夢を、みるんだ。
とてもリアルな夢を。
一日が終わり、眠りにつくと夢の世界へ。ふと気がつくと目の前にはもう一人の 自分が横たわっていて。すやすやと眠りについている。
傍らには、黒い覆面をかぶった男 ――――― ナルトの担任でもあり、監視役でもある、カカシがナルトを見つめていた。
なにか思い詰めたような表情をうかべ、そっと「ナルト」の首に両手をあてがうと少しずつ力を込めていった。
はっと「ナルト」が目を覚ます。ナルトが見ている方向から「ナルト」の表情は見えなかったが、カカシはその瞬間明らかに、顔色が変わり、首にかかったての力が一瞬弱まった。
「ナルト」は一体どんな顔をしたのだろう。
そして…「ナルト」の体から力が抜けた。カクン…と力なく横たわった「ナルト」をカカシは少しの間見つめていた。
ポタリ・・・ポタリと「ナルト」の頬に水滴が落ちる。なぜか、自分にも暖かい感触が頬を伝う。あれ…と思い、ふと自分の眼前を見上げれば、涙に濡れたカカシの顔。
…目を覚ますと朝がきていた。
そっと、自分の頬に手を伸ばす。乾いた感触がそこにはあった。
「…都合のいい夢だってばよ…」
小さくナルトは呟いた
また任務が、始まる。
「おそ~~~い!!」
今日もサクラとナルトのナイスコンビネーションでカカシは責め立てられる。
カカシは腹が立つくらいの笑顔をうかべてあからさまに嘘だと分かる言いわけをして、またサクラに叱られている。
ふと、ナルトと視線が交差する。カカシは一瞬殺気を込めた瞳でナルトをにらみつけると、さりげなく視線をサクラの方に戻した。
憎まれていることなど知っているのだ。
初めてカカシを見たときから。
ただ思うことすら、自分には残されていないのかと思うと。
消えたい。
ナルトは心の中でそう呟いた。
ああ、今日も夢を見る。
今日は見事に首かっ切られちゃって、「ナルト」もカカシせんせーも血まみれ。
そんでさ、やっぱりカカシせんせーってば泣いてるの。
何で涙なんか流してんだって。
泣かないで、泣かないで。
涙を見せないで。
決して本当の俺には向けてくれることはないだろうけど、俺は偽物でもカカシせんせーの笑顔が好きだから。
笑っていて。
俺が死んだと笑っていて。
化けギツネがいなくなったと笑っていて。
ソレが無理なら、カカシせんせーの中から俺の存在を無くして。
ぎりぎり、首を絞められる。
誰に?
ソレもちろん、俺の一番大好きなあの人。
薄ら笑いなんて浮かべちゃってさ、そう。それでこそ俺の望んだあなたの姿。
今まで見た笑顔、どんな表情よりも、今アナタが浮かべている薄ら笑いが一番大好きだよ。
そっと、ナルトは目を開ける。
さぁ、最後の仕上げ。
ガラス玉のような目で、ナルトはカカシを見た。
少し、カカシは身じろいで、手から力が弛む。
何を戸惑うの?
カカシの手は、弛んだとはいえ確実にナルトの命を奪おうとしている。
その顔からは薄ら笑いが消えていた。
どうして。
そんな顔をするの?
俺の大好きなアノ顔を消さないで。
俺が消えること、それがカカシせんせーの最大の望み。
ぐぐっっ・・・・・とカカシの手に再び力がこもる。
何かを振り切るように、カカシはナルトの首を千切らんばかりの勢いで締め付ける。
ナルトの視界がだんだん閉じられていく。
意識もだんだん遠くなっていく。
乾いた音を立ててナルトの体が力無く投げ出された。
ぽつりと、あたたかい液体がナルトの頬を濡らした。
そして、1つの術が発動する。
「カカシ先生!!今日も遅刻ですか?!」
青い空の下、響き渡るサクラの怒声。サスケは呆れたかのように溜め息をついている。
「今日は人生の迷路に迷い込んでだなぁ~・・・・・」
「はい!!嘘!!」
サクラの突っ込みにカカシは苦笑いで誤魔化す。
そこにナルトの姿はなかった。
だけど、その場にいる3人はまるでそれが当たり前のように振る舞う。
最初からナルトが存在していなかったかのように。
あのとき発動した術。
カカシは自分が殺めたナルトを抱きしめて泣いた。
その涙が、里全体にかけた術を発動させた。
『ナルトの存在を皆の記憶から消す』
火影以外の全ての人からナルトの記憶は失われた。もちろん、12年前のアノ惨劇の記憶も塗り替えられた。
ナルトの死を思い悼むのは、火影一人。
だが、ナルトはそれで良かったのだ。
カカシが涙を流すよりも、自分の存在を忘れてくれた方が。
どんな顔をされても、泣くことだけはして欲しくなかった。
それが、ナルトの想い。
「今日の任務は~・・・・・・草むしりだ」
相も変わらずショボイ任務に、サクラとサスケは肩を落とす。
『え~!!俺ってば、もっとビックな任務がしたいってばよ!!』
どこからともなく聞こえてきた声に、カカシはびくっと体を竦ませる。
「カカシ先生?」
いつもなら、自分だけさっさと木陰に移り、優雅にイチャパラを読み始めるカカシがぼーっとつっ立っていることを不思議に思い、声をかける。
「え・・・あぁ、何でもない。さっさと任務に就け~」
サクラは桃色の髪を翻し、せっかく心配してあげたのに!!と怒りながら草むしりを始める。
さっきのは空耳だったと、カカシは軽く頭を振り、木陰に座り込む。
イチャパラをめくっても、内容が解らない。
目の前が滲んでいた。
ぽろぽろと、カカシの目からは涙が溢れて止まらない。
「どうして、涙なんて出てくるんだろうな・・・・」
訳が分からないまま、カカシは一人涙を流し続けた。
終