あの人から、俺の記憶を消してしまいたい。
Liar
「好きだよ、ナルト」
囁かれる言葉に、ナルトは痛みを感じる。
いつまで、この人は言い続けるのだろう。
ちらりとナルトはカカシを見上げた。ぶつかり合った視線に、ナルトは慌てて目を反らした。
この目を見てはいけないとナルトの心が叫んでいた。
言ってはいけない言葉を言ってしまいそうだったから。
「好き、だよ」
なにも言わないナルトにカカシは再び言葉を繰り返した。
ずきずきと痛む心を持て余しながらナルトはぐっと手を握り締める。
「…俺は、きらい…」
うつむきながらナルトはぽつりとつぶやいた。
「きらい…」
ナルトは言い聞かせるようにきらい、と繰り返す。カカシの目を見ることが出来ないまま。
感情に動かされてはダメなのだ。
「ナルト…俺の目を見て言ってみてよ?」
促すようなカカシの言葉に、ナルトはつい顔を上げてしまう。今どんな顔をしているかわからない。
「…っ!!」
耐えきれなくなってナルトはとうとうその場を駆けだした。走って、走って、走って。
全速力で走り抜けて。
息が切れる頃には家にたどり着いていた。
一直線にベットに直行して、布団を頭まですっぽりとナルトはかぶった。
きっと、あの人が見ているから。
あの人の前では
泣いたりなんて出来ない。
涙なんて、見せれない。
俺も好きだなんて、死んでも言えない。
俺のことは、もう、忘れてください。
神様は、どれだけ意地悪なのでしょう。
たった一つの望みもかなえられないまま。
一言だって、伝えることが出来ないまま。
「…ナルト…好きって、言ってよ」
ずっと、逃げてたのに、今日に限って先回りされて。
家の前でナルトはカカシに捕まっていた。
「…だから…」
「また、俺の目を見ないの?」
責めるようなカカシの声にナルトは、唇をかみしめながら視線をカカシの方に向けた。
ナルトがカカシの目を見ると、カカシは柔らかく微笑んだ。
泣いてしまいそうだと、爪が食い込むほどナルトは拳を握る。
「…好きだよ。ずっと、俺と一緒に生きて」
無理なんだと、心の奥でつぶやいた。
一緒に行きてくことなんて、無理なこと。
できないんだ。
俺だって、出来ることなら一緒に生きていたい。
「…ナルト、は?」
いつもだったら、ここでナルトは目をそらしながら「きらい」だとつぶやく。
だけど今日は違った。
しっかりとカカシの目を見つめながら、ナルトは口を開いた。
「……きらい、だってば。カカシせんせーなんて、だいっきらい」
ばっと、ナルトはつかまれていた手をふりほどいた。
「じゃ、俺疲れてるからもう…帰ってってば」
呆然と立ちつくすカカシに背を背けて、ナルトは部屋へと入っていった。
ぱたん、とドアを閉じると同時に、ナルトはその場にへたりこんだ。
好きだといったカカシの声が、忘れられない。
嫌いだと告げた自分の声が、信じられない。
未だにドアの外に立ち続けるカカシの気配が痛くて、痛くて。
今すぐドアを開けて
好きだと言ってしまえたらどんなに楽だろう。
あの人が、俺のことを嫌いになってくれたなら。
なんにも思い残すことはない。
やがて、カカシの気配が消えた頃、滝のようにナルトの目から涙があふれてくる。
こらえようとしても、止めようとしても。
いくらぬぐったってあふれてくる涙。涙。
「……きだ…ってば…」
誰にも、きっと聞こえることはない、言葉。
「…カカシ、せんせ…すき……ぃっ……ふっ……ぅっ」
あふれてくる涙と一緒に出てくる言葉をナルトは止めることが出来ない。
あの人が、好きで好きで、好きで。
あの人があんな風に笑ってくれるから。
俺は、痛くてたまらない。
俺のことなんて、もう忘れて。
明日にはもう、いなくなってしまう俺のことなんて。
終