いちばん 3

「おっまえなぁ・・・俺を巻き込むなよ。」

アスマは頭を抱えて訪問者に告げた。

「最初はアスマせんせーが首つっこんできたんでしょ?今更じゃん。だから協力してよ。」「俺がカカシに殺されたら、どうするんだ!!」

「大丈夫。カカシせんせーはもう俺のこと嫌いになるよ」

はっ、とアスマはナルトの顔を見た。

「言ったのか?」

「うん・・・・カカシせんせー、俺の元気がないからあの噂を聞いたのかって」

「それで・・・?カカシはなんて?」

「何も言わなかったよ。」

「そうか・・・」

 あの噂を聞けば、カカシが自分のことを嫌いになると思ったのに。すぐに裏切ったことを責めてくれるかと思った。だけど、カカシは何も言わなかった。



なんで、俺なんか好きなの?カカシせんせー?



涙が出そうになる。



俺は体売って温もりを求めて、カカシせんせーを裏切ってるのに。



俺は、



九尾なのに



「いくら何でも、そんなトコ見せればカカシせんせーだって呆れるでしょ?アスマせんせーは何にも心配しなくて良いんだよ?ダイジョブ犯罪者にも何にもならないってば。決行日は明後日。それで、全部が終わるんだ」





そう、全部が終わる。

俺が消えるとき。

俺が望んだことが叶う。





「・・・・わかった。協力してやる」

アスマはナルトの計画を、そして未来を全部知っていたから承知した。

 そして、自分がこの子供をどうしようもなく愛していると言うことに気が付いた。この哀しくて、優しい子供を。

「アリガト、アスマせんせー。無理ばっかり言ってごめんなさい」

「お、今日は素直だな、何か企んでるのか?」

「俺だって、素直になるときだってあるってばよ。」









2日後、カカシはこの世の全てを否定したくなった。

 ことの起こりは、任務に出かける途中ナルトがどこかに出かけていたから、買い物にでも行くのだろうと思いカカシは任務に出た。夜中に帰ってきてナルトの姿を一目見ようと思い、ナルトの家を訪ねたがナルトは不在だった。

 まさか、と思い色街へナルトを探しに出かけるが、そこにもナルトはいない。それから朝まで探したが、ナルトはいなかった。

 家に帰っているのでは、と思ったがやはりおらず、夜が明けるのを待ってカカシはサスケ、サクラ、イルカにナルトをを知らないか聞いてみたが、やはり知らないと言われた。

拉致監禁、殺人・・・・・・

 と恐ろしい言葉が頭を駆け抜けたが、とりあえず落ち着いてもう一度ナルトを探すことにした。

 とりあえず、暇そうな上忍に声をかけることにした。今いる位置から一番近い家は紅の家、そしてアスマの家。

 紅の家に行くととてつもなく不機嫌そうに出てきた紅だったが、ナルトのことを話すとすぐにナルトを探しに出てくれた。

紅もナルトを気に入っているので、心配だった。

そして、アスマの家に向かった。

アスマの家についているインターフォンを軽くならす。

 まだ眠っているのだろうか、2,3度インターフォンをならすと、ガチャリ、と鍵の開く音がして扉が開かれた。

シャワーを浴びていたのか、そこには上半身はだかのアスマが立っていた。

「なんだ・・・カカシ、朝っぱらから・・・」

ワシャワシャと髪を拭きながらアスマはカカシに話しかけた。

「悪いね・・・ナルトが行方不明なんだ。一緒に探してもらおうと思っ・・・・



そこに感じたのは、知っているチャクラ。



「うずまき?今うちにいるぜ。」

それを聞いた瞬間、カカシはアスマを押しのけてアスマの家に入った。

そして、そこに見たのは、



裸でベットに横たわる、金色の子供。



「オイオイ・・・風呂から上がったら体くらい拭けよ、シーツが濡れるだろ、うずまき・・・」

 何でもないかのようにアスマはカカシの隣を通り抜けると、ナルトにバスタオルをかぶせた。

「・・・ん、ごめんなさいってばよ・・・アスマせんせ・・・・・・あれ?かかしせんせー?どうしたの?」







どうしたのはこっちのセリフだよ、ナルト。

どうしてアスマの所にいるの?

何で裸なの?

どうしてアスマのベットで、お前は寝ているの?

どうして、お前は俺の前でアスマの名前を呼ぶんだ?





「どうして?どうしてアスマの家にいるの?ナルト」

カカシは動揺を隠してナルトに問いかけた。

「アスマせんせーはお客さんだよ。昨日アスマせんせーが俺を買ったの。」

無邪気な子供の言葉にカカシは愕然とする。

「アスマっっ!!!どういうことだ!!」

だんっっ!!

カカシは壁にアスマを押しつけ、素早く苦無いを取りだし首筋に当てる。

「どうしたもこうしたも、昨日たまたま声かけられたんだよ。『一晩買わない』って。さすがに俺だって気が付いてなかったみたいで俺だってわかったときにはすげぇビビってたけど。」

「そう言うことを言ってるんじゃないっ!!お前は、ナルトを抱いたのか?!」

「ああ。」

カカシの問いに短く答えるアスマ。

その答えにカカシはついにアスマを殴りつけようとした。

「ヤメテ、カカシ先生。アスマせんせーは俺のお客様だってばよ・・・だいたい、俺がお願いしたんだからアスマせんせーを怒らないで」

「・・・・・・・・・・どういうこと?ナルト」

「誰かに傍にいて欲しかったの。暖かかったから・・・傍にいてくれれば誰でも良かったんだよ」



ウソ。



「だからカカシせんせーじゃなくても良かったの」



貴方でなくてはダメなんです。



「傍にいてくれれば誰でも。これからは、アスマせんせーが傍にいてくれるって。だから、だからカカシせんせーはもういらない。」



貴方に俺は必要ない。



「さよなら」



サヨナラ





どうやって、カカシは自分の家に帰ったのかがわからなかった。

ナルトに告げられた「さよなら」という言葉。

 結局ナルトは自分でなくても良かったのだろうか、と思うとカカシは悲しくて、むなしくて苦しかった。





明日火影様のところ行って、7班の担任変えてもらおう・・・

耐えれないよ。

ナルトの顔を見るのは。







カカシが帰った後、ナルトはしばらく放心していた。

そして、しばらくするとぽろっと、涙が出てきた。





これで、あの人に会うのは最期。





そう思うと溢れ出てくる涙を止めることが出来なかった。

「・・・そんなに泣くなら、あんなこと言わなけりゃよかったんじゃないか?」

ナルトは声も立てずに静かに泣いた。

「いいんだってばよ・・・。」

掠れた声で、ナルトはそう言っただけだった。

しばらく、ナルトは蒼い目から涙を流し続けた。

「ほら、そろそろ目ぇ溶けるぞ」

「あ゛ずま゛っぜん゛せっ・・・・ごめんなさい。アリガト・・・」

しまいには鼻水垂らしてナルトは泣き出した。

アスマはティッシュを取るとナルトの鼻に押しつけ。

「ほら、鼻とってやるから」

ぢーんっ

まるで父親のようにナルトの鼻をとってやるアスマ。

「ごめんなさい、あすませんせっっく・・・泣いてごめんなさい。俺が弱いから、俺が耐えられないから、っふっ・・・ごめんなさい、ごめんなさい」

アスマはナルトをぎゅっと抱きしめた。

「俺じゃ、ダメか?俺はお前のこと好きだぜ?」

・・・・とナルトは瞬時に涙が止まる。

「・・・アスマせんせーありがとう。でも俺、カカシせんせーじゃないとダメなの。カカシせんせーが一番大事なの・・・だから、ごめんなさい」

「知ってるさ。お前がカカシが一番大事だってことくらい。俺が一番わかってる。俺だけ知ってればいい。お前の想いは俺がずっと抱えててやるから・・・だから安心しろ、な?」

ぽんぽん、とアスマはナルトの頭を軽く撫でた。

それからナルトは涙が枯れるまで泣いた。

アスマは黙ってそれを受け止めた。







 人生色々にてカカシはとてつもなく不機嫌なオーラを放ちまくっていた。それこそ、ガイだって近づかないほどに。

「あ~ら、カカシ、どうしたの?ご機嫌斜めね。とうとうナルト君に振られちゃった?」

その一言に、カカシはギッっと殺意のこもった瞳で言葉の主である紅をにらみつけた。

「アラ、図星?」

「煩いヨ、紅。」

「で?誰に奪られちゃったの?ナルト君どうせあんたがヘマしたんでしょ?」

紅の言葉はとどまることを知らない。

今のカカシにはその言葉を受け止められるくらいの余裕がなかった。

「・・・・黙ってろ・・・・」

さすがの紅もこの剣幕には黙る。

相当なことがあったのだと判断した紅は黙ってカカシの横を通り抜けた。





振られ男は怖いねぇ~、ザマぁないわ。写輪眼のカカシ君。

にしても、ナルト君ったらどうしたのかしら。

あんなにカカシのこと好き好きオーラ出してたのに・・・

どこの馬鹿がナルト君に手を出したのかしらね。



 そこにアスマが入ってきた。アスマの気配を察知したカカシの気が、ますます険悪なものになっていった。

そして紅は瞬時に悟る。



アスマね・・・・

そろいもそろってね・・・ま、アスマが絡んでるならカカシも平常心では

いられないでしょうね。

っていうか、ガキだね~カカシもアスマも。





「おい、カカシ・・・うずまきのことで話がある」

「俺にはないヨ。火影様のところに行かないといけないから、お前なんかと話してる暇もないし」

「・・・・いいから聞けよ」

「聞かないヨ。今はお前の顔見たくないんだ。消えろよ」

 左目だけでカカシはアスマを睨む。戦場にいるときみたいなカカシの殺気。アスマも少しひるむが、とても大切なことだった。

「おい・・・」

ぐっと、カカシの肩をつかもうとしたときだった。

カカシからクナイが繰り出される。アスマはすんでの所でよけた。

当たっていたなら、おそらく生きてはいなかっただろう。

「殺す気か?」

「いっそ死んでくれたら良かったのに」

にっ・・・

薄めた瞳は笑っていなかった。

 それから小一時間ほど、話を聞く聞かない、殺す、殺さないで大いにもめる。アスマは必至にカカシに話そうとするが、カカシは全く聞く耳持たず。

ついには取っ組み合いになりそうなところに紅の怒声が飛んだ。

「あ~っもう、いい加減にしな。カカシ、アスマ。あんたたち、みっともないよ。大の大人が殺す殺さないって!!ガキの喧嘩か?アスマも、言いたいことがあるならさっさと話しちまいな!」

とうとう紅、キレる。





「火影様の所に言ってから聞く。そこで待ってろ」

首洗ってな・・・

「火影様なら、今日はいないぞ」

 まるで知っているかのようにアスマは話す。火影の部屋に行くには人生いろいろの前を通らなければならない。窓から、ということも考えられたが、気配を殺して火影に近づこうとすることは自殺行為に等しい。

「・・・・・裏の山の祠だ」

「は?」

世にも間抜けなカカシの声。

「え?それって・・・もしかして・・・」

「・・・・・今日、うずまきが封印される。」

永遠に、覚めない眠りにつく。

「アスマ、お前何か知ってるだろ?」

「それを話そうとしてたんだろうが・・・お前が聞かなかったんだろう?ホントはうずまきとの約束だったから言う気はなかった。けど・・・お前のその顔見てたら、言わないといけないと思ったから言うんだ」

ちょっとは聞く耳持てよな、この馬鹿。

「とりあえず聞け」









いちばんの続き。      

2001/09/02