「じゃあカカシせんせー、俺任務に行ってくるってばよ」
ちゅ、とナルトはカカシの頬にキスを落とした。ナルトのキスにカカシはほんのりと頬を染めて、ちょんちょん、と頬を指さしてキスをねだるナルトを見て、照れながら身をかがめる。
「行ってらっしゃい。危なくなったら熊を盾にして逃げるんだよ?」
さりげなく酷いことを言いながらカカシはほんの少し周りを見渡して、ナルトの頬にちゅ、とキスを返す。
「わかってるってばよ。じゃあね」
にこにこ、とナルトは手を振ると暗部の面を付ける。ナルトが行く任務は普段下忍として行く任務ではなく、暗部の任務だった。ナルトが任務に入るときは、できるだけあとを付けていくようにしていたがカカシ自身も任務が入ってしまい抜けられない。もちろんあとを付けていたことはナルトには一言も言ってないのだけれど。
ナルトの後ろ姿を見送って、カカシはナルトとは反対方向に向かって姿を消した。
「ったくなんで俺がアスマなんかとペアくまないといけないんだってばよ」
ぶつぶつとナルトはつぶやいていた。ナルトのアスマに対する態度は、カカシに対するそれと180度違う。アスマに対しては罵詈雑言はもちろんのこと、殴る蹴るの暴行すら顔色一つ変えずにやってのける。
「…そういうことは俺のいないところで言え」
真横でナルトのつぶやきを聞いていたアスマは、ナルトに訴えかけるようにアスマは呟いた。けれどナルトはそれを一蹴するように「ケッ」と吐き捨てた。
「っていうか、カカシも任務に入ってるなら俺と組ませてくれればいいのに…あのババァ、いつも別々にしやがって」
「あぁ、だからカカシが今日はついてきてないんだな」
普段だったらこそこそとナルトのことを見守っているカカシがついてきていないことに気がついて話を振った。カカシはどうも気づかれていないと思っているみたいなのだが、ナルトもアスマもばっちり気づいていた。
「ホント、可愛いったらないよな…」
へへ、と照れ笑いをするナルトはそれなりに可愛げはあるが、カカシの行動はまったく可愛くない。一歩間違えばストーカーだし、ナルトとの任務後にいちいち絡んでくるのがウザすぎて仕方ない。ストレスで胃に穴が開きそうだとアスマは呟いた。
以前はナルトのほうではなくカカシの方と任務を組まされていたことが多かったため、今とは逆にナルトに絡まれていたのだが、精神的にではなくわりと身体的な苦痛が多かったのでそちらのほうがマシだったように思えた。
カカシはねちねちと小さな声で不満を訴えてくるのだ。しかもごく些細なことで。恨みがましそうな目で訴えかけられるととても気が滅入ってくる。しかもそのうち呪われそうで怖い。
ぶる、とアスマは身を震わせるが、今日はカカシがいない開放感に浸ろうと気をとりなおす。
「ああ、あとな」
「なんだよ」
「お前ら、もうちょっと人目をはばかれ。正直見てて恥ずかしいぞ。特に妙に恥じらってるカカシが」
いい年した男が見苦しい。と口に出そうになったのを無理矢理引っ込めてアスマは疲れたような目でナルトを見た。ここ最近、ナルトとカカシが両思いになってからというもの、ところ構わずべたべたしているのに加え、でれでれとやに下がったカカシの顔を見るたびに心臓が痛くなる。
そんな二人を見てラブラブ、だなんて口が裂けても言いたくないが、世間一般から見たら『ラブラブ』に当てはまる二人を見ていると思う。
こいつら、喧嘩したらどうなるんだ。と。
今はまだ、喧嘩もせず、ただラブラブな時期を過ごしているだけだけど、どんな仲のいいカップルも必ずと言っていいほど喧嘩はするのだ。
くだらない痴話喧嘩にしろ、根が深い喧嘩にしろ、この二人が喧嘩したとき一体どれくらいの被害が出るのだろうと、考えるだけでアスマは目眩がする。ついでに胃痛もしてきた。ありえもしないことに胃を痛める自分に、いつからこんなに胃が弱くなったのだろうと問いかける。
「別に、俺らがラブラブなのに誰にも迷惑かけてないからいいだろ?なに腹押さえてるんだってばよ?アスマ」
お前らのせいで俺の胃はボロボロなんだよ、と心の中で呟いた。ナルトには、何でもない。と告げ、とぼとぼとした足取りで任務先へ向かう。
ラブラブでもなんでもいい、好きにしてくれ。頼むからこれ以上俺に被害を与えないでくれ。
「…ほんとに、喧嘩なんてするんじゃねぇぞ」
喧嘩するのは構わないが、自分のいないところでひっそりと喧嘩して欲しい。自分の胃を痛めなくていいようなところで。
けれど、やっぱりというかあっさりというか、アスマの杞憂は的中することになったのだった。
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