里中に甘い匂いが充満するこの季節。
濃厚なチョコレートの香り。
甘いモノが大嫌いな人にとっては辛い時期かもしれないけれど、大好きな人にチョコレートを上げる日。
甘い甘い想いと一緒に。
だけど、そんな甘いチョコレートよりも
甘い想いよりも。
俺が味わった“想い”を何倍にも味あわせてあげるってばよv
にこにこと、いつもと変わらぬ笑顔で、いや、いつもよりもっと綺麗な笑顔で笑っているナルト。
だけど、心なしか、彼の後ろには暗雲が立ちこめていたような気がする(目撃者談)
「ナ~ル~ト~v」
サクラにチョコレートの作り方を教わっている途中、唐突にナルトの家に現れたのは、担当上忍カカシ。
「カカシせんせー何?」
ナルトはカカシがプレゼントしたフリルのエプロンを翻しながら、カカシの元へ小走りに走っていく。ほっぺたにチョコレートをつけたまま。
「ナルトの家から甘~い匂いがしたからネvもしかして、俺にバレンタインのチョコレート?」
そう言いながら、ナルトの頬についているチョコレートをぐいっと拭い、ぺろりとなめる。
にこにこと上機嫌のカカシ。
ようやく、つきあい始めて初めてのバレンタイン。ナルトからバレンタインにチョコを貰えると思うと、自然に顔が弛む弛む。
にこにこ笑っていたナルトが、更に笑顔を輝かせて微笑む。
そして・・・・。
「・・・・・楽しみにしておいて欲しいってば」
カカシの気のせいだろうか、ナルトの声が1オクターブ下がり、更にその笑顔がとても恐ろしいモノに見えた。
「ナルト・・・?」
「なんだってばよ?」
きょとん、とした顔でナルトはカカシの顔を見つめていた。ソレはいつものナルトの顔で。愛らしくて愛らしくて襲いそうになってしまう。
「な~んでもないヨv楽しみにしてるからネ、ナルトv」
ちゅっとカカシはナルトの頬にキスを落とすと、音もなく消えてしまった。
「カカシ先生ったらそうっっとう浮かれてるみたいね」
それまで、二人のやりとりをそっと伺っていたサクラが、カカシがいなくなったと同時にナルトに話しかける。
「本当だってば」
「それだけアンタからチョコもらうの楽しみにしてるってことでしょう?」
「そっちの方が、俺の方も楽しみだってばよ」
カカシせんせーの反応が。
にっこりとナルトはサクラに向かって笑いかけた。
「続き教えてくれってばよ、サクラちゃん」
「ハイハイ」
諦めたようにサクラは溜め息をつくと、ナルトと共にサクラはキッチンへと戻り、チョコレート作りに励むのだった。
「ふふ~ん・・・今日はバレンタインデーv」
カカシは、珍しく早起きをし、何故か入浴を済ませ、新品の上忍服を卸し、髪型もいつも以上にびしっと決めて、鼻歌交じりにナルトの家へと赴いていった。
いつもの数倍のスピードで駆けつけ、とんとんっと扉を叩いてみたモノの、ナルトはいっこうに出てくる気配はない。
というか、ナルトが家にいる気配すらない。
もしかして、入れ違いになったのか?と思い急いで家に帰ってみるが、ナルトがいる気配はない。
「どこいったんだよー・・・・ナルト・・・」
一人哀愁に浸っていた。
ナルトは、というと・・・・・カカシが来る一時間も前に昨日持ったチョコレートを持って近辺をうろうろしていた。
ただ、ナルトの周りには数人の人間がナルトを見守るように取り囲んでいる。
「ナルト、誰か探しているの?」
チョコレートを持ってうろうろしていたナルトの前に現れたのは紅だった。
「あ、紅せんせーv」
ナルトのそのセリフに、ナルトを取り囲んでいた人間達が途端に殺気立つ。
「もしかして、カカシかい?」
今日はバレンタインだし・・・と紅は呟いた。
「ううん、カカシせんせーはいいの。・・・紅せんせーにもバレンタインだってばよv」
ナルトは持っていた紙袋の中からラッピングをしたチョコレートを取り出した。
昨日、サクラと一緒に作っていたモノだった。
「あら、私にもくれるの?!」
「うん。サクラちゃんが好きな人たちにあげるんだって言ってたからv」
にこにこと、ナルトが紅にチョコレートを渡そうとしたときに。
「「「ナルトっっ!!」」」
複数の声がしたかと思ったら、一気になるとは周りを取り囲まれる。
そこには、キバ、シノ、シカマル、ネジ(つーか、なんでネジ・・・・)が現れる。
ナルトは嬉しそうな笑みを浮かべて
「あっ、みんなそろって良かったってばよ~vはい、これバレンタイン」
手際よくチョコレートを渡していった。もちろん、紅にもちゃんと忘れずに。
ナルトからチョコレート・・・しかも手作り・・・・
一生食べないで残しておくぞっっ・・・!!(腐るぞ)
心の中で涙を流しながらぐっと拳を握る。
「ナルト、俺にはないのか?」
物腰やわらかな声がナルトのすぐ上から振ってくる。
そして、下忍’s一同、聞き覚えのある声にぴしっっと固まった。
「あっvイタチにーちゃんだってばよぅっv」
ナルトは嬉しそうな声を出し、イタチに抱きつく。
「はいvイタチにーちゃんの分もちゃんとあるってばよ」
両手で差し出したそのチョコレートをイタチは内心小躍りモノで受け取る。表面上はでは、
「ありがとう、ホワイトデーにちゃんとお返しするよ。ナルト」
にっこりと、人の良さそうな笑みを作ってナルトに微笑みかける。
そっとイタチがナルトを抱きしめようとしたとき・・・・。
「ナルト君に触るんじゃないわよ、このストーカー」
・・・・・・・・来るとは思っていたけれど・・・・。
下忍’s一同、心の底から泣きそうになった。
「ナルト君v久しぶり」
嬉しそうにナルトに話しかけるのは大蛇丸。
先ほど、イタチに向かってはいた言葉とまるで違った声音。
「久しぶりだってばよv」
にこにことナルトは大蛇丸に笑顔を振りまいている。
「大蛇丸の分もちゃんと用意してあるってば」
例のごとく、ナルトはごそごそと紙袋からチョコレートを取り出し大蛇丸に渡した。
「有難うナルト君vホワイトデーのお返しは期待していてね」
いつもとは想像がつかないような甘い笑顔で大蛇丸は腰を屈めてナルトの頭を撫でる。
うっわー・・・・・・・・なんつーか、やなもん見た気分・・・・・
大蛇丸とナルト以外のその場にいた人間は心からそう思った。
「そうそう、ナルト。私もナルトにチョコレートをあげるよ」
紅はそう言って一体どこから取り出してきたのだろうか、ティディベアの形をしたチョコレートをナルトに差し出した。
「うわぁっっありがとうってばv紅せんせーv」
本当に嬉しそうに笑うナルトに、紅のショタ心はくすぐられまくる。
やっぱり可愛いわ~・・・ナルト・・・・v良かったちゃんと用意してて・・・
「どの面下げてそんな可愛らしいチョコレートを買ったんでしょうね」
「無理に若作りしすぎると、見苦しいわよ」
ナルトに聞こえないようにイタチと大蛇丸は紅に辛辣な言葉を投げつけた。
ぴしっっっと紅のこめかみに青筋が走る。
・・・・・・・・若作りといわれたのが相当こたえたらしい。
「・・・・・・いかにも、小さな子供に悪戯しそうな変態と、子供ができないから誘拐しそうなオカマに言われたくないわ」
びしっっ!!
大人3人の火花が散る。
かといって、ここでいきなり戦闘に鳴られてはたまらない・・・。
「オイお前、ナルトよー」
そんなとき。面倒くさそうにシカマルがナルトに話しかける。
「ちゃんとほら、アレカカシ先生には渡してんのか?あとでめんどくせーことになってもしらねぇぞ」
その言葉にナルトはにっっこり笑って。
「いいんだってば、カカシせんせーにはあとでちゃんと俺の気持ちを味わってもらうからv」
ぞわっっ・・・・・。
なぜだか、ナルトの言葉にその場にいた全員が背筋に寒いモノを感じたという・・・。
「ナルト~・・・どこいったんだよ~・・・・」
今にも泣きそうな声を出して、ナルトを探している男はカカシ。
それでも元暗部の上忍か、と思うくらいに情けない姿。
ざっといきなり茂みから出てきた人間と、思いっ切りぶつかってしまう。
「・・・ってぇ・・・・」
自分は何とか倒れなかったモノの、ぶつかってきた本人は地面に転がっていた。
「おやおや、サスケ。んなとこからいきなり飛び出してきたら危ないデショ。あ、そう言えばナルトみなかった?」
自分がナルトを探してぼーっとしていたことは謝りもせず、カカシは倒れているサスケにナルトのことを聞いた。
「俺も今探してるんだよ・・・・」
「ふ~ん・・・・もしかしてオマエ、まだナルトのこと諦めてないってワケ?」
「煩い。てめぇみたいな危ないヤツにアイツを任せられるわけねぇだろうが」
言い争いながらも二人は同じ足の速さでナルトを捜している。
と、そのときだ。ナルトが紅にチョコレートをもらってにこにこしていて、更に、イタチ、大蛇丸、紅、キバ、シノ、シカマルと共に楽しそうに談笑をしている。
「ナ、ナルト~・・・・」
情けない声ながらも、カカシはナルトの名前を呼ぶ。
その声にぱっとナルトはカカシとサスケの方を向く。
振り向いたナルトの顔が、一瞬だけとても恐ろしい顔をしていた。
だけどカカシは気付かず、ナルトを抱きしめている。
その場にいた全員が悔しそうに表情をゆがめる。
「ナルトがいなくて、心配したんだぞ~」
頬をすりすり、ナルトの頭に押しつける。
「へぇ?何でだってば?」
ナルトの声は、いつもより少し固い。
だが、カカシはソレにも全く気付かず、にっこり笑ってナルトに話しかける。
「だって今日はバレンタインデーだから、ナルトにチョコをもらおうと思ってナルトの家に訪ねていったんだよv」
はやく、俺にバレンタインのチョコレート頂戴v
そう言った途端、ナルトはいつもの何倍も無邪気な笑顔を振りまいて。
「カカシせんせーの分はないってばよv」
と言い放った。
その場にいた全員は、驚いてすごい勢いでナルトを見つめている。
「え・・・ナルト・・・なんで?」
何故ナルトにチョコレートを貰えないのか、カカシは一瞬頭が真っ白になりナルトに問いかける。
ナルトの顔に浮かんでいるのは、笑顔、笑顔、笑顔。
だが、目は全く笑っていない。
「カカシせんせーはサスケにもらったらいいんだってば。俺を仲間はずれにして修行するくらい仲がいいんでしょ?」(にこv)
びしっっっ・・・・・・・・その場にいた全員が、ナルトの言葉に凍り付く。
カカシはもちろんのこと、鉄面皮のサスケも真っ青になって顔を引きつらせている。
カカシはもちろん、サスケの命も風前の灯火か?
怖い
はっきり言ってナルトは怖かった。
いつも以上に笑顔をたたえていても、ナルトの後ろには吹き荒れるブリザードが見える。
まさに、今ナルトが浮かべている笑顔は誰をも凍り付かせることができる『絶対零度の微笑み』だった。
「カカシせんせーなんて、もう知らないってばよ。じゃーね」
再び、にっこりと笑ってナルトはその場をした。
びゅぉぉぉぉぉぉぉ・・・・・
その場に、とてつもなく大きなブリザードを残して。
カカシせんせーが謝ってきてもしばらくは絶対絶対絶対許してなんか上げないってば!!
ナルトは、中忍試験の時からぷんぷんと怒っていた。
それはもう怒っていた。
あのとき、あんなハデな登場の仕方で会場に現れて。
そして、オマケに背中合わせで。
なんだかとても『師弟』という感じで、見せつけられた気がした。
許せるわけがないってばよ!!!(怒)
カカシせんせーにはしばらく反省してもらうってば!!
ナルト君の逆襲に、数時間真っ白になっていたカカシは、意識を取り戻すと一番にナルトのご機嫌取りに行ったという。
だがしかし、ナルトのご立腹加減から行くと、しばらくは許して貰えなさそうなカカシなのであった。
終