誰も愛してくれなくていい。
愛なんか知らなくてもいい。
「憎悪」「怒り」「憐れみ」それだけが俺の生きる糧
生きている理由
それだけが、俺の存在価値
だから、俺に「愛」を教えないで。
何もかもを失ってしまうから。
俺と貴方達との境界線を、超えるヒト。
アナタは、キライ。
「おはよう!諸君!いや~今日は人生というなの迷路に迷ってな・・・」
「「ハイ!!ウソ!!」」
いつものような、朝。
カカシはいつも通りに2時間遅刻、そして、見え透いた言い訳。
サクラとナルトがそれに突っ込むのもいつも通りで、それは変わらない日常。
「ぬるま湯」の世界。
「先生、繊細なハートの持ち主だから、そんな頭から否定されたら傷つくんダケド。」
「誰が、繊細なハートの持ち主・・・・。カカシ先生、繊細なハートの持ち主でしたら、遅刻はしないと思うんですけど。」
にっこりと、サクラ。
だがしかし、後ろに「誰が繊細だって?しゃー!!んなろー!!」という内なるサクラがいるのは気のせいだろうか。
「誰が繊細なんだってばよ・・・・」
全くその通り。
アンタが繊細なら、この世の9割の人間が繊細だと思うってばよ。
もちろん俺はそのカテゴリーにははいらないけれど。
俺ほど神経が図太い人間はイナイと思うよ。
だけど、それは貴方達での世界のこと。境界線の向こうの世界のこと。
こちら側の人間は、神経が太くないと生きていけないよ。フツーのこと。
繊細なハート?そんなもん持ってて、この境界線の中で生きていたら後に残るのは「死」だけ。
「ま、とりあえず任務を始めるぞ~。今日の任務は・・・・」
あなたはすき。
俺と貴方達の境界線があるところの限りなく近くにいるヒトだから。
それでも絶対にこちら側にははいってこないヒト。
境界線を侵さないヒト。
俺の中に入ってこないヒト。
だからあなたはすき。
アノヒトは、キライ。
「ナルト~?ちゃんと聞いてるのか~?」
「え?ちゃんと聞いてるってばよ!!」
「ま、いいや。じゃ二手に分けて、俺とナルト、サクラとサスケ。以上発見次第狼煙を上げるコト」
「了解」
サクラは凄く嬉しそうに、サスケは少し不機嫌そうにその場を離れていった。
「ナルト、俺たちも行くぞ」
「うん!!で、カカシ先生、今日の任務は何だってばよ?」
「オマエね・・・やっぱり聞いてなかったんだ」
「いししっっ・・・・ゴメンってば・・・」
「人の話はちゃんと聞いとけヨ。人としてネ」
ナルトのデコを軽く中指で弾く。
一瞬のうちにその場の空気が変わった。
「そういえばサ、ナルトに聞きたいコトあるんダケド。」
「何?」
ひどく冷めたナルトの表情。カカシだけが見ることのできるナルトの顔。
ついこの間まで。
「オマエサ、この前アスマにその顔見せたんだって?どーいう風の吹き回し?」
「別に。見せたワケじゃないってばよ?それにさー、せんせになんか関係あんの?」
「そりゃ、一応ね」
「ああ、タンニンだし?」
「そうじゃないデショ?」
何とかはぐらかそうとするナルトのその態度にカカシは苛立ちを覚えていった。
だが、カカシも核心はつこうとせずに、ナルトが自然に話し出すのを待っていた。このガキに何かを聞き出すのは至難の業。
一時期、ナルトが苦しそうに腹を押さえているところを何度も目撃した。さすがに5度目にそれを見たときは、カカシも心配になって「ナルト、気分が悪いんなら、ちゃんと先生に言わないとダメだろ?」こう声をかけたら。
「は?何でそれをせんせに教えないといけないワケ?」
いきなりそう返された。
本当のナルトを見てから俺はさらにナルトに興味を持った。面白い成長の仕方をしたなと思ったが、本当のナルトを知るとさらにその楽しみは増した。
俺だけが知っているナルト。
俺だけに見せるナルトの本当の顔。
俺だけが知っていると思っていたのに・・・。
「・・・カカシせんせと同じだってばよ?俺が腹痛でうずくまってたらアスマ先生がわざわざ手を差し伸べてくれたってワケ。しかも、ご丁寧に俺を家まで運んでくれて、看病までしてくださったんだってばよ。」
カカシせんせーは好き。
アナタは俺の世界には入ってこない。
境界線の内側には入ってこない。
俺の世界をかき乱さないから。
だからすき。
アノヒトは俺の世界をかき乱す。
アノヒトは境界線の内側に入ってくる。
アノヒトは俺の世界に入ってくる。
だからキライ。
イラナイ。
入ってこないで。
「へぇ・・・アスマがねぇ・・・で?ナルトはアスマに惚れちゃったってワケ?」
そんなの、俺が許すわけないデショ?
一瞬だけ殺気を込めて、ナルトを見据える。
俺から離れていくくらいなら、殺すよ?
そうカカシの目が物語っていた。
「まさか、俺はアスマせんせーみたいなの大ッキライだってばよ?境界線を超える人間はキライ。カカシせんせーはすきだよ?絶対に、俺の世界を侵さないから」
にっこりとナルトは笑って見せた。
端から見ていればそれはとても無邪気な笑顔で。
そう、カカシのことはすき。
ダケドアノヒトは危険。
俺の世界を壊すヒト。
だから、“アスマせんせー”はキライ。
熊みたいな体格でいつもたばこ臭くて。
ウットオシイって思った。
そばに寄るなって思った。
俺の苦しみを分かろうとしていたから。
優しい大人は嫌い。
ミズキのときみたいにきっと、裏切る。
九尾がいて、お腹が痛くなるのは月に一度くらい。
お腹が痛くなったらすぐ治るからほっといてってイルカせんせーやじっちゃんにもいってるから、みんなにも言ってるから知っていると思ったのに。
放っておけばいいのに。俺のことなんか。
境界線の外側で見ていればいいのに。
里を壊滅寸前まで追いつめた九尾を孕んだガキなんて。
ほっといて。
温かかったあの手。あの眼差し。
あの温もりを知ってしまったら、俺の世界は壊れちゃう。
だから、キライ。
好きにならない。
決めたんだ ―――――
「よ、ナルト」
呼び止められたその声に、ナルトは一瞬にしてうんざり、という顔をしてふりむいた。
「・・・・なんか、用だってばよ?」
あからさまにしかめた顔にアスマはちょっとだけ眉を動かしただけで
「お前、よく腹が痛んだりすんのか?」
「あんた、お節介ってよく言われるだろ?」
「いや」
短く答えるとアスマはぽとりと吸い殻を地面に落とし足で消す。
「お前にだけだ」
その言葉を聞いた途端、ざわざわと胸が騒ぎ始める。
キケン
踏み込まれる
キョウカイセンがオカサレル
一人の世界が
コワサレル
「・・・・・ばっかじゃねぇ?」
その言葉にも、アスマは怒り出したりはしなかった。
真剣になるとをみているだけで。
「ま、簡単に信じてもらえるとは思ってないけどよ」
とりあえず、覚えとけ。
ぽんっとナルトの頭に手を置いた。
あったかい・・・・
そう思ってしまった自分に、次の瞬間激しい自己嫌悪を抱く。
イルカやカカシの手を、心地よいと思ったことはあるが、温かいと思ったことはなかった。
イルカやカカシはあくまでも境界線の外側で自分をみていてくれる存在。
だから、その手を心地よいと思った。
「触んな・・・・!」
ぱしっと乾いた音を立てて、ナルトはアスマの手を振り払った。
「お~・・・イテェ・・・」
ナルトの行為にもさして傷ついた様子もなく、アスマははたかれた方の手をみている。
それが、また、一段とナルトを苛立たせた。
「この前から、アンタウザいんだってばよ!!いちいち俺に構うな!!」
そうじゃないと、もう一人では生きてはいけないから
「だいたい、人の領域にズカズカ踏み込んでくるなってばよ!!」
一度光を知ってしまえば、暗闇の中じゃ自分さえも見えなくなるから
「俺はお前みたいなのが一番キライなんだ・・・・!」
俺にはアナタの光は痛すぎるから
「だから、俺に構うなってばよ」
お願い
構わないで
アナタの優しさはこの身には痛すぎるから
「言いたいことは、それだけかよ?」
アスマはぽりっと頭をかいた。
キライと言われて、傷つかなかったわけじゃないけどそれ以上にナルトが、自分に向かって言葉を投げつけているナルトが泣いているように見えたから、一人にはしておけないと思った。
こんな子供にまいっちまうなんて、俺の常識にはなかったけどな。
つい先日、ナルトがうずくまっているのを見かけたとき、とっさに声をかけた。
アイツは俺が声をかけるなり、暗部も一瞬たじろぐような殺気を瞳に乗せて睨んできた。
確かにその瞳は「俺に近づくな」って言っているようにも見えたが、それ以上に「助けて」といっているようにも思えた。
もとより、可愛い顔してるなぁ、くらいには思っていたが、恋に発展したのはそれがきっかけだっただろう。
俺を一瞬でオトしたんだ。責任はとってもらうぜ?
「俺は俺のやりたいようにやる。ま、おめぇもいつか俺を好きになるだろ」
その言葉になるとは一瞬呆気にとられ、アスマは飄々とその場を後にしようとした。
「おっさん、吸い殻捨てんなってばよ」
ナルトはアスマを呼び止めた。
「お、わりぃ・・・つい、な」
苦笑いを浮かべてアスマは吸い殻を拾う。
「それにしても、わざわざ呼び止めなくてもおめぇが捨てればよかったんじゃねぇか?」
「ポイ捨てはよくないってば。誰が里のために身体張ってバケモノ飼ってると思ってんの?」
「そうだな・・・今度からは気をつけるぜ」
吸い殻を拾い上げるとアスマは再びナルトに背を向けた。
だが、数歩進んでまたくるりとナルトを振り返る。
「早く、俺に惚れろよ?」
ナルトをからかうような笑顔でアスマは言い放った。
また、ナルトは呆然とアスマを見つめる。
だが次の瞬間真っ赤になって
「ぜっっっったいにアンタだけは好きにならないってばよ!!」
そう叫んでナルトは駆けだしていく。
その後ろ姿をアスマは愛しげに眺めていた。
そして、その二人をずっと見つめていた影がナルトが走り去った瞬間に消えていった。
続