金色の髪をした子供はベットからふらふらとよろめきながら立ち上がり、服を着た。傍らに眠る男には目も向けず、子供は着替え終わると外へ出ようとした。
「帰るの?ナルト」
ドアノブに手を掛けたとき、後ろから声を声が聞こえた。ためらいがちに声がした方を振り返る。今、自分がどんな顔をしているのか想像もつかなかった。できるだけなにも興味がないような表情を浮かべて男を一瞥すると、ぱたんと、扉を閉める。
「またね」
ドアを締める瞬間に聞こえた声に胸を締め付けられる思いを抱く。
けれど、そんな痛みを振り切るように、ナルトは一歩一歩歩いていく。
決して後ろは振り返ることはない。次に顔を合わせるときは普段と同じように振る舞わなくてはならないのだから。
そんなことを考えながら見上げた空はすでに少しだけ明らんでいた。
ナルトが部屋を出て、カカシはかちん、と音を立てて煙草に火を付けた。乱れきったベットのシーツが、昨夜二人が何をしていたのか伝えていた。
どうして、こんな関係になったかは分からない。
この行為の果てに、愛はない。ナルトにはともかく、自分の方には。
ただお互いの体を貪り合って、抱きしめ合って。ぬくもりを奪い合っているだけなのかもしれない。
煙草をもみ消すと、カカシはシーツを外し、洗濯機に投げ入れた。
普段ならもう一眠りするところだが、何故か眠れない。出て行くときに見せたナルトの表情が妙に脳裏に残っていた。
責めるような、それでいて諦めたような、そんな眼差し。そんな目を向けられる言われはない。
愛してるなんて、そんな言葉を言って欲しいのだったら勘弁してほしい。
自分たちの間には、愛なんて存在しない。好きとか、愛してる、とかそんな甘ったるい言葉もなくこの関係は始まった。体だけ、繋がった関係。
カカシとしてはそれで満足をしてるし、それ以上なんて望もうと思わなかった。
望んだとして、今の関係以上にどう発展するのかと。
だから自分たちはこれでいいのだ。この関係がちょうどいい。これ以上深く関わってしまえば後戻りできないところまで行ってしまいそうで。
泣きそうに歪んだナルトの瞳が、脳裏をよぎった。
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好きだと思っているのはきっと自分だけ。
あの人の方にはなんの感情もない。自分を見つめる瞳にはなんの感情もこめられていないのだから。見えるのは、かすかな欲望の光。
その光が好きだった。普段とは違うあの人を見ることができるのが嬉しかった。
一瞬でもぬくもりを与えてくれる腕が心地よくて仕方なかった。
間違っていることなんだとわかってる。
この思いも、この関係も。あの行為も。
そしてあの人にとってはなにもかもが無意味な行為。
ぎゅっとナルトは自分の体を抱きしめた。
体のどこを触っても、あの人が触れた感触が残ってる。余すところなく口づけられて、愛撫されたことを思い出すだけで体が熱くなる。けれどそれに反比例するかのように心はどんどん冷たくなっていく。
でもカカシの差し出していた手を取ったのもまぎれもなく自分で。
本当はこんな関係を望んだわけじゃなかった。ただの上司と部下でよかった。姿を見るだけでどきどきして、幸せな気分になった。それだけで満足していたのに。
差し出された手を拒むことはできなかった。
「…カカシせんせー」
どれだけ好きでも届かない人。体だけは近くにあるのに、心はきっと誰よりも遠い。自分がどうすればいいのか、考えても考えても、答えは出てこない。
「ナルト」
かけられた声にはっとしてナルトは顔を上げた。
「カカシせんせー、なんで…?」
「ナルトが、ここに入っていくのが見えたからさ」
横に腰掛けるカカシにナルトは一瞬びくりと震えるが、カカシはそれに気付いていなかったようだ。ほっと息を吐きながら、ナルトは無意識にカカシと距離を取る。
「なんで離れるわけ?」
さすがにそれには気付いたようで、カカシはぐい、とナルトの肩に手を回して自分の方に引き寄せた。
「別に、離れたわけじゃ…っ」
どきどきと高鳴る心臓がうるさい。たかが体を引き寄せられただけで、どうしようもなく動揺してしまう。
「…ねぇ今日はここでしよっか」
たまには、こんなところでするのも悪くないよね。
カカシの言葉に、ナルトはかっと頬を赤らめる。どう答えていいかもわからない。胸の高鳴りはさっきよりも早くなった。耳にかすめた吐息が、くすぐったくて、脳裏にカカシと体を繋げているときのことがフラッシュバックする。
肩に回していた手を、そっとカカシは腰の方に下ろしていく。
「…ね?」
「ひ…人が…」
「誰もいないよ」
たしかに、誰もいない、けれど外であんな行為をするなんてまったく考えていなかった。「けど…っ」
懸命にカカシの誘いを振り払おうとするが、するりと服の下に入ってくるカカシの手に、びく、と体が跳ねると同時に、力が抜けていく。
「せん、せ…」
脇腹から胸の方になぞられるカカシの少し冷たい手に、ぞくぞくとしたものがこみ上げてくる。ナルトは哀願するようにカカシの瞳を見つめた。
「やめて」と言いたいのか「もっとさわって」と言いたいのか、それはナルトにも分からなかった。ただ、少し潤んだ目でナルトは覆い被さってきたカカシを見上げる。
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