初めは凄いイヤなヤツで、大嫌いだった。
その次はライバルで、絶対に負けたくないって思った。
そしていつのまにか友達になっていて。
今では、大事で大好きなヤツになっていた。人生って、ホント分からないもんだね。
ばいばい
「サスケ!」
久しぶりに、サスケを見かけたナルトは遠くにいたサスケに大声で声をかけた。当然、サスケはもちろん、周りにいた人間も振り返ったわけで、そんな状況に気付いたナルトは恥ずかしそうに俯いてサスケの元に駆け寄る。
「久しぶり、だってばよ」
サスケの横に立ったナルトは、少し上を向かないとサスケの目が見れない。昔会った身長差よりも開いたような気がする。
ナルトもサスケももう18才になっていた。スリーマンセルを組んでいたのは遠い昔のことのように感じられる。
「お前は相変わらずチビだな」
「ムカッッ!!俺だって伸びてんだぞ!!去年より1.5㎝伸びたんだってばよ!!」
サスケの憎まれ口も相変わらず、ナルトがすぐにムキになるのも相変わらずで、次の瞬間、二人は苦笑いを浮かべた。
「まぁ、そういうことにしておいてやる。ところで…」
「また、上忍試験は受けないのか?」
サスケのその言葉に、ナルトはばつが悪そうに俯いた。
サスケは、3年前に上忍になった。新人上忍としてめきめき力を伸ばしていき、ここ最近では手配書にまでのる有名人になっている。
ナルトは、中忍試験以来、九尾のチャクラと自分が生まれ持っていたチャクラを使いこなせるようになっていた。すさまじい成長を見せ、サスケと実力は変わらなかったはずだが、ナルトは上忍試験を受けることはしなかった。
いや、受けることが出来ない、と言うのが正しいだろう。里の上層部は、ナルトが上忍試験を受けるのを認めなかった。九尾の遺恨はまだ根強く残っている。
「ん…まだ、俺じゃ上忍は無理だってば」
いつも余計なくらい自信満々なナルトのこの殊勝な態度にサスケは眉をしかめる。
ナルトが自分に話せないことがあるのは分かるが、いつもこの調子ではぐらかされるのは頭に来る。
「…そ、それに、アカデミーで先生やってるのも楽しいからさ」
空元気に作り笑顔。何年も一緒に任務をこなしたり、修行したりしているのだ。それくらいは分かる。
「お前、いつまで俺に隠し事してる気だ?」
はははーと乾いた笑いを浮かべたナルトに、サスケは怒ったように声を荒げる。ナルトはどきっと胸を高鳴らせるものの、それを顔に出したりはしなかった。
「隠し事って?…あっ、もしかして、下忍のときにお前のクナイでゴキブリ退治したの誰かから聞いたってば??」
あまりにもくだらないことを言い出すナルトにサスケはとうとうブチ切れた。
「いい加減にしろ!!そう言ってお前はいつもはぐらかしてばかりだろ?!」
しばらく、お前の顔見たくねーよ。
サスケはそう言うと、ナルトの前から煙のように消えてしまった。
「…言えるわけ、ねぇだろ…サスケのアホー…」
くしゃりと、ナルトは自分の髪を掴んだ。
言えるわけがないのだ。一つ目の隠し事は九尾のこと。二つ目の隠し事はサスケに恋愛感情を抱いていると言うこと。
どちらがばれても今までと同じようにサスケと付き合うことなどできはしないだろう。軽蔑はされないかもしれないと思うが、ぎくしゃくした関係になるというのは分かり切っている。
「あーあ…アイツの顔見るのも、これで最後かもしれなかったのにな…」
ぽつりと呟いた言葉は、誰に聞こえるわけでもなく風に掻き消された。
「ナルトせんせーさよならー!!」
「おう!気を付けて帰れってばよ!!特に、変態に気を付けろよ!!どこに潜んでるかわかんねーからよ!!」
はーい!!と生徒達は元気な返事を返すとバタバタと足音を立てて走っていく。
「忍者の卵がその走り方はないってば…」
昔は自分もああだったな、と苦笑する。
「ナールートー。誰が変態だって??」
しゅたっっとナルトの目の前に現れたのは元担任のカカシ。相変わらず顔の4分の3は黒いマスクと額当てで覆われている。
「え、カカシせんせーに決まってっじゃん」
さして驚きもせず間髪入れずナルトは目の前に現れたカカシに言葉を返す。
「うわ、ナルト性格悪くなったんじゃなーいの?」
先生泣いちゃうよ?などと気色悪い泣き真似のポーズまでとってみるカカシ。
変わっていない元担任にナルトは苦笑する。
「そりゃ、カカシせんせーが担任だったからに決まってるじゃん。性格も少しは歪むってばよ」
「だーれかさんのこと大好きだからデショー。こんないい男の俺を振ってサ」
「もう!!カカシせんせーの馬鹿!!誰が聞いてるかわかんないんだから不用意に言うなってばよ!!」
その言葉にナルトは少し赤面して、声を荒げた。
「でも、告白も出来ないで、ぐずぐずしてるのはナルトでしょ?振られちゃったら俺のところ来なさいね、慰めてあげるから」
ぽんぽんとナルトをの頭を撫でる。
「せんせ、俺の話聞いたんだろ?」
今までの軽い雰囲気は、ナルトの言葉言葉によって一変した。
ぽんっと、カカシはナルトの頭に手を置いたままだ。
「…そりゃーそうデショ…元とは言えお前の担任だよ」
「それに、俺の監視役だよね」
逃げたリなんて、しないってばよ。
困ったように言うナルトに、カカシは胸がはり裂けそうになる。
おそらく、下忍になって自分が担任になったときから、ナルトはカカシが監視役だと言うことに気付いていたのだろう。
「確かに監視役だったけど、好きだったよ、ナルトのこと」
四分の一しか見えない顔だけど、確かにカカシは微笑んだ。
「ん、ありがとってば」
ナルトもまた、少し微笑んだ。
言えないんだ。バイバイ、だなんて。
あー…涙でそうかも。
こつん、と道ばたに落ちていた石をナルトは蹴った。
「人に当たったらどうするんだ、このウスラトンカチ」
聞き慣れた声が、後ろから聞こえてきた。
ナルトは慌てて振り返る。
「さ、サスケ…」
ごしっと慌てて、滲んでいた涙をふき取った。
「泣いてたのか?」
そっと目尻を撫でられて、どきんと胸が高鳴る。
今が夕方で良かったと、ナルトは思った。自分が真っ赤になってることが分かるから。
「俺、明後日から、任務に出るんだ。長期の」
ぐっとナルトは拳を握る。
いつ、封印が解けて目が覚めるか分からないけど、サスケに会えるか分からないけど。
「また、いつかお前に会えたらさ、言いたいことがあるってば…だから…」
会えたときに、そのとき本当のことを話すから…。
サヨナラはいえない、いわない。
また会えたときに、俺の気持ちも伝えるから
それまでは俺のこと忘れないでいて。
終