真っ白な紙に一言だけ。本当に一つの単語が書いてあるだけで差出人も書いてない手紙が一通オレの届いていた。
その手紙を読んだ瞬間。
涙が溢れて止まらなかった。
ひどい別れ方をした。
そうカカシは呟いた。だれに言うわけでもなく自分に言い聞かせるように。
売り言葉に買い言葉というか、かなり大人気なく恋人を罵って、勢いで別れよ、なんて言ってしまった。
お互いがお互いを避けだしてもう数週間。
カカシは三代目が無理矢理押しつけようと思っていた長期任務をこれ幸いと言わんばかりに二つ返事で受けて今に至っている。
ナルトと付き合っていた頃は、ナルトがいないと生きていけない、なんて思ってたけど、案外なんてことなくて。
ナルトと付き合ってた頃と同じようにお腹もすくし、眠っていられる。
ましてや生きていけないとも思わない。
少し寂しさはあるけど、それも薄れていくだろう。
忘れていくんだ。想いも切なさも。愛したことも…全部。
そして、俺は俺に戻る。
ナルトに出会う前の俺に。
胸が痛むことに気づかないふりをして、カカシは軽く頭を振った。
全て、忘れていくのだ。
きっと、これでよかったのだ。
だれもいない部屋でナルトは虚空を見つめていた。空を切り取ったような青い目はどことなく焦点があっておらず、暗く濁っている。
手元には真っ白な紙と封筒が置かれていた。
あたりにはくしゃくしゃに丸められた白い紙がいくつも散らばっている。
幾度も書き損じてしまった手紙。書きたいことは沢山あったけど、そのどれもが自分が伝えたかった言葉じゃない。
ナルトはこの手紙を出すつもりなんてさらさらなかった。ただ、あの人への思いを形にしたかった。そして、その思いに封をする。
白い封筒に、あの人の住所を書いて封をする。差出人の名前は中の手紙にだって書いていない。出すつもりのない手紙には、書く必要がないから。
「へへ…っ」
手紙に封をし終わったナルトはその手紙を見つめて満足そうに笑った。
受取人の名前は『はたけカカシ様』
手紙を誰かに宛てて書くという行為が初めてのナルトは必要以上に緊張して、住所を書くときふるふると文字が震えそうになった。なんとか書き会えた住所は普段の字より格段に丁寧だ。
その手紙をナルトはそっと引き出しにしまった。そして、隠すように手紙をたくさんの忍術書で覆い隠す。
まるで、自分の気持ちを隠すように。
引き出しの奥深くに気持ちも手紙も押し込めた。
きっと二度と会うことはない。
カカシが自分の前に現れることもなければ、自分がカカシの前に現れることも、ない。
そう仕向けたのは自分なのだから。
ナルトが後悔していないと言えば嘘になるかもしれない。
けれど、後悔をするほどカカシのことを好きだと、愛していると思えて良かったと思っている。
自分は、後悔しないまま逝くのだと思っていた。
カカシに出会うまで生に執着したことはない。カカシに出会う前だったら、何かを失うことも、死ぬことだって後悔しなかったと思う。
カカシを好きになって、後悔をしない想いなんてないことを初めて知った。
後悔してもいいと、思えるくらい人を好きになることができるなんて想いもしなかった。
後悔することが、こんなにも幸せだなんて思う自分は少しおかしいのかもしれな。
けれど、とても幸せだったのだ。
カカシを愛することが出来て。
誰かをおかしくなるくらい愛せることが出来て。
もう、終わってしまった恋だけど。
もう、やり直すことはできないけど。
「カカシせんせー、大好き」
カカシには届くはずのない言葉をナルトは呟いた。
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