「あのね・・・俺、カカシせんせーに嫌われたいの」
「はぁ?お前はカカシのこと好きじゃないのか?」
「・・・・だいすき。だから、カカシせんせーは俺を嫌ってくれないと困るの。」
アスマはいまいちナルトの言っている意味が分からなかった。
好きなら好きでいいじゃないか。別に嫌いになる必要がどこにあるのか。アスマは首をひねった。
「ねぇアスマせんせ、カカシせんせーがさ、俺と付き合ってから、なんて言われてるか知ってる?」
アスマの耳にはそれなりの噂を耳にしていた。どれもこれも、カカシとナルトを中傷する噂ばかり。
「・・・自分がなんて言われようと俺はいいんだけどカカシせんせーが悪く言われるのはいやなんだってばよ。だから、カカシせんせーが俺を嫌えばいいんだって思ったんだ。いくらカカシせんせーでも俺がこんなコトしてるって知ったら嫌いになるでしょ?」
ならねぇだろう・・・カカシだし。
「・・・・俺はね、カカシせんせーが幸せならいいんだってば。俺のすきな人は、みんなから尊敬されて、羨望されて・・・俺とのことで中傷されるような人じゃないよ。」
ナルトは、すこし微笑んだ。
カカシのことを話すときのナルトは、とても優しげな微笑み。
だけど、最後の方のは少し悲しげな微笑み。
「アイツは、尊敬されるような人間じゃねぇよ。」
「ん~・・・もし、そうだとしても俺はカカシせんせーに幸せになってもらいたいの。だから、俺はカカシせんせーの中からいなくなった方がいいんだよ。いつか、いつか俺は」
あの人の重荷になる
「だから俺は消えるんだよ」
あの人の前から
この世界から
あの人の心から
「・・・・それでお前はいいのか?カカシから嫌われて、カカシの心から消えて」
「アスマせんせー何度も言わせないでってば。カカシせんせーが幸せになってくれればいいの。あの人を不幸にすることは誰だって許さない。その原因が俺だとしたらなおさら許せないってば・・・。それにね、俺もうすぐこの里からもいなくなっちゃうんだ」
ぽんぽん、とナルトは自分のお腹をたたいた。
「まさか・・・」
「九尾、出てきたいみたい。もう抑えきれなくなるよ。そうなったら、俺は殺しちゃうかもしれない。カカシせんせーやサクラちゃん、サスケ、アスマせんせーだって。里のみんなを殺しちゃうかもしれないってばよ。ま、里のみんなはどうでもいいけど、カカシせんせーは殺したくないんだってば。殺せないよ。だからもうすぐじっちゃん・・・火影様に頼んで封印してもらうんだってばよ」
カカシ
カカシ
カカシ
ナルトの心はカカシのことだけでいっぱいだった。
ナルトの望みはカカシが幸せになること。
ナルトの幸せはカカシが幸せになること。
カカシがナルトの全てだった。
「だからアスマせんせー、このこと誰にも言わないでってば。そうなったら俺の計画全部台無し。だから、絶対絶対誰にも言わないで。」
「お前はそれでいいのか?」
「いいよ、俺はカカシせんせーが不幸にならないならそれでいいんだってば。カカシせんせーは、凄く怒るかもしれないけど」
「っつーワケ。あ、ちなみに俺うずまきとは何にもないから。あれはお前を遠ざけるための演技」
・・・・・・・・・・・・・・・。
一同、カカシを見つめる。
カカシ茫然自失。
まさかナルトがそんなことを考えていたなんて、カカシは思いつきもしなかった。
ナルトの見てるこっちが痛くなるような自虐精神をカカシは知らないわけではなかったが、まさか、“自分がいなくなればカカシは幸せになれる”などと思ってるとは・・・。
どうしてナルトは勝手に決めるの?
俺の幸せはお前が傍にいてくれること。
お前がいないと生きていけないよ?
お前がいないと、もう
息だって出来ないよ
俺を、独りにするなよ
「なんで・・・ナルトは俺に話してくれなかったのかな。アスマなんかに話すなんて・・・。」
なんか、というところにアスマはカチンときたが、
「・・・まぁ、それはうずまきに聞けや。行け、時間がないぞ」
カカシは弾けるように外へと飛び出し、ふっと消えた。
残されたのはアスマ、紅、ガイ。
「・・・ナルト君、ホントにカカシのこと愛してるのね・・・でも、悲しい愛し方。好きな人が傍にいてくれること以上に幸せなことなんかないのに」
「・・・・そうだな・・・」
カカシは裏の山の祠まで、珍しく息をせききって走っている。
ナルト
ナルト
ナルト
無事でいて。
ざっっ!!
祠には物々しい雰囲気が漂っていた。
火影のチャクラとナルトのチャクラを感じる。
他に人はいないみたいだ。カカシはゆっくりと祠へと近づく
「・・・・本当にいいのか?」
「うん・・・そうでもしないと、九尾が出てきちゃうってばよ?」
きゅぅっとナルトは腹を押さえた。
「済まぬ、済まぬナルト・・・」
「じっちゃんが謝ることないってば。俺がいなくなれば、全部が丸く収まるんだよ?」
あの人を殺さなくて済む
あの人が離れていくのを、見なくて済む。
あの人が不幸になるから離れたいと思った。
これは本当。
でもそれ以上に、俺は、あの人が離れていくのが怖かったんだ。
「・・・・始めて」
ナルトはゆっくりと目を閉じた。
火影は封印の呪詛をを唱え始める。不思議な韻を持つそれ。
次第にナルトの意識は遠のいていった。
ふ、と思い出すのはカカシのこと。
ありがとうカカシせんせー。
俺を好きでいてくれて。
ひどいこと言ってごめんなさい。
ホントはずっと、傍にいたかった。
一緒に笑いあって、ときには喧嘩したり、一緒に暮らしたりしたかった。
朝起きたら一番におはようって言って、寝るときはあなたの暖かい腕に抱かれて。
もっと手をつないで
もって抱き合って
もっとキスしたかった。
もっと好きだって言いたかった
もっと愛してるって伝えたかった。
あなたとたくさんの日々を過ごしたかった。
あなたと過ごした日々は忘れません。
もう戻ってこない日々だけど、
俺の何よりの宝物。
つぅっと、ナルトの目から一筋だけ涙が零れた。
ばんっっ!!!
そのとき、カカシが祠へと乱入してきた。祠の扉は蹴破られ片隅に追いやられる。
「・・・ナルト・・・!!」
祠の寝台に横たわっているナルトに、さっと近づくカカシ。
火影もそれを止めようとはしなかった。
「なんで・・・あんなウソをついたの?」
「・・・カカシせんせ・・・本物?」
ナルトは鮮やかな蒼い瞳を見開き、カカシを見た。
「・・・本物だよ、ほら・・・」
カカシはナルトの手を持つと、そっと自分の頬に触らせた。
「・・・どうしているの?」
「アスマから聞いた。」
「・・・・あのおしゃべり・・・」
チッとナルトは小さく舌打ちをした。
「・・・帰ろうナルト?ね?」
「ダメだよ・・・九尾が出てこようとしてるの。九尾が出てきたらきっと俺はみんなを殺しちゃうってば・・・カカシせんせーを殺しちゃうってばよ。だから・・・帰れない・・・」
ぐっと・・・ナルトは自分の手を握っているカカシの手を握った。
「カカシせんせーお願い。俺のこと忘れて幸せになって」
「ムリだヨ・・・ナルトがいないと幸せになれないよ、俺は」
そっと、ナルトの頬を伝っていた涙を拭う。
溢れてきそうな涙をカカシはこらえた。
「だから、一緒に帰ろう・・・?」
「カカシせんせー、アリガト・・・例えずっと眠ったままでも、例え体がなくなっても、ずっとずっと、カカシせんせーの傍にいるから・・・ね、お願い、約束して幸せになるって」
ナルトはにっこりと微笑む。脆くて今にも崩れそうな儚げな笑顔。
「約束する、約束するから・・・・・
だから俺をオイテイカナイデ
「嬉しい・・・俺幸せだってばカカシせんせーに会えて、カカシせんせーに好きになって、カカシせんせーと一緒に過ごせて・・・最高に幸せ。本当にありがとう・・。カ、カ・・シせん・・・せ・・・大好き・・・」
カカシの手を握っていた手が滑り落ちた。力無くナルトの傍に投げ出される。
もう一度、カカシはナルトの手を握った。
「ナルト・・・?どうしたの?眠っちゃった?」
そう、ナルトは眠ってしまった。
ただ違うのは、それが永遠に覚めないと言うことだけだった。
幾筋もの涙がナルトの頬を伝っていた。
「仕方ないな、ナルトは・・・」
ぽろぽろとカカシは涙を流した。
拭いもせずにカカシはナルトの手を両手で握り続けていた。
「ナルトが目を覚ますまで、一緒に眠るから・・・ちゃんと起こしてね」
ちらり、と火影を見る。
「・・・お願いします。火影様・・・・」
火影は何も言わずにカカシに術を掛けようと呪詛を唱える。
「ありがとう、ございます・・・」
「・・・・ナルトを、よろしく頼む・・・おぬしらには本当に済まぬことをした・・・言えた義理ではないかもしれぬが・・・幸せに・・・」
カカシはゆっくりと眠りについた。
ナルトの手を、カカシは離すことはなかった。
火影が二人を見ると、微笑んでいるような気がした。
ナルトとカカシの近しい者には二人のことが伝えられた。
ショックを受けたようだったが、二人が幸せなら、と思い涙した。
いつしか、そのことを知っている人間も失われ、数百年の時が経っても
あの祠で、二人は眠る。
永遠に、眠る・・・・
終