカカシはナルトの顔をのぞきこむ。
「…おとーしゃんと、かーち、お話ししてたから…」
「ナルトが一声かけてくれたら一緒に行ったよ?」
「…めんなちゃい…」
しゅん、とナルトは怒られたと思って少しうつむく。
「今度からは、俺にちゃんと声をかけるんだよ?」
「かーちといっしょにこうえんでおすなあそびしたいってば!」
にっこり、とナルトが笑うと、カカシはでれっと顔を崩す。
カカシがでれっとした瞬間、四代目はナルトをカカシの腕から奪いとった。カカシは恨めしそうに四代目を見つめる。
「ナルト君、公園で何して遊んだの?お父さんに教えて?」
にっこり、と四代目がほほえむと、ナルトもにっこりと笑った。
「んとねー、おすなでおやまつくったんだってば!」
こーんなおっきなの!と言ってナルトは大きく手を広げた。
「そんな大きなお山つくったんなら、大変だったでしょ?」
「さしゅけがいっしょにおやまつくってくれたってば!」
にっこりと笑って言うナルトに、ぴしっと大人二人が固まる。
「さしゅけ?…って誰かな~?」
にこり、と笑う四代目の目は笑ってない。
「…もしかして、うちはサスケじゃないですか…」
「うん!!さしゅけ、だってばよ!」
にぱっとナルトは笑う。そして。
「なゆと、さしゅけのおよめさんになるってばー!」
爆弾発言を投下した。
「な、なにぃっ?!」
あまりのことに開いた口がふさがらない四代目とカカシ。
「あの…うちはのクソガキどもが…っ!!兄弟そろって僕のかわいいナルト君を……!」
笑顔には似つかわしくない汚いせりふを吐く四代目。
「危険な芽は、つぶしておいた方がいいと思うよね?カカシ君?」
「同感です、四代目」
さっきまで険悪だった二人がにっこりと手を取り合っている。
「ナルト、すぐ戻ってくるからいい子にしてるんだよvv」
「お外にはでかけたらだめだからね?ナルトくん」
それだけを言うと二人はどろん、と煙のように消えた。
「へんなかーちとおとーしゃん……」
こすこす、と眠くなってきたのかナルトは目をこする。
とてとてと足音をたてながら布団へと駆けていった。
そのころ、四代目とカカシに命をねらわれているとは知らないうちは兄弟はというと、
「なんだ、泥だらけだな」
「にいちゃん、きょう、おれはうんめいのはにーにであった!!」
「ほぅ。どんな子だ?」
サスケがハニーというくらいの人物にイタチは興味を持つ。
「うじゅまきなゆとといってすごくかわいいんだ!!けっこんのやくそくもした!」
「なんだと?!」
ナルトの名前にぴくり、と表情を曇らせる。しかも結婚の約束をしたとあっては……見逃すわけにはいかない。
「残念だな、ナルトは俺と結婚するんだよ」
「なゆとはおれとけっこんするんだ!おっさんはひっこんでろ!」
などとほのぼのに兄弟げんかを繰り広げていた。
この兄弟の運命は……もしかしたら風前の灯火かもしれない。
ナルトはそんなこともしらずにすよすよと幸せそうに眠っているのだった。
終