あぶらあげ

　アナタが俺の首に手をかけて　そっと力を込める



　俺はうっすらと目を閉じて



　微笑んでみた



　アナタが最後に目に焼き付けられるのは



　きっと俺の醜いスガタ



　新月の夜

　月の光のささない部屋で

　俺を永遠にアナタに焼き付けたかった









　あなたが望むのなら・・・・俺は何だってするよ







「付き合おっか」

　唐突にカカシから告げられた言葉。

　ナルトは驚いて目を見開き、

「なんで？」

　そう口にしていた。

　カカシにとって自分は九尾のバケモノで、世界で一番憎い存在。

「ナンデって、ナルトが好きだからに決まってるデショ？ナルトも俺のこと好きだよね？」

　そう、確かにナルトはカカシのことが好きだった。

　それも、恋愛という対象の中で。

　自身に満ちあふれていたカカシに、ナルトはつい顔を赤らめ、うつむいてしまった

「だからサ、付き合おう？」

　うつむいたナルトの顔をのぞき込み、カカシはにっこりと笑顔でナルトに告げた。

「・・・うん・・・・」

　ナルトは小さな声でそれだけを呟いた。





　あなたの願いなら、あなたの望みなら

　それが、どんな結果になっても構わない

　たとえ、捨てられても、殺されても





　あなたの望みなら





　そう、深く考えることなどない。

　俺はあなたが望むようにしていればいいのだから

　



「じゃ、今日は一緒に帰ろうね～ｖ」

　ナルトは嬉しそうな顔をして、こっくりとナルトが頷くと、カカシは満足そうな顔をしてくるりと背を向け任務へ戻っていった。

　背を向けたカカシをナルトはじっと見つめていた。





　カカシと付き合って３カ月。

　カカシがしたいと言ったことにナルトは何も言わずに従っていた。

　キスも、SEXも拒まないで。

　だけどカカシが自分に対して「好きだよ」と言ってくることには一度も自分から進んで答えたことはなかった。

　心の中でそれを答えるだけ。

「俺もだってばよ」

　にっこりと笑ってそう言っても、カカシはどこか不満そうな顔をしている。



　だけど、気が付かないフリ。



　好きだって言ったら

　

　もう俺はあなたの一番の望みを素直に聞いてあげられなくなるよ？



　だから、言わせないでよ・・・



　そんな顔をして「俺のこと、好きって言って？」なんて、言わないで



　俺にはあなたの望むことすべてを叶えてあげたいんだ。



　でも・・・・



　それだけは、言いたくなかったんだってば・・・





「カカシせんせーのこと・・・・好きだってばよ」

　にっこりと笑って言えたと思っていた。

　いつもどおりのガキっぽい笑顔で。



　ねぇ、カカシせんせー

　そんな顔しないで

　俺は本当にせんせーのこと大好きだってば

　だけどそれを口にしちゃったら

　全部がなくなりそうなんだってばよ。







　ゴメンナサイ。



　

　これは、俺の我が儘なんだ





　ナルトはカカシと繋いでいる手にきゅうっと力を込めた。

　



　ちょっとでいいの



　あなたが飽きるまででいいから



　手を、離さないで



　これは俺の最後の願い





　そんなことを思っていると、カカシの手が自分の手を握り返してきた。

　ぱっとカカシの方を見ると何かを考えているようだったので、ナルトはまた前を向いてカカシに手を引かれるまま歩いていた。









苦しいんだ

カカシせんせーといると苦しいんだ



もうすぐカカシせんせーは俺のこと、捨てる

だって、ときどき怖い顔して俺のこと見てるから。

気付かない振りをしてるけど

いつ別れを告げられるかと思うと、いつもからだがこわばってしまう



今日だって、イルカせんせーと約束があるからって大ウソついて、カカシせんせーから逃げちゃった。



ゴメンナサイ。

カカシせんせーがあんまりにも優しいから

あんまりにも俺ナンカに「好きだ」って言ってくれるから、俺



まだ一緒にいたいって思ってる



ゴメンナサイ



覚悟ができたら、もう逃げないから。



だけどもう少しだけ





この時間を取り上げないでください













「ナルト」

　ある日、任務が終わって帰ろうとしたところを誰かに呼び止められた。

　カカシかと思い、ナルトは恐る恐る顔を上げたが、そこには人の良さそうな顔をした良く知る人物が立っていた。

「イルカせんせーｖ」

　カカシじゃないことにほっとしたナルトは嬉しそうにイルカに笑顔を向けた。

　それは、演技ではない笑顔。

「元気か？お前最近元気じゃなかったからちょっと様子見に来たんだけど」

　そう言ってイルカはナルトの頭を撫でた。

　そんな些細なことに心配してくれるイルカの気持ちを嬉しく思ったナルトは嬉しそうにいるかを見上げた。

「元気だってばよー！！イルカせんせーってば心配性！！そんなんだから白髪が増えるんだってば！」

　ニシシ、と笑うナルトが、どうしても元気、という風には見えなかった。

　無理な笑顔、というわけではなかったが以前のナルトの笑顔に比べたら格段に輝きを失っていた。

　イルカにはナルトの笑顔が曇ったわけが分かっていた。

だけど、ナルトが好きだと言っている今は仕方がない。



「そうだ、ナルト今日給料日だったからラーメン奢ってやるぞ？」

「本当？！」

　イルカがそう言うとぱっとナルトの顔が輝いた。

　現金なヤツ・・・そう思わなくもなかったが、ナルトは可愛い息子のようなもの。

　少しでも元気になるなら自分の財布がいたむことぐらい、なんのそのだった。

「ああ、今日は任務も頑張ってたみたいだなぁ、ナルト。何倍でも意好きなだけ食え」

「やったーっ！！イルカせんせー、大好きだってばよ～ｖｖ」

　満面の笑顔を振りまいてナルトはイルカに抱きついた。



　イルカせんせーだったら、大好きって言っても心は痛まないのに



　カカシせんせーに言ったら、心がちくちく痛むのは何でだろう・・・？



　

「もちろん一楽だってばよ！！」

　すとんっと音を立ててナルトはイルカから離れた。

「わかったわかった」

　ぐいぐい引っ張っていこうとする自分を見て、イルカは苦笑している。

「オイオイ・・・ナルトそんなに急がなくても一楽は逃げないから。それにちゃんとカカシ先生に挨拶しなくちゃダメだぞ？・・・・じゃ、カカシ先生、失礼します」

「俺も報告書を出しに行かないといけませんからね。ナルト、あんまり我が儘言ってイルカ先生を困らせないんだぞ？」

　にっこりと笑ってカカシはナルトの頭を撫でた。

「分かってるってばよ、じゃ、カカシせんせーバイバーイ！！」

　まるでカカシの手を振り払うようにイルカの手を掴み一楽へと引っ張っていった。

「ああ、またな」

　そう言ったカカシをナルトは振り返らなかった。

　振り返ってしまえば、泣いてしまいそうだったから・・・・。









「好きだよ」「愛してるよ」

　その言葉をもう聞けないんだね。

　あなたが俺を呼びだしたときからもう、分かってた。



　あなたの部屋に通されたら、びっくりするくらいに暗い部屋。

　今日は新月



　ボッと音がして、あなたの方を見れば煙草に火をつけるところで

　あなたの顔だけが淡く浮かび上がった。



「ねぇ・・・・ナルト・・・・」

　そこでカカシはふぅっと煙をはきだした。

「飽きちゃった。別れよ？」

　その言葉を聞いた瞬間、自分の顔が引きつるのが分かる。

　分かっていたことだったけど、この４カ月いつ来るだろうと思っていたことだったけど、胸が痛まずにはいられなかった。



　俺は、あなたが望むことなら ―――――



「・・・ウン」

　それだけ呟いて、ナルトはくるりと背を向けた。

　かちゃり、とドアノブを回し、部屋を出ようとした瞬間凄い力で引き戻された。

　驚いて目を見開くと、底にはカカシが恐ろしい形相で自分を見つめている。

　部屋まで連れ戻されると、ナルトはカカシにベットに押さえつけられた。



　そして―――――



　カカシがナルトの首に手をかけた。





　そう、これがあなたの一番の望み



　俺の最大の望み ―――――



　

　あなたがぐっと力を込めて首を絞めたら、あっという間に行きができなくなって苦しくなって



　だけど、最高に幸せ



　俺はあなたの願いを叶えることができて

　あなたは俺の願いを叶えてくれて



　本当に幸せ





　けど、俺がまだ生きている間に、１つだけ伝えさせて





　力を振り絞って、ナルトはカカシの頬に手を当てた。

“こっちを見て”

　という風に。

　カカシが自分の顔を見たという気がしたとき、ナルトは微笑んだ。





　びくっと首を絞めている手が震えるのが分かる。

　だけどナルトはそんなこともお構いなしに小さく唇を動かした。



「　　　　」



　声にならない声を口にしたとき、ナルトは満足したかのようにぱたり、とその手をベットの上に投げ出した。



　これでもう、なんの心残りもない ―――――





　ゆっくりと意識を手放した。







　その瞬間、カカシはナルトの首を絞める力を緩めて心臓の上に手を当てた。

　ほっとしたかのように息を吐き、カカシはナルトの体をそっと抱きしめた。



　ナルトは生きていた。



　だけど、ナルトはカカシの背に自分の手を回すことなかった ―――――







　あなたが望むのなら、この体だってこの命だって惜しくない

　けど、あなたの望みを叶えきれなくてゴメンナサイ ―――――

　往生際が悪いヤツで、ゴメンナサイ

　だったらせめて、もう二度と目を覚まさないようにするから

　二度と ―――――





　あなたの前に現れないように





　俺がいない世界



　それが―――――







　あなたの望んだ世界















　それは、新月の夜の出来事









終

痛いので注意。　　　　　　　　　
　　　　　　　　　


ナルトがいつか目を覚ましたらいいなぁ、と思います。