ただ傍にいてくれればいいと。
カラダだけ満たしてくれればいいと。
そう思っていたはずなのに……。
「…なに、やってるの…?」
カカシの眼前には、信じられない光景が広がっていた。思わず声を出さずにはいられない光景が。
そこは自分が担当する教え子で、カカシが監視を命じられた『九尾の器』が暮らす家でだった。
普段より遅い時間にナルトの様子を見に立ち寄った。もちろん、監視するために。
しばしば夜は様子を見にいかなかったことはあったが、行けば必ずナルトはすやすやと心地良さそうに眠っているから今日もそうなのだとカカシは思っていたのだ。
カカシが今日はこないと思ってナルトがなにをしているかも知らずに。
というか、自分が監視しているということをカカシはナルトが気付いてないと思っていたのだ。
だから思わず声を出してしまった自分に気付いたナルトと目があったとき、心臓がわしづかみにされた。
男の背中越しに婉然と微笑むナルトに。
その笑顔は昼間のものとはまるで違っていた。
カカシの声に気付いた、ナルトに覆いかぶさっていた男が慌てたようにカカシのほうを振り向いた。
男はカカシの顔を見るや否や慌ててナルトの上から飛び降り、散らかった衣服をかき集めて一目散にナルトの家から逃げていく。
よほど人に見られたのが衝撃だったのだろうか。
男が逃げたあと、カカシはナルトの許可をとることなくナルトの家に上がり込む。
「なにしてたの?」
聞かずともあの状況を見ればなにをしていたか一目瞭然だろう。
「セックス」
途中で邪魔されたけど、とナルト横になったまま答えた。
「…なんでそんなこと、してるの…?」
「なんとなく。さっきの男、金髪が好きなんだって言ってたってば」
そのナルトの答えにカカシはぎゅっと堅く拳を握った。
ナルトはそんなカカシを挑戦的な目で見ていた。二人の視線が交差する。
問い詰めるようなカカシの視線をナルトは真っ向から受け止めていた。
昼間の無邪気さやあどけなさは一欠片だって見あたらない。
どこか荒んだような笑顔をカカシに向けている。
「なぁ、用がないならもう帰ってくれない?……それとも、さ」
ふわり、とナルトの腕がカカシの首に巻き付けられる。
「カカシせんせーが、相手してくれるってば?」
アンタには、出来ないでしょ?
という風にナルトは挑発的にカカシを見つめていた。口調はいつものナルトなのに、艶やかな口元が、挑発的な売るんだ瞳が、カカシの理性を崩壊させる。
今まで見てきたナルトが別人のように思えて。
いつも無邪気に笑っていた子供が。
いつも失敗ばかり繰り返して、それでも笑っていた子供が。
火影になるんだといってあんなにも輝いていた子供が。
すべて偽物だったのだというのか。
くすくす、というナルトは笑い声を上げる。
「ジョーダンに決まってるってばよ!てゆーかさ!てゆーかさ!」
途端、ナルトは普段のナルトみたいな口調で騒ぎ出して、にっと笑った。
カカシはその顔を見てほっと息をつく。
それはカカシが知っているナルトの顔だったからだ。
けれど
「アンタには、無理だろ?」
クッ、とナルトは再び顔を歪ませた。一瞬のうちにがらりと表情を変える。
「…お前は、ホントにナルトなの…?」
九尾がナルトの躯を乗っ取っているのではないか。そんな考えがカカシの頭を過ぎる。
「もちろん、うずまきナルトだってばよ。…俺が九尾だって疑った?」
カカシの思ったことを見透かすように、ナルトは自分が九尾であることを否定した。
思わず、カカシの心臓がどくどくと早鐘を打つ。
まるで戦場にいるような緊迫感。いや、それよりももっと、心臓に刃物をつきつけられ
ているようなリアルな危機感を抱いていた。
「脈が早くなってるってばよ?図星?」
うるさいくらい鳴り響く胸の音がナルトに聞こえているのでは、とカカシはおもったくらいだ。
当然。ナルトには聞こえていないが。僅かな空気の振動がナルトにそれを伝えていた。
「…用がないなら、もう帰れよ」
そうナルトは吐き捨てると、シーツを体に巻き付けてベットから下り、カカシの横をすり抜けてキッチンへ向かおうとした。
「うわっ…」
ぐい、と体を強く引っ張られ、体勢が崩れる。倒れた先は床でも、ベットでもなくカカシの腕の中だった。
「…なにす…っ」
「代わりが、欲しいんでしょ?」
ぎり、とカカシはナルトの顎を掴み、自分の方を向ける。互いの唇が今にも触れあいそうなくらい近くにある。
二人は至近距離で見つめ合っていた。いや、にらみ合うという方が正しいかもしれない。
その距離は段々縮まっていき、カカシは素早くマスクをおろすとそっと唇が重なった。
唇が触れあうだけのキスが、次第に深いモノへと変わっていく。薄く開いたナルトの唇をカカシは舌でなぞる。そのままカカシの舌はナルトの口腔へ侵入していった。
ナルトは唇をあわせたまま背中をカカシの預けていた体勢から向かい合わせになるように体勢を変えた。
お互いが夢中になるように舌を絡ませあい、ナルトの口の端から唾液が伝い落ちる。
「…慣れてるね…」
唇を離したとき、ぽつりとカカシが呟いた。
「アンタには負けるってばよ」
くくっと笑いながらナルトはカカシを煽るように濡れた唇の端を舐める。そんなナルトをカカシは険しい顔つきで見つめていた。
嫌悪にも似た思いかもしれない。酷く気分が悪かった。
「…悪いコだねぇ」
胸の中をうごめく焼けるような感情を無理矢理おさえつけてカカシはおどけたような口調でナルトの耳元で囁いた。
「大人をからかうと、怖いよ?」
「へぇ。そうなんだ。それはそれは…」
カカシの言葉をナルトは本気にしていないみたいでクスクスと笑っていた。ナルトには怖いものなんてなかったから。
そんな感情があっても生きていく上では無駄なものだ。恐怖を感じても誰も助けてはくれない。だから、そんな感情はとうの昔に切り捨てた。
「とりあえずは、ベットでじっくりとね?」
くちゅっとわざと水音がたつようにカカシはナルトの耳を舐めた。
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