空が真っ赤に染まっていた。
俺はそれに背を向けて
ただ一人の元へ走り出した。
この俺が
ただ一度愛を誓った人の元へと
ナルトが自分より遅れて上忍になり、一年ほど過ぎたころだっただろうか。
急に幽閉されることが決まった。
殺されるのでもなく、封じられるのでもなく、幽閉。
ビンゴブックにも載るくらいに成長したナルト。
九尾のことが漏れることを恐れた里の上層部がナルトを幽閉した。
森深くの祠へ。
その居場所は誰にも知らされることはなかった。ただ、自分を除いて。
「ナルトの、監視を頼む」
火影に告げられたのは、ナルトが幽閉されたと聞いて数年前中忍選抜試験で競い合った者たちが抗議に行った次の日だった。
自分はそれを天井裏から聞いていた。
口々に「何故だ」と問うヤツらに、火影も、現在は暗部に復帰しているカカシも、相変わらずアカデミーで教師をやっているイルカも口を開こうとはしなかった。
「昨日は聞いておったのじゃろう?」
自分は返事代わりに小さく会釈をした。
かたん、と音を立てて火影が立ち上がり、窓の外を眺めたまま口を開いた。
「儂は、あれに何もしてやれなかった・・・4代目の忘れ形見じゃ、できることなら幸せに過ごさせてやりたかった・・・じゃが、里はあれを許すことはしなかった・・・恨み、怒り、悲しみ・・・全てをあれに向けた。・・・・あれは・・・迫害されてなお、幽閉されると告げたときでも恨み言一つ言わなかった。それどころか「それでも、この里が好きなんだ」そう言って、笑いおったわ・・・。儂はあんな綺麗な笑顔は見たことがない」
火影は自分に背を向けたまま、手を顔にあてがった。
「・・・あんな笑顔をナルトに与えてやったのは、お主の存在だそうだ・・・。儂ともあろうものが、あんな場面で惚気られるとは思わなかったぞ・・・ネジよ・・・」
そう言って火影は自分の顔を見た。
「・・・ナルトには言うなと言われておったが、儂も年じゃのぅ・・・感傷的になっておるようじゃ・・・任には、着いてもらえるか?」
「俺は、ナルトに合わせる顔がない」
「何故、じゃ?」
不思議そうに問いかけてくる火影。だが理由は分かっているのだろう。
「・・・分かっているでしょう、火影様」
「ナルトが幽閉されると聞いたとき、何もできなかった、何も言えなかった、というところかの・・・。ええ若いモンがそのようなことを気にしておったら禿げるぞ。お主はただでさえ追いつめられやすそうじゃからのぅ」
「会ってしまえば、ナルトを連れ去ってしまいそうな自分が怖いのです・・・・失礼します」
小さく会釈して、部屋を出ていこうとする。
ナルトには、会えない。
会うことは許されない。
会えば、ダメだと言うナルトの制止も振り切って、ナルトを連れ出すだろう。
あのとき、ナルトは幽閉される前に自分が一緒に里を抜けようと言っても、悲しそうな顔をしただろう。
無理矢理にでも連れ去ってしまえれば
こんな気持ちにはならなかったかもしれない。
「・・・いっそ、連れ去ってくれてもかまわん」
自分が火影の執務室から出ようとしたときにそう火影の声が聞こえた。驚いて後ろを振り返ると真剣な顔で自分を見ている火影がいた。
再び、自分はちいさく会釈をして火影の部屋を後にした。
ねぇ、ネジ、俺に会えなくなったら、どうする?
・・・・
黙ってないで何とか言えってばよ。
・・・考えてた。お前がいなくなったときのことを。
それで?どうするってばよ?
会いに行く
だから、会えなくなるんだってよ。
それでも、会いに行く
じゃ、待ってる。ネジのこと待ってるってばよ。だから、ちゃんと、会いに来いよ
ああ、約束だ
それから、ナルトは鮮やかな笑顔で笑った
はっ・・・。
浅い眠りに入っていたようだ。眠ってから数分と立っていない。
あのとき『約束』をしていたときのこと夢に見ていたようだ。
会いに行く、そう約束したのに
会いに行けない自分が情けない
待ってる・・・・
ネジのこと、待ってるってばよ
だから
会いに来て
ばっとベットから身を起こすと、鍵もかけずに家を後にする。
そして、走る。
火影にナルトがどこにいるか聞くために。
「・・・・ネジか・・・・」
「・・・火影様、ナルトの居場所を教えて下さい」
「北の森の祠じゃ・・・じゃが行くのは明日にしろ」
・・・?
火影の言っている意味が分からなかった。
「明日、大がかりな暴動が起きるはずじゃ、そのときの混乱に紛れてナルトを連れ出せ」
「・・・いいのですか・・・?」
火影はゆっくりと頷いた。
「ナルトを頼んだぞ・・・ネジよ」
「ところで、暴動の件はどうやってお知りになったのですか?」
「儂は年をとっておるが火影じゃ。儂の知らぬことなどない。カカシやイルカ、サスケたちにも明日のことは伝えてある。相当な被害が出るやもしれんが・・・お主は気にせずに、ナルトを・・・」
「分かりました」
「ナルトに伝えてくれぬか?すまなかった、と」
自分はゆっくりと首を振った。
「・・・ナルトには伝えなくても分かっているはずです」
そうか、と火影が言ったのちにネジはゆっくりと姿を消した。
次の日、火影が言ったように大がかりな暴動が起きた。
日が暮れたころあちこちで火の手が上がり空は真っ赤に染まった。
自分はそれに背を向けてナルトの元へと急ぐ。
2時間ほど走ったときに小さな祠が見えてきた。
祠、と言うよりも檻に近い。
入り口には鉄格子のようなものは見あたらない。ドアがポツリとあるだけだ。だが、そこには呪符のようなものが貼られていることから、結界が張ってあるのだろうということがわかった。窓も同じように呪符が貼られている。
窓にはナルトの姿があった。
真っ赤に染まっている方の空を心配そうに見ていた。
里がある方角だ。
ゆっくりと、自分は一歩を踏み出した。
窓から見えるナルトが驚いたかのように目を見開いた。
自分が少し息が上がっているのが分かる。
窓に手を触れると、ばちっと音を立てて結界が窓を開けようとする自分の手を弾いた。
ナルトは首を振りながら「いいから」と言っているようだ。
少し離れていろ、とナルトに言うとナルトはすっと窓から離れた。
呪符を火遁の術で焼き払う。
がらっっと窓が開いてナルトが顔を出した。
「な・・・何で・・・?」
ナルトの第一声は、会いたかったでも、待ってたでもなく、それだった。
もしかして約束を覚えていたのは自分だけだったのだろうかと思いながらナルトの頬にゆっくりと手を這わせた。
「会いに来た」
そう呟いて笑みを浮かべると、ナルトの目は大きく見開かれた。
ぎこちない笑みをナルトは返してきた。
ゆっくりとナルトの体に手を回して、抱き寄せた。
しばらくすると小さく肩を震わせて、嗚咽が漏れるのが聞こえた。
「遅いってばよ・・・」
ぽつり、とナルトは漏らした。
「すまん・・・」
ずっと待っていてくれたのだろう。今ナルトが自分の腕の中にいることがそれを証明してくれていた。
ナルトに会えないことを癒してくれるのはやっぱりナルトだけだから。
どれくらいたっただろうか、ずっとこうしていたい。そう思っていたときに急にナルトは顔を上げた。
「ネジ、来てくれてありがとう。会いに来てくれて凄く嬉しかったってばよ!」
少し目尻に涙を残して、ナルトは笑顔でそう言った。
「また、会いに来てくれる・・・・?」
おそるおそる、と言ったようにナルトは言いだした。
「いや・・・・」
そう自分が言うとナルトは泣きそうな顔で見上げてきた。
「会いに来て・・・くれないの・・・?」
今にも大きな目から涙が溢れてきそうだ。
ちがう、そんな悲しそうな顔をさせたかったんじゃないんだ。
「俺と一緒に、里を出るんだ」
そう告げるとナルトは少し安堵したような表情を浮かべ、目を閉じて首を振った。
「ダメ・・・俺はネジの将来を潰しちゃうことなんて、できないってばよ・・・」
「俺がお前といたいと思ってもか?」
「うん・・・だって、俺がここから出たら、九尾が出て来ちゃうかもしれないし・・・里が、壊れちゃうかもしれない・・・・それに・・・」
ナルトが何かを言いかけているにもかかわらず、自分はナルトの両肩を力を込めて掴んで
「お前は!!俺よりも・・・里を選ぶのか・・・?!俺は、お前といたいんだ・・・俺の将来は、お前といることが一番・・・・」
そう言いかけて何か柔らかいものに口をふさがれた。
それがナルトの唇だとわかり、自分も積極的にナルトの口内に下を侵入させていった。
いつしか、どちらのかわからない唾液がナルトの口の端からつたったときようやく口を離した。
つぅっと銀色の糸が二人を繋いでいた。
「俺・・・お前と一緒にいていいの?ずっと一緒にいてもいいの・・・?」
ゆっくりと自分は頷いた。
「ずっと傍にいてくれ・・・約束だ」
ナルトは自分のその言葉を聞くとあの約束を交わしたときよりも綺麗な笑顔で自分に笑いかけた。
「約束だってば!!」
再びナルトは自分の胸に顔を埋める。
そっと抱きかかえてナルトを祠の外へと出した。
約束を
ずっと一緒にいる
そう交わした約束を
守るのはナルトだってコトが分かっているのか?
俺はお前の傍にいつでもいる
だから、お前も俺の傍にいてくれ
それが俺とお前との新しい『約束』・・・
終