あいして



全部、命さえもいらない。ただあなたが欲かった。





復讐のために偽りの愛を囁いてくるあなたでも。











あいして











偽りの愛だと知っていた。復讐のために俺に近づいたことも。

唯、誰かに抱き締めてほしくてあなたの嘘のやさしさを手に取った。

最初はそれだけだったのにみるみる俺はあなたにハマって行って。





抱き締められて好きだと、『愛してる』と囁かれるとついホントのことのように思えてしまって。



そんなコト、あるはずがないのに。

偽物のあなたの笑顔がまるで本物のように思えて。





ふるふるとナルトは自分の考えの甘さを否定するかのように頭を振った。

「わかりきってること、だってばよ」

思い切りよくナルトは駆け出した。

目の前に愛した人を見つけたから。

「カカシせんせー!!」

先程まで悩んでいた様子をおくびにもださず、ナルトは笑顔でカカシに駆け寄り、後ろから抱きつく。

「ナルト…もう少し忍者らしく現れなヨ?」 苦笑して頭を撫でてくるカカシがナルトはとても好きだった。

「だってせんせー気配隠してもスグ見つけるから意味ないじゃんか!」

かわいらしく口を尖らせるナルトに口元だけ小さく微笑む。

こんな穏やかな気持ちになれたのは一体いつ頃だっただろう。

心から愛しいと思ったのは。

もしかしたら最初から愛していたかもしれない。

愛おしくて、ナルトのどんな仕種にもいちいち微笑まずにはいられない。

「ね、ね、せんせー!」

にこぉっと笑ってくいくいとナルトはズボンをひっぱる。

「ダーメ!!今日は上忍の先生たちと話し合いがあるんだから」

きっとラーメンが食べたいといいだすのであろうナルトにカカシは釘を刺す。

「ちぇー…ラーメン奢ってもらおうと思ったのに…」

やっぱり、と思いながらカカシは苦笑する。

「…明日おごってあげるから、今日は家で待っててヨ」

ぽすぽすとナルトの頭をなでる。

「うん!わかったってば! 絶対だかんな!!」

「ハイハイ」

「じゃ、俺ってば修業してくるから早く帰って来てってば!」

ぶんぶん手を振りながらナルトはカカシの前から素早く走り去った。















ざーっ……。

昼間、明るい空の色をしていたのに、夕方になり、灰色にそらは曇り、雨が降りだしてきた。

予報によれば夜には止むらしいのだが、もしカカシが帰るときに雨が降っていてはいけないと思い、ナルトは傘を持って家を出た。直接カカシに渡すことはできないけどそっと入口に置いて手紙を貼っておけば大丈夫だと思って。

カカシにはもちろん、ほかの上忍にも気付かれないようにそっと入口に近寄ると傘を立て掛けて帰ろうとした。







「…どういうつもりなんだ?カカシ」

険を含んだアスマの声にナルトはぴたりと立ち止まる。

「ナルトのことは言わせとけばいいよ」

カカシの静かな声。

自分の名前が出たことにどきっと胸を高鳴らせる。

「復讐のためなんだって?上忍の間で噂が広まってるぞ」

「らしいね」

来るんじゃなかったとナルトは心から思った。

ぎゅう…と服の裾を掴む。

「どんな形でナルトに話が伝わるかわからないんだぞ?」

「ああ。いいんじゃないの?」

その場にはもういられなくて走って、走って息が切れるまで走った。

バタバタと慌ただしく家に帰るとげほげほと咳込みながら玄関にうずくまる。







解ってたけど、知っていたけど。







もう少しくらいは幸せな夢をみたかった。





息を整えると、ナルトはふらふらした足取りでベットへ向かった。







もう眠らなきゃ。この世界では甘い夢なんて見れない。

ベットの近くの引き出しをあけて、ナルトは白い錠剤をとりだしてありったけ口に詰め込む。

強力な睡眠剤だった。

しだいに強烈な睡魔がナルトを襲ってくる。











ナルトが駆け出した少しあと、カカシは先程の言葉の続きをアスマに告げていた。

「ナルトには…俺から真実を話すよ。最初、復讐のためにナルトに愛してるって告げたコト。そして…今は心から愛してるってコトを」

「くっせぇヤツ…ま、ようやく雨も止んだし早く帰ってやれよ」

ぽん、とアスマはカカシの背中を押すと、先に部屋を出ていく。 柄にもないことを言ってしまって、カカシは誰もいなくなって照れたように頭を掻いた。

「オイ」

ぬっとドアからアスマが顔を出す。

「まだいたの?脅かさないでよ…熊かと思った」

そんなカカシの言葉にむっとした表情をアスマは隠すことはなく、仏頂面のままカカシにずいっと傘を突き付けた。

見覚えのあるその傘は…

「ナルトからみたいだぜ」

手紙と傘を受け取り、カカシはまず手紙に目を通した。

『カカシ先生へ

雨が降ってるから傘持ってきました。邪魔したらまずいから置いて帰るってば』

みみずが這ったようなキタナイ字。

カカシはその手紙を見て顔を綻ばせる。

「うわ、キショ!!テメーのそんな顔初めて見たぜ」

「うるさい。俺は帰るからな」

しゅっとアスマにクナイを投げ付け、カカシは窓から慌ただしく出て行った。

雨はもう上がっていた。







歪められた真実を聞いた子は。

すでに深い夢のうちに落ちようとしていた。







嘘でもいいからなんて。嘘。





 目を閉じれば闇。

 聞こえてくる声なんて何もない。







 愛して。

 愛して。







 あいして。







 ただあなたが欲しかっただけ…。







「あいして……」

 深い眠りに陥るまで、一言心からの声を発した。

 そして、一筋の涙も流れた。









 月明かりだけがナルトを照らしていた。















 







 ナルトの家の前に一人の男が現れた。

 ノックをすべきか、迷っていたようだが男…カカシはそのままドアノブに手をかけた。

 かちゃり、とドアノブをまわした。





 

 なんて話を切り出そう。

 きっと、ナルトはオレ入ったら、笑顔で迎えてくれるのだろう。

 それが楽しみで仕方ない。









 静かにドアをあける。

 きっとそこには、愛しいナルトの笑顔があると思って。







「ただいま、ナルト」













 















死にネタ。痛いので注意。    

        

ナルトを見てカカシはどんな反応をするんだろうか。

2003/04/14