新月の夜から君の目は覚めない
あのとき君が告げた言葉も
俺には分からないまま
君がいない日々を過ごす
君がいない夜を過ごす
満月の夜
ナルトが目を覚まさなくなって最初の満月
ナルトが俺の世界からいなくなって最初の満月
つい1週間前、火影には責められ、中忍には責められ、教え子たちからは無言で責められ、果てには同僚たちからは殴られもした。
痛いな~ぁ・・・紅のヤツ、思いっ切り爪立てやがって・・・。
そして、夕日紅に殴られて引っかかれたのはつい2日まえのこと。紅に引っかかれた顔には生々しい爪痕が未だに赤い線を描いていた。
アイツはアイツでナルトのことを気に入っていたから、あの怒り具合は凄かった。
あんな紅を見るのは、初めて。
『アンタは何も思わないの?!アンタが殺したのよ?!』
―――――生きてるデショ?
感情が微塵もない瞳で、カカシは紅に言い放った。
『そう、体は確かに生きてるわ。アナタが殺したのは、ナルトの心。アンタの身勝手で、ナルトは・・・!』
―――――俺のせいだって言うワケ?
『・・・・・アンタが手をかけて、アンタが首を絞めた。そうでしょう?』
―――――そうだケド、目が覚めないのはナルトの勝手デショ?
ちらり、とカカシが紅から視線をはずした瞬間、容赦ない平手がカカシの頬に炸裂した。
『・・・最低ね』
―――――知らなかったワケじゃないデショ?昔からだヨ
殴られたことをさして気にとめるわけでもなく、カカシはひょいっと肩をすくめた。
それがまた、紅の逆鱗に触れたようで・・・
鋭い爪で引っかかれた、というわけだ。
紅はまだ上忍になりたてで、かわそうと思えばかわせた平手。
鋭い爪で引っかかれることもなかった。
避けなかったのは、何故?
『お前は、それでいいのか?』
―――――何が?
『ナルトのことだ』
―――――だから何が?
『あいつが、このまま目が覚めなくてもいいのかって聞いてるんだ』
―――――別に、どうでも
微かに、アスマが握った拳が震える。
『お前は・・・・!!』
―――――あ、でも、ちょっとはさびし~とか思うヨ。
(・・・・自分で殺したくせに?)
カカシは少し、考え込んで、次の言葉を漏らした。
―――――楽し~いオモチャがなくなったカンジ?
ゴッと鈍い音がして、カカシは横面を思いっ切り拳で殴られる。その拍子に壁に叩きつけられた。
アスマは、何も言わずにその場から立ち去った。
背中に、怒りを露わにして。
それが、未だ癒えぬたんこぶの理由。
これも避けようと思えば避けれたコト。
避けなかったのは、何故?
『・・・・・・・・・・・』
―――――今日も口聞かない気なワケ?オマエら。
『・・・・・・・・・・・』
カカシから目をそらして、口を真一文字に結んだのは、ナルトのチームメイトのサクラとサスケ。
―――――一体、何が気にくわないワケ?
『・・・・・・・・・・・』
―――――まただんまり?ま、別にどうでもいいケドね。
『・・・・どうでも、いい?』
先に口を開いたのはサスケ。
その目にはカカシへ憤怒を抱いて。サクラも怒りに身を震わせて。
―――――そ、どうでもいいよ。オマエらが何を考えてることくらいは分かってるし。けど、いなくなった人間のコト、考えるのって馬鹿らしくない?
『・・・何から逃げてんだよ・・・』
それだけを言うと、背を向けて帰っていくサスケ。サクラもそれを追いかけるようについていく。一瞬だけサクラ止めがあった。
ちらりとカカシを見たサクラの瞳はとても悲しそうで。
その、憐れんだような瞳は、ナニ?
『あなたを軽蔑します』
―――――すれば?
『ナルトを、あんな目に合わせる必要はなかったはずだ!!』
―――――やっちゃったコトは、仕方ないデショ?
『仕方ないですませられることですか?!ナルトは、あなたのことを本当に・・・・!!』
イルカが区切ったその言葉に、カカシはぴくりと眉を動かした。
『・・・いいえ、何も言いません。あなたには、何を言っても無駄でしょうから。・・・・二度と、ナルトのところには現れないでください』
―――――どうして?俺、ナルトの担任ダヨ?
『・・・あなたがナルトのそばにいてはナルトだって安らかに眠れないでしょうから』
そう言うと、ナルトの保護者代わりであったイルカは、ナルトの見舞いに来たカカシを追い返した。
ばたんっ!と激しい音を立てて、扉を閉められる。
それは、まるであのとき、俺からの別れを受け入れた君の背中のようで
胸が痛んだのは、何故?
今日は満月の日だよ。
君がいなくなってから初めての満月の日だよ。
あの日が満月だったなら、君が紡いだ言葉を分かることができた?
俺があの言葉を分かっていたら、俺は・・・・・
細い首
力を込める
ときどき漏れる君のうめき声
そっと俺の頬を触れた、君のまだ柔らかさを残した小さな指
そして、微かに動く、君の唇
紡がれた、コトバ
「 」
カカシは、はっと目を覚ました。
窓を開けっ放しにして寝ていたのか、窓から入ってくる風でカーテンは揺れている。
はためいているカーテンを押さえ、ふと、空を見上げた。
そこには、君の髪の毛と同じ色をした満月
ぞくり、と自分の身体が震える
あのとき、ナルトはなんて言った?
そっと頬を撫でて、小さく微笑んで
「好き」
君が初めて自分から俺に言ってくれた言葉。
分かった途端に家から駆けだしていた。
扉を破るようにしてナルトの家に入る。
君は小さなベットの上で、ただ、眠っているようで。
満月に照らされた君の顔をただ、見入る。
肩を揺さぶっても、名前を呼んでもなぁんにも反応はなくて
金色の睫毛に装飾された瞼は、ただ、あの青い瞳を閉ざしたまま。
「起きてよ・・・・ナルト・・・起きて・・・・」
それが、君の世界に届かないのを知っていても俺はつぶやき続ける。
「愛、してる・・・愛してる・・・・・愛してる・・・・愛し・・・・」
君に届かない言葉が俺の口から無意味に零れて
涙も一緒に零れ、君の頬を濡らした。
だけど、君の瞳は固く閉ざされたまま。
『・・・・・アンタが手をかけて、アンタが首を絞めた。そうでしょう?』
そうだよ、俺が、殺した。紅の言うとおり
『あいつが、このまま目が覚めなくてもいいのかって聞いてるんだ』
いいわけがない。聞かなくても分かるだろう?アスマ
『・・・何から逃げてんだよ・・・』
俺に背を向けるナルトを、見たくなかったんだ・・・・。サスケ
『ナルトを、あんな目に合わせる必要はなかったはずだ!!』
俺から離れていくナルトをこれ以上見ないためにですよ。イルカ先生
溢れてくる涙を止めようともせずに、カカシは涙と、届くはずのない言葉を漏らし続けた。
あのときに引き返すわけにはいかない、俺は、どうしたらいいの?
ダケド―――――
これが、アナタの
これが俺の望んだ世界 ―――――
それは、満月の夜の出来事
終