「せんせー大好き」
「俺もナルトのこと大好きだよ~」
先日、やっとの思いでカカシはナルトと恋人同士になれた。
二人は大変、甘々な日々を送っているわけで、そりゃぁもう、見ているものたちがうんざりするくらいに・・・・。
顔を合わせればカカシはナルトにベタベタベタベタ・・・(以下エンドレス)ええい、鬱陶しい!!
公衆の面前でちゅーしてんじゃねぇ、このバカップル!
カカシの恋敵だったサスケにとってはかなり痛い光景だった。
ナルトにとっては自分を好きだといってくれる二人目の人。そして、一番大事な人だった。
イルカせんせーはお父さんみたいで好き。
カカシせんせーは胸がきゅーってなる好きなんだ。
カカシせんせーが笑ってくれるとすごくうれしくなるからついつい俺も笑っちゃうんだってばよ。
そしたら、カカシせんせーはぎゅって抱きしめてくれるんだ。
ちょっと痛いくらい。
そのときのカカシせんせーの顔が俺は一番好きだよ。
だからずっと笑っていてね。カカシせんせー。
カカシせんせーが笑ってると、とってもシアワセな気分になるんだってばよ!!
カカシせんせーが笑っていてくれるなら俺、何でもするよ。
だから、ずっとうれしそうに笑っていてね。
約束だよ。
カカシせんせー、だいすき。だから、ずっと笑っていてね。
最近、里にはとある噂が広がっていた。
その噂とは『ナルトとカカシが付き合っている』という噂だった。
カカシは元暗部のエリート上忍、顔よし、頭よし、家柄よし、性格・・・には少々、(かなり)の問題があるが、それはカカシを狙うお嬢様がた、自分の娘の婿に、とカカシを狙う親御サマ方には大した問題ではなかった。
そんな大きな獲物が九尾に狩られた、という噂が里には広がっていたのだ。
公衆の面前であれだけイチャイチャパラダイスしていれば、それだけの噂も広がるだろう。
だけど、里のものは決していい顔はしなかった。
ナルトは九尾をその腹に納めているモノ。里の人間からすれば不浄の輩。
カカシは5代目か、とも噂されるほどの木の葉の里期待の星。
「しんじられない」「カカシは騙されている」「上忍ともあろう者が狐ごときに騙されるなんて情けない」「カカシは堕落した」
などなど、いろいろなカカシへの非難が集中した。もちろんナルトはナルトでそれ以上に非難された。
あの子は狐。
男を誑かすのなんてお手の物。
あの子は狐。
男を騙すのなんてお手の物。
あの子は狐。
あの子は狐。
あの子は狐。
『あの子は狐』いつもナルトが言われてきたことだった。
自分が狐だと卑下されること。それはナルトにとっては悲しいかなもう慣れてしまったこと。
だけど、カカシのことを悪く言われるのは耐えられなかった。
どうして、あの人が非難され無くてはいけないのだろうかと。
ナルトにはカカシにヒミツにしていることが一つだけあった。
それは、ナルトが色街に立って客を取っているということだった。
これは、ナルト以外の誰も知らないこと。火影やイルカだって知らないことだ。
火影はナルトを目に入れても痛くないくらいかわいがっているし、イルカだってナルトを自分の息子のようにかわいがっている。ナルトがそんなことをしていると知れば、かーなーりの勢いで止めに入ったあげくに、長時間の説教のW攻撃。
イルカは悲しそうな顔をするだろう。
火影もつらそうな顔をするだろう。
だからナルトは、
誰にも見つからないように。
誰にも知られないように。
細心の注意を払って自分の体を売り続けた。
確かに、火影には毎月の生活を保護してもらえるくらいの生活費はもらっていた。
それは一ヶ月暮らすには十分すぎるお金で、毎月、火影に月のはじめに渡されるお金はナルトの家に使い切れずに貯まっていった。
ナルトは自分の身体を売って生活をしていた。まだ幼い子供が、ましてや狐憑きの自分がまっとうに金を稼げるわけはない。
だから、ナルトは自分の体を売るという手段に出たのだ。それを思いついたのは、わずか7歳の頃。ナルトが初めて犯された年だった。
だけど、それは決して金を得るためだけではなかった。
偽りだけど、誰かに抱かれている間はその人の胸の中にいることが出来る、と思ったからだ。
一夜限りでも良かったから、暖かな誰かの胸に抱かれることが出来たから。
だからナルトは、その暖かさを求めて体を売り続けた。
そして、カカシと付き合っている今でさえ、それは変わらなかった。
カカシせんせーには、知られたくない。
・・・・・だって自分は汚いから。
カカシせんせーには、抱いてもらえない。
・・・だって自分は偽りの温もりを求めて、今も貴方を騙している。
そして、ナルトはとあることを思いついた。
カカシのことを悪くいわれるのはこれ以上は耐えられない。
いっそ、カカシが自分を嫌ってくれたら、とナルトは思った。
カカシにとっても、ナルトにとっても残酷な計画は、ナルトの手によって始まろうとしていた。
「あんたんとこの、金髪のおちびちゃん、体売ってるってホント?」
ぶふぅっっっ!!
いきなりの紅の言葉に、カカシは景気良くすすっていたお茶を吹き出した。
気管に入ったお茶でカカシはげほげほとむせていた。
いきなり来て何を言い出すんだ、このオンナは・・・。
という目でカカシは紅を見た。
「で~・・・紅、そ~んなこと誰から聞いたの?」
のほほん、としている口調だったが、目が笑っていなかった。
アラ、ヤバイこと言っちゃったみたいね、と思いつつも紅は口を閉じようとはしなかった。
「知らないわよ。噂よ噂。それとも~、カカシに困ることでもあるのかしら?自分の教え子だから?」
クスクス・・・。
赤い唇を愉快そうにゆがめながら紅はカカシをからかう。
「・・・・・・ナルトは俺のだから、手ェ出さないでね。コロスよ?それから、その噂の元調べてきてくれるかな?」
紅は、予想通りのカカシの反応に少し笑みがこぼれた。噂の出所云々を調べるのはまぁ構わない。
へぇ・・・あの節操なしがここまで入れ込むとはねぇ・・・やるな、うずまき。
と、紅はナルトに感心せずに入られなかった。
どうやら、彼女の中にも男同士とか、年齢差とか、そういう障害のことは頭にはないようだ。
カカシに『犯罪者』などと言ってダメージを受けるはずがない。
なぜならカカシは存在自体が犯罪のようなものだからだ。
『歩く性欲』の名前はダデじゃない。唯一の救いはロリコンではなく、ショタコンだったと言うことだろう・・・(それもそれでどうかと思うが。)
「なんでアタシがそんなことを・・・・って言いたいトコだけど、調べてあげるわよ。あんたに春が来たお祝いにでも、ね」
そう言うと紅はひらひらっと手を振り上忍らしく煙のように消えた。そこにはカカシとアスマだけが残された。
「なんだ・・・オマエ、とうとう犯罪者になったのか?」
「ハハ・・・まだ捕まるようなことはしてないヨ。捕まるようなコトは・・・ネ。俺って、本命は大事にするタイプだしぃ~」
何が本命は大事にする、だ。
未だかつてお前の本命なんか見たこと無いぞ、とアスマは思ったがあえて口にしなかった。
「で?あのヒヨコちゃん、体売ってるとか売ってないとかって紅と話してたみたいだけど、お前はどう思ってるんだ?」
「アスマ、俺はあの子を傷つけるヤツだけは許さないヨ。こんな噂がナルトの耳に入ったらどうしてくれる?傷つくだろうが・・・。いいからよけいな詮索はヤメロ。あの子を傷つけたらいくらお前でも、無事には済まさないヨ?」
ぞっ・・・
アスマでも背筋が凍るようなカカシの殺気に、さすがにこれ以上は何も言わなかった。本気のカカシほど、怖い者はない。
「わかった。このことについてはもう何も言わない。悪かったな、カカシ」
この噂について誰よりも心を痛めてるのはカカシだった。
自分の一番大切な子。
その子がこんな風に噂されるなんて思ってもいなかった。
そのころ紅、とりあえず八班の任務をと思い集合場所に向かう。
ちょうどそのときだ、ふわふわ揺れる金髪頭を見たのは。
「おや、アレはカカシのとこの・・・ふぅぅ~ん・・・やっぱり可愛いわねぇ。アタシでもグッときちゃうわ。どこかのヘンタイじゃないけど。」
あごに手を掛けてナルトを眺める紅。
ナルトの様子がいつもより少し元気がないことに気が付いたのはそんなときだった。
「ナルト君。」
いつもとは全然違うナルトとのギャップについつい紅はナルトに声をかけてしまった。紅に呼び止められて、ナルトははっと顔を上げた。
「あ・・・えっと・・・く、紅せんせーこんにちわ、だってばよ」
にこっ。
ナルトは紅に向かって笑顔で挨拶をする。
さっきの表情とあまりにも違うナルトに紅は驚いたが、それ以上にナルトの可愛さにクラクラしていた。
(・・・この子が体売ってるならむしろアタシが買うわ・・・)
「ときにナルト君、カカシが世話になってるみたいだね。カカシは優しいかい?付き合ってるんでしょう?」
「だ、誰がそんなこと言ったんだってばよ~!!恥ずかしいってばよ」
くねくね体をくねらせながら真っ赤になってナルトは恥ずかしがる。その様子がまた、愛らしくて愛らしくてたまらなかった。
「あはは、可愛いねぇ。カカシが幸せそーにしてたからつついてみたら嬉しそうに言ってからね。ゴチソウサマ。カカシに泣かされたらいつでもいらっしゃい。アタシがカカシを泣かせてあげるから。」
どうやら、紅のショタ心にも火が灯ってしまったらしい。
カカシから奪おうとは思っていないが、ナルト君を泣かしでもしようものならいつでも奪い取ってあげるわ、と紅は心の中で息巻いた。
「カカシせんせー、幸せそうなの?嬉しそうなの?カカシせんせー笑ってくれていた?」
「ま、あのカカシにしては珍しく感情を表にして微笑んでたけど。どーしてだい?」
「ううん。俺ってば、カカシせんせーのためには何にも出来ないから、カカシせんせーが幸せそうに笑っていてくれるとすっごく嬉しいんだってばよ。カカシせんせーにはずっと笑っていて欲しいんだってば」
「カカシはナルト君がいてくれるだけで幸せなんだよ。・・・おっと、任務に遅れちゃうわ。ナルト君、またね」
金色の頭を紅は撫でる。ナルトはその行為に嬉しそうに目を細めた。
「紅せんせー、キバとシノとヒナタによろしくってばよ。」
紅はその言葉ににっこりと笑うとすっと姿を消した。
後に残されたナルトは、紅がいたときの表情とは全く違っていた。
俺はいつか、カカシせんせーを不幸にするよ。
だって俺は九尾だから。
ふいっと、ナルトもその場を立ち去った。
アスマはナルトの噂が気になったのか、紅とは別に噂について調べていた。
色街にきてナルトを探したりもしたが、ここ数日通ってもナルトの姿は全く見なかった。
やはりただの噂だろうと思い、アスマは家へ帰ろうとしたところに見てしまった。
男と別れるナルトの姿を。
一瞬、昼間見たことのあるナルトの姿とはあまりにも違ったためか、アスマは人違いかとも思ったが、あの鮮やかな蒼の瞳と、艶やかな金髪を持つ人間がこの里に二人いることなど考えられない。
あまりの驚きアスマはナルトに声をかけることすら忘れていた。
ナルトは男からもらった金にはあまり執着がないのかそのほとんどを地面に捨てた。
みじんも感情がないかのようなその仕草、その瞳にアスマは見入ってしまった。
アレがうずまきナルトなのか?本当に?
ナルトには悩みがなさそうにいつも騒いでるイメージしかアスマには持ってなかった。それが今はどうだろう。昼間のナルトとは対照的に一人でいるナルトはどこか冷めている。
それからしばらくナルトを見ていたが、ナルトはまた違う男とどこかへ消えてしまった。それでもアスマはそこから動くことは出来なかった。
カカシに言うのは・・・・忍びないし・・・言ったら最後だ。
ストーカーまがいのことしてました、なんて言おうものなら俺の命も危ない。
うずまきのこととなると、カカシの野郎容赦ねぇからなぁ・・・。けどなぁ・・・
あいつの気持ち考えるとなぁ・・・。
と、アスマの葛藤は続いていた。
昨日見たナルトは明らかに今まで見てきたナルトとは大違いだ。ナルトはいつだって笑って、怒って・・・と言うような感じだ。
あのときの冷たい瞳をした人間がナルトだとはとうてい思えない。
だが、あれは紛れもなくナルトなのだ。
「ったく、何で俺がこんなコトで悩まないといけないんだ。」
アスマはくわえていたタバコを灰皿に押しつけると、また新たにタバコに火をつけた。
忌々しそうに息を吐く。
ふ、とそこに最近は慣れてしまった気配があることに気が付いた。
「アスマせんせーこんにちはだってばよ」
そこにはナルトが立っていた。
にっこり笑ってナルトは言う。
「アスマせんせー、カカシせんせー知らない?」
「あぁ?カカシか?今日は・・・見てねぇなぁ・・・どうした?なんか用事か?ちびっこいの」
「ちびっこいって言うなってばよ!!うずまきナルトって名前があるってば!・・・えっとね、今日せんせーと一楽行く約束してたんだってばよ。でも、ちょっと用事が出来ちゃって・・・」
もじもじしながらナルトは指をもてあそんでいた。
少し染まった頬を見て、可愛いなぁ、とアスマは思ったが、すぐに首を振った。
(・・・俺はカカシじゃねぇ・・・)
自分の思考回路に悩みつつも、ふっとナルトの方に目を向けたそこには、昨夜色街で見たようなナルトの顔があった。
「アスマセンセー、昨日、俺のこと見てたでしょ?」
・・・・・・・驚いた。まさか気付かれていたとは・・・。
気配も消してたし、そうあからさまに見ていなかったのに。
「気付いてたのか?お前って結構すごいな」
「当然だってば。アスマせんせーはおっきくて目立つんだってば。それに・・・あんな射るような視線で気付くなって言う方が無理だってばよ」
にっこり。
背筋が凍る様なその微笑み。確かに笑っているのに、なのに、アスマにはそれが笑っているようには見えなかった。
「なんで、うずまきはあんな所にいたんだ?子供の行くところじゃないだろう?」
クッ・・とナルトは小さくのどを鳴らした。
あまりにもナルトらしくない、いや、子供らしくないその仕草に、アスマは当然驚いた。全てを否定するようなナルトの嘲笑。
それはアスマが今まで見てきたどんな人間のそれよりも、昏いモノだった。
「・・・子供の行くところじゃないって?そんな子供を買うのは大人でしょ?ま、そんな大人がいるから俺も困らないんだけど。」
クスクス・・・。
あんたら大人はおもしろいね。
俺のこと嫌って、
俺のこと憎んで、
俺のこと嘲笑って、
俺のこと蔑んでも、
それでも俺を抱いたり出来るんだから。
おもしろいね。
それでも良いんだ。
一時だけでも温もりを与えてくれれば。
「なんで、あんなコトしてるんだ?」
「暖かいんだ・・・手も、腕も・・・」
ぽつり、とナルトは独り言のように呟いた。
「あ?」
暖かい?何を言ってるんだ?
「・・・カカシせんせーいないから探しに行かなくっちゃってばよ・・・それじゃ、アスマせんせーさよーならー」
ペコリ、とナルトはお辞儀をしてそこを立ち去ろうとした。
「お、おい」
急に態度が一変したナルトをアスマは慌てて呼び止めた。
「なぁに?アスマせんせー」
「お前・・・カカシには言うな、とか言わなくていいのかよ・・・」
仮にも恋人だろうが・・・
そんなアスマの言葉に、ナルトは微笑んだだけだった。
その笑みはとても切なげで悲しそうな顔だった。
泣いているような笑顔。
ナルトは何も言わずに、微笑みだけを残してその場を去った。
そして、心臓を鷲掴みにされた気がした。
どうして、まだ12歳の男の子があんな顔が出来るのだろうかと。
いちばん、カカシせんせーが大事なの。
いちばん、カカシせんせーが好きなの。
いちばん、カカシせんせーの傍にいたいの。
いちばん、カカシせんせーに愛してもらいたいの。
いちばん、カカシせんせーを傷つけたくないの。
いちばん、あの人には幸せになって欲しいの。
だから俺を消して
貴方の中から俺を消してください
この世から俺を消してください
ふぅっと、ナルトは何かを吐き出すように溜め息をついた。
とりあえず、今は計画通りにいっているみたいだ。
昨日アスマの姿を見つけたときはそれなりに焦ったナルトだったが、アスマのあの態度じゃ、カカシにはまだ伝わっていないだろうとナルトは判断した。
今、カカシせんせーに真実を知られても困るだけだってばよ・・・。
そろそろ、とナルトは腹を撫でた。
九尾が封印されている、ナルトのそれ。
ナルトはまるで大事なモノを扱うかのように、ゆったりと腹を撫でている。
自分から『普通』を奪っていった九尾。九尾が封印されなければ、ナルトは『普通』の子供でいられただろう。
だけど、九尾がいなかったらカカシには会えなかった。
それだけは、感謝してるよ。
例え、それが失われても。
お前がいなかったら会えなかった。
あの人に会わせてくれてアリガト・・・・。
ナルトはぎゅっと腹を抱きしめた。
それは自分の中に納められている九尾を抱きしめるかのように。
続