世の中には知らなくていいことがあると思わない?
「ナルト〜!今日ラーメン食べに行こvv奢るからさ〜」
にやけ顔で近づいてきた上忍は猫なで声を出しながらナルトを後ろから抱きしめた…が、ばふっと音を立ててナルトはカカシの腕の中から消えた。
「ウザいから抱きつくなってば…」
カカシの腕から逃げ出したナルトは鬱陶しそうにカカシをにらみつけながらぱんぱんっ服を払う。
まるで何かの菌を落とすかのように…。
「そーんな冷たいこと言わないでよv俺とナルトは恋人同士vデショ?」
『恋人同士』という言葉にナルトはぞわっと鳥肌を立てた。単語そのものが受け付けない。
というよりもカカシとそうなってしまったということに背筋が凍って仕方ない。
再び、ぎゅっとナルトを抱きしめてきたカカシの手をぎゅうっとつねる。
「あ゛ー…ウザ。恋人同士とか言うなってば。サムいっつの」
抓られてもはたかれても、カカシの手は離れない。いっそクナイでも突き立ててやろうか、とナルトは心の中でつぶやいた。
「で、ラーメン、どうする??」
にっこり、とゆるみきった顔でカカシに顔を近づけられると、この里は本当に大丈夫なのかと疑いたくなる。
「ダメ、今日イルカせんせーと約束があるんだってば」
イルカ、という名前にカカシはぴくりと眉を動かす。
優先されるのはいつも自分ではなくイルカだと言うことが気にくわない。
イルカは例えるならばナルトの父親みたいなものである。いい加減、子離れ、親離れしてほしい。
ナルトはイルカには自分に見せるような厳しい表情や言動をしない。
ドベで無邪気な「仮面」をつけたナルトの面しか絶対に見せようとしないのだ。
「イルカ先生イルカ先生って、俺妬いちゃうよ?」
「妬けば?」
カカシの言葉に冷たく、あっさりとナルトは返す。
別に、カカシのやきもち妬きは今に始まったコトじゃない。
誰と話してても執拗に何を話していたのかと聞いてくる。
やましいことなどなにも有りはしないのに。
イルカはナルトにとって父親や兄のようなものだ。それはカカシだって知っているはずなのにいつだってカカシはイルカに対してあまりいい態度をとろうとしない。
殺気混じりの笑顔を浮べてイルカを追い払おうとしたり、さも、カカシがナルトのことを一番わかっているような口ぶりでイルカに話をしたり。
「あほくさいからいちいち俺にそんなこと言うなってば…」
あきれた目をカカシに送りながらナルトはため息をつく。
ここまで、ナルトをあきれさせる人間に遭遇したことがない。
ウザイとか、邪魔だとか、そんなことを思わせる人間はカカシが初めてだ。今まで、誰にもそんな感情は抱かなかった。
自分を排斥する里にも。人間にも。
何も興味がなかった。憎むのなら憎め。蔑むなら蔑め。詰るなら好きなだけ詰れ。
悪意も、敵意も全て、雑音にしか聞こえない。
身を守る術は幼いころから身につけてきた。
投げつけられる石に対してどうすればダメージを少なくできるか。大勢に囲まれて、どうやってこの場を切り抜けるか、ストレスを発散するにはどうすればいいだとか。
ありとあらゆる生きる『手段』をナルトは覚えた。それは12歳の少年が覚えるようなことでは決してない。
人を、殺すことも。己の心を殺すことも。
そんなナルトに、カカシはするりと入り込んできた。
自分でも気づかなかった心の壁の隙間から。最初は嫌悪を抱かずにはいれなかった。
どれほどカカシがウザイと思っていても、離れようとはたまにしか思わない自分が不思議すぎる。
「じゃ、俺、イルカせんせー待ってるから行くってばよ。後つけてくんな?」
後をつける気満々だったカカシは内心どきりと胸を高鳴らせる。おそらくはナルトに釘を刺されていてもカカシは後をつけていくだろうが。
「俺も行っちゃダメ…?」
確実に却下されるであろう提案をナルトにしてみる。
「却下」
やはり、当然というように即答されてしまい、カカシはがくり、とうなだれる。
「ナルト、ここにいたのか?」
とそのとき、突然イルカが茂みから出てきた。ナルトすらイルカの気配に気づいてなく、ナルトもカカシも一瞬ビクリと肩を震わせる。
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