全てを捨てて、会いに来ることも許さない。
子供が、最後に残した言葉。 それは生きて、という意味だったのか――。
Sky Word
ざぁざぁと外は雨が降り注いでる。カカシはふとその雨の音で目を覚ました。
かつて、隣にあったぬくもりは今はもう、ない。
こんな、雨の日だったかな、とカカシは無気力に思い出す。
忘れたくても、忘れられない。
忘れるコトなんてできない。 笑顔を浮かべて死んでいった子を。残酷なくらい無邪気な笑顔で死んでいった子を。
ばいばい、って。まるでこれから死ぬことを全く感じさせずに、逝った子を。
会いに逝くことすら、許さないと、言った子を。
いつになったら、許してくれるんだろう。
さぁ…っと、雨が小雨に変わった。 今のウチにでかけるか、とカカシは傘を持って外へ出る。
ぶらさげたビニール袋にはあの子の大好きだったカップラーメン。
週に一度、カカシはこうやってナルトの墓へ出かける。
それはひっそりと人目から隠れるように立っていた。
「…きたよ、ナルト」
うっすらと笑って、カカシは墓石に話しかける。こと、とラーメンを置き、カカシはしばらくその場に立ちつくす。「まだ、だめなの?」
帰ってくるはずのない疑問をカカシは投げかける。
「…俺、もう、限界だよ?」
振り絞るように問うた言葉は雨の音にかき消される。
さめざめと降りしきる雨は、まるでナルトの涙のようで。
「答えを、くれないんだね」
墓石は、沈黙を破らない。
「……また、来るよ」
くるり、とカカシは墓石に背を向けた。来た道を引き返す。
雨の日は、嫌いだ、とカカシは心の中でつぶやいた。
こんな風に曇った空は、もうあの日だけでたくさんだ。
俺も、一緒に逝ってもいい?
ダメだってば。
全てを捨てて、会いに来ることも許さない。
ばいばい。
にっこりとナルトは微笑んだ。かくり、とその身体から力が抜け落ちる。
許さないと言った口元が、笑っていた。本当に幸せそうに。
ふと、小雨が降る空をカカシは見上げた。
そこには、どんよりと曇った空だけがあるはずだった。
そこには。
曇り空から少しだけのぞく青い空。
ナルトの瞳の色。
あまりにも驚きすぎて、数分その場に立ちつくして、青い空を見つめた。
そして、はじかれたようにカカシは傘を投げ捨てると、濡れるのもかまわずにナルトの墓へ急ぐ。
ナルトの墓につくと、そっと、ナルトの墓にふれる。
「会いに、逝ってもいいの…?」
カカシせんせー。泣き虫だってば。
俺、ちっとも安心してられないってばよ。
だから、会いに、来て?
そんな声がどこかから聞こえた気がした。
雨は、いつの間にか上がっていて、空は青く晴れ渡っていく。
なにも、ここには残さずに、全てをそこに持って行くから。
許してくれて、ありがとう。
そっと瞳を閉じればそこには俺の大好きな君の笑顔で待っていてくれてるんだよね?
終