桜の花を目にしたら

少しだけ 思い出して



桜の花を目にしたら



俺と桜の花を見たことを



少しだけ思い出して





一緒に桜を見たことを



俺と過ごした日々のことを





 ハラリ、ハラリ・・・・。

 静かに舞う桜を見て、イタチはふと、里を出る前に一緒に過ごしていた子供のことを思いだしていた。

 もう何年も会っていない子供。

 今は、どうしているんだろうか?

「桜の花を目にしたら、少しだけ俺のことを思いだして」

 その言葉を残して、自分は子供の側から離れた。



――――― 一族を、あの子供と同じ年の弟以外を皆殺しにして。





 今でも、アノ子と過ごした日々は、自分にとって一番の宝物のような日々。

 あの言葉を呟いて、姿を消そうとした自分に子供はぐっと服を掴んで言葉を投げかけた。

「イタチにーたんも、しゃくらのはなをみちゃらなゆとのことおもいだちてね」

 舌ったらずのナルトは自分がいなくなることがわかっていたのだろうか、子供は悲しそうにそう告げた。蒼い瞳いっぱいに涙をためながら…。頭を撫でてやると嬉しそうに微笑んだ。

そして、自分はナルトのそばから消えた。

 あのころの思い出は今のこの自分を見ると、少し綺麗すぎて、桜を見るたびあの子供を思い出すと会いたいという衝動に駆られる。



・・・確か、サスケと同い年だったな・・・もう12歳か・・

・元気でいるだろうか・・・



 ―――――ナルト・・・・









「にーたん!!」

とてとてという足音がしそうな勢いで駆けて来るのは金色を纏った子供。

「ナルト…一人できたのか?」

駆けて来た子供---ナルトをイタチは抱き上げる。

「うん!なゆとひとりできたの!でもちゃんとじーじにいってきたよ?」

イタチから決して一人で自分のところには来てはいけないとナルトは言われていた。

じーじというのは三代目のことだ。ナルトは三代目に言ってからイタチの元へ来たから大丈夫だと思ったのだろう。

カサリとナルトの背後から物音が聞こえイタチがそちらの方向を見ると一人の男が立っていた。

暗部の面を付けた銀髪の男が。なぜだか分からないがなにか怨みがましいオーラを感じる。

「にーたん、なにしてあしょぶ?」

なゆと、おうまさんがいい。

先日、ナルトとイタチが遊んだときお馬さんごっこをやった。

もちろん、馬役はイタチ。

背中に密着するナルトの尻が柔らかいとイタチが思ったのは余談である。

お馬さんごっこをすることはイタチ的には大歓げ…いや構わなかったがナルトを送って来た暗部のものがなかなか帰ろうとしない。

由緒正しいうちは家長男がお馬さんごっこをしている様子を見られるわけには行かないと妙なプライドがむくむくと立ち上がる。



『ナルトは俺が三代目のところへ送り届ける。もう帰るがいい』

と唇だけを動かして暗部の者へ伝える。

 …がその申し出を断る!!と言わんばかりに首を振った。

恨めしげなオーラに交えて殺気すら感じるのは気のせいだろうか…。

「にーたん…お馬さん…や?」

縋るような目で見られてうちは家のプライドなど、まるで紙切れのように軽く

飛んで行ってしまった。

「い、嫌じゃないぞ、ナルト。ただな…お前を送ってきたやつがいて恥ずかしく

てな…」

イタチの言葉にナルトは振り返る。

暗部の青年をみるなりナルトはいきなり大きな声をあげた。

「かーち!!かーちでしょ?!なんでついてくゆんだってば!」

どうも、ナルトは怒っているようだ。

ぷよぷよのほっぺが膨らんでいる。

「ナルトが心配だったからに決まってるでしょ?」

はじめて暗部の青年---カカシが声を発した。

「そんなのしやないもん!にーたんといゆからへいきだもん!」

「そいつが危ないから言ってるんでショー?ほら、帰ろ。お馬さんなら俺がやってあげるから。ね?ナルト」

お馬さんという言葉にナルトはピクリと反応する。

「かーちが、お馬さんやってくえゆの…?」

「お馬さんでも三角木馬でもなんでもやってあげるから、帰ろう?」<オイ

イタチはこのままではナルトを連れて帰られる、と内心ちょっと焦る。

ナルトをとられてなるものか、とイタチはプライドもなにもかも捨て去り、ひょいっとナルトを背中に乗せた。

「ナルト、お馬さんだぞ?」

背中に乗せられてきょとんとしていたナルトだったが、そのうちきゃっきゃと言いながらイタチの背中で暴れている。

イタチはカカシに勝った…と言うような笑みを浮かべていた。



カッチーン







喧嘩を売られているのが分かっていたカカシは額にさりげなく青筋を浮かべる。







「…由緒ただしきうちは一族の長男が…幼児に鼻の下延ばしてる姿なんて見られたもんじゃないよね~」



カカシは独り言のように呟いた。

イタチには確実に聞こえるような声で。





ムカッ





当然、カカシの声が聞こえたのだろう。

イタチはピクリと頬を引き攣らせた。

「…たしか暗部のカカシさんですよね…?」

「さぁ…どうだろうねぇ?」

「誰にせよ、俺よりオッサンっってことには変わりないでしょう?」

ぴきっ…

「アハハハハー…(乾)お前なんてクソガキじゃないか~。ナルト養う甲斐生もないのに吠えないでヨ」

青筋を立てながらにっこりと微笑むカカシ。



ゴゴゴゴゴ…。



二人のあいだには大きな嵐が渦巻いていた。



「かーち!にーたん!」



…が、ナルトの呼ぶ声にその嵐は一瞬にして通り去った。



「なに~ナルト?」

「どうした?ナルト?」



満面の笑みで二人はナルトのほうを見る。

「あのね、とりさんがきたからかえゆの~。じーじとやくそくしたんだってば」



ストン、とナルトはイタチの背中からおりる。

「じゃ、俺がだっこして連れて帰ってあげるよv」

「ほんと?かーち、だいしゅき~v」

「じゃ、そういうわけだから連れて帰るわ。二度と俺とナルトの前に現れるなよクソガキ」

それだけを言うと、カカシはひゅっと煙のように消えてしまった。













あのときも桜の花が散っていた。

















…バキッ……!



つい、手に取っていた桜の花を力任せに折ってしまった。

思い出すだけでもカカシがムカついてしょうがない。



そういえば…あのショタ野郎、その後暗部に本格的に駆り出されて長期任務に行ったと聞くが…今はどこにいやがるんだろうか。

…殺しにいってやる…。



などと物騒なことを考えて、イタチはとある報告書を手にした。



はたけカカシ……現在下忍担当教師。

春野サクラ、うちはサスケ、うずまきナルト





……バンッ!ガタン!!





イタチはナルトの名前を見つけるなり猛然と走り出した。

全てはカカシの魔の手からナルトを守るために…。





ついでに、弟のサスケも抹殺しておくか、と心に誓ったイタチであった。









少しだけ思い出して。桜の花を目にしたら…―――――。
















イタチ→ナルト。
ちまなる。         





2002/10/30