お願いvダーリン




「ナ・ル・トv」
 ふぅ、と目の前を歩いてるナルトにカカシは息を吹きかけた。そんなことをすればどんな目にあうか分からないカカシではなかったのだが、ナルトが無防備に歩いているとどうしてもちょっかいを出したくなるらしい。
「なんの用だってば」
 カカシのみぞおちに一発たたき込んだ後、ナルトは蹲ってるカカシに問いかけた。正直関わるのはイヤだったけど、ここで用件を聞いておかないとしつっこく絡んでくるのは目に見えている。
「ナルト、甘いもの好きだよね?」
 カカシの質問の意図が分からず、ナルトは首を捻る。が、カカシが持っている本を見て合点がいった。あほくさ、と思いながらナルトはカカシの質問に答える
「俺は、しるこ以外の甘いものは食わねーってばよ」
 そっけなく告げると、ナルトはナルトはカカシの横を通り過ぎようとするが、がっしりとカカシがナルトの肩を掴んで離さない。
「俺、ナルトのために美味しいチョコ作るから!」
 ナルトの話を全く聞いていないのか、キラキラと目を輝かせてカカシは本を握りしめた。
「…チョコってお前」
「もちろん、バレンタインのに決まってるデショ。楽しみにしててね」
 カカシの手にはどこで探してきたのか『大人の手作りチョコレート』やら『女子高生の手作りチョコレート』やら『お呪い付チョコレート作り』等の本を大事そうに抱えている。
 カカシの突拍子もない行動はいつものことだし、今更突っ込む気もないが、さすがに今回は常軌を逸している。今はまだ11月だ。3ヵ月も先の話をしているカカシにどこかおかしくなったんじゃ、と思わずにいられなかった。
(元からどっかおかしいやつだけどな)
「とにかく、俺はチョコなんていらねーよ」
 しかもカカシが手作りしたものなんて何が入っているのか分からないし、むしろ『食物』という物体であるかも怪しいところだ。
「俺の愛が詰まってるんだからちゃんと食べてよ?」
「いや、だからいらねーって」
 愛も、チョコレートも断固拒否したい。
「ハートの形がいいよねー。俺がんばるから!」
 どこまでも話を聞かないカカシに、ナルトははぁ、とため息をついた。3ヵ月も先のことだ、ほっとけばいいだろうと思っていたのが間違っていたのかもしれない






 お願いvダーリン


 寒、と言いながらナルトは身を小さくした。外の気温が寒いだけではない。何かとんでもなく悪い予感がした。ぞくぞく、とした感触が収まらない。
 とそのとき、ぽん、と肩を叩かれた。思わずナルトはらしくもなく、びくっと飛び上がる。
「よ、今日は任務ねぇのか?」
 恐る恐る振り向いた先には。飛び上がったナルトに気を止めることなく世間話を始めるアスマが立っていた。
「…おどろかすなよ」
 今日は2月14日。
 カカシがしつこいくらい毎日毎日「楽しみにしててねv」と言っていたので、軽くトラウマになりそうだった。バレンタインのことなんて忘れ去りたかったのに、カカシが強制的に忘れさせてくれず、とうとうこの日が来てしまい、カカシがいつ出てくるのか少し怯えてたところだ。
「お前はカカシにチョコレートはやらねぇのか?」
「っ殺すぞ……!!」
 明らかにおもしろがってる顔で、煙草に火を付けながら笑うアスマの首を、ナルトはぎりぎりと締め上げる。
 アスマは、よせ、やめろ、死ぬなどと言おうと口をぱくぱくと動かしているが、首を絞められているために声を出すことができない。
「ぐ……ごほっ…お、お前、マジで殺す気だっただろ……」
 顔色が変わりそうになったところで、ナルトが首を絞める力を緩めた。体を折り曲げて苦しがるアスマに、ナルトはまだ殺気の籠もった瞳を向けている。
「…冗談だ」
 けほっと咳き込みながらアスマは喉を押さえる。きっと絞められた痕がしばらくは残るだろうな…と思いながらアスマは遠い目をした。
「冗談でも言ってんじゃねぇってばよ」
 次はホントに殺すぞ、とナルトは呟く。殺気の篭もった低い声にナルトの本気が窺えた。カカシのことにナルト冗談がまったく通じないナルトは、ある意味カカシのことを意識しているのかもしれない。
 そんなことをアスマは思ったのだが口にしたら確実に殺られるのが目に見えている。いや、ナルトでなくても「カカシを意識しているだろ」なんて誰かに言われたら殺意が沸くかもしれない。
「で、あいつは?」
 あいつ、と言った途端、ナルトの眉間に深い皺が一本刻まれた。前面に“不愉快”という空気を醸し出している。