「ねぇ、俺がこんな里滅ぼしてやるから、考え直してよ」
ダメ、そんなこと出来ない。俺、この里を守りたいんだ。
「じゃぁさ、二人で逃げちゃおうよ」
それも出来ないんだってば。
「だったら、俺も一緒に連れて逝って」
それが一番無理な話。
「イイヨ、ナルトが死んじゃったら、勝手に着いて逝くから」
そんなこと、させないってば。
「え?」
大丈夫『スイッチ』を切り替えるだけだから
ナルトはにっこり笑ってカカシの頭に手を当てた。
その笑顔がとても綺麗で…。
ぱちんと、カカシの中で何かが弾いた音がした。
スイッチ
最近、俺が担当していた班のガキが、死んだ。正しくは、封印されたと言った方が正しいのかな?
12年前、九尾を腹に封じられたあの子供は、もうこの里を走り回ることなんか無い。耳障りな声を聞くことも、どこまでもウザイ笑顔を浮かべて俺に駆け寄ってくることもない。
せいせいした。
そう思っているはずなのに、なんでだろうね。ぽっかりと心に穴が開いた気分……。
フルフルと自分の頭を振り、そんな考えを振り払おうとするカカシ。
だけど、その心には確実に穴が開いてて、なにをするにもやる気が起きなかった。
寝ることも、食べることも生きていく上で最低限しかとらないくらいに。もちろん、任務だってやる気が起きないし、封印された子供のことをいちいち聞いてくる生徒達の相手もほとほと疲れていて。最近では周りの人間に心配すらされている。
封印された子供のことを、思い出すのが怖い。
俺はあいつにどう接していた?
自分のことなのに思い出せない。
俺はあいつにどういう感情を抱いていた?
憎悪という感情があったはず、という曖昧な『記憶』しかない。
俺は、本当にあいつを憎んでいたのか…?
目を閉じれば、何故か、思い浮かぶのは綺麗なナルトの笑顔だった。
その笑顔を見たのはいつのことだった?
カカシせんせー!!
パチン…と頭の中で音が響く。
スイッチが元に戻された瞬間。
両膝をついて
愕然として
泣いた。
声なんて、出もしない。
ただ、涙を流すだけで。
涙で頬を濡らすだけで。
涙を流している自分の顔を覆いもしなかった。
ナルトが『スイッチ』を切り替えて、俺の記憶丸ごと、俺の感情丸ごとをOFFにしちゃったんだね。
それで、オマエは満足だったの?
幸せに眠っているの?
こういっちゃ何だけど、そんなオマエの自己満足みたいな世界で俺は絶対納得しないからね。
愛してるよ、ナルト。
だから、オマエの自己満足の世界に俺を閉じ込めないで。
もうすぐ、傍に行くよ。
オマエが望まないことだとしても。
終