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身を清めて、すやすやと眠るナルトをカカシは見つめた。さっきまであんなに乱れていたとは思えない、ナルトの寝顔。
あんな風に抱き合っても、決して自分たちは恋人同士ではない。月に一度、ナルトを抱くのもカカシの仕事だ。とは言っても、カカシはナルトに特別な思いを寄せていたのだけど。だから、ナルトを抱けると言うことは、カカシにとって幸せなことのはずなのに、心が重くて仕方ない。
ナルトは、決して自分の思いに答えを出してくれることはない。「好き」と告げたこともあった。ナルトはそれに「俺も好きだってばよ」という答えを返してくれたけれど、カカシにはそれが他の人間に向ける「好き」と同じなことに気付いていた。
そっと、カカシは眠っているナルトの頬を撫でた。さっきまで自分の精液にまみれていたとは思えないほど、無邪気な顔をして眠っている。厭らしいことなんて欠片も知らなさそうな寝顔は、子供そのものでいつものナルトだった。
あんな、狂ったみたいに欲しがるナルトの顔は、きっと自分しか知らない。けれど、この先誰があんなナルトの顔を見るのか分からないのだ。自分がナルトを抱くきっかけになったときだって、もしかして自分以外のやつがナルトを抱いていたのかもしれない。
自分がナルトの監視役でよかった。それは心の底から思える。もしも、別の人間が監視役だったら今ナルトのあんな姿をみているのはそいつだったかもしれないから。
まさか、一人で自慰にふけっているナルトの姿を見るとは思ってもいなかった。それも、出しても出しても足りないというように、何度も自分自身を慰めるナルトの姿を。あれも九尾の影響なのかもしれない。
それからだ。ナルトを抱くようになったのは。初めてのときこそ、ナルトは大きすぎる快感に戸惑って、怯えてすらいたけれど最近のナルトは自分の欲望のままに求めてくる。
それは自分でなくてもいいんじゃないかと思うくらいだ。愛してない男に抱かれて、あんな風に乱れるのだから。そう思うとナルトを抱くたびに心が重くなる。
けれどこれで突き放してしまったら、ナルトは別の男に抱かれるかもしれない。もう自慰だけでは我慢できないはずだ。そんな風にナルトを変えた。後ろにいれないと満足できない体に。
「…俺以外のヤツに抱かれたら、殺すよ」
相手の男も、お前も。
眠っているナルトにそう囁く。聞こえていないのは分かっている。けれど、そうしないと不安で仕方なかった。
この子供は、誰からも愛される子供だから。
そっと、カカシはナルトの髪を梳く。そうしているとナルトが目を覚ました。
「…カカシせんせー」
眠そうに目をこすりながら起きあがるが、眠気に耐えきれずぽす、カカシの胸に倒れ込む。あれだけ体力を消耗したのだから、眠いのも当然だ。小さな子供をあやすみたいに、カカシはナルトを抱きしめて、ぽんぽんと背中を叩いた。
「…ラーメン、食べたい」
寝言なのか、起きているのか、むにゃにゃと言うナルトに、カカシは苦笑を漏らす。こんなナルトには色気の欠片もない。なぜかこんなナルトを見ると安心してしまう。そしてまた愛おしいという思いが湧いてくるのだ。
「今日、任務が終わったら食べに行こうか」
そうカカシが言うと、ナルトがにこ、と笑って頷いた。そのまますーすーと寝息を立て始める。どれだけ心が重くなっていても、この笑顔を見るだけでいつもなら心が軽くなるはずなのに、今日はなぜか心に蟠りが残っていた。
どうして、ナルトは自分に抱かれるのか。
どうして、抱かれることについてなにも言わないのか。
どうして、自分を愛してくれないのだろうか。と心の中でカカシはナルトに問いかけていた。
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「ナルト、大丈夫?」
任務の草むしりをしながら、こくり、こくり、と船を漕ぐナルトにサクラは心配そうに声をかけた。その声に、ナルトははっと目を覚まして、ぶちぶちと草を抜く。
「うん、大丈夫だってば」
そうは言いながらも、ナルトはまた眠そうにこくこくと揺れていた。サクラははぁ、とため息をついた。
「カカシ先生、呼んでこようか?どうせあんたのことだから無茶な修行でもしたんでしょ」
カカシ、という名前にナルトはぱち、と目を開いた。驚いたような顔でサクラを見つめて首を振る。
「本当に大丈夫だってば!それに、眠いなんて言ったら怒られるってばよ」
「怒られる、ねぇ……」
ちらり、とカカシの方に視線を向けてみれば、イチャパラで顔にかぶせて、ぐーぐーとカカシは眠っている。そんなカカシに怒れる権利があると思っているのか。
「カカシ先生だって寝てるんだから、少しくらい構わないわよ」
「大丈夫。今度こそ起きたってば」
「ホントに?今度寝たらカカシ先生に言うからね!」
「だーから、大丈夫だってばよ。サクラちゃん、あんまり心配ばっかりしてると年とるってばよ」
ガンッ、と音を立ててナルトが地面にのめり込む。
「誰が心配かけてると思ってんの!!」
「……ごめんなさいってば」
土に埋もれたまま、ナルトはサクラに謝罪する。今のが、とどめだってばよ、と思わなくも無かったが目はばっちりと覚めた。軋む体をなんとか起きあがらせると、ナルトは無言で草をむしり出した。
カカシに、体調が悪いなんて知られるわけにはいかない。無茶をしたのは自業自得だ。求めても、求めても足りないと言う風に、ナルトの躯が疼いた。ふと、昨日のことを思い出すと、下腹のあたりが疼きそうになる。
だめだ、と言ったようにナルトは首を振った。最近、カカシに抱かれる頻度が増えているような気がする。前は2ヵ月に一度だったはずなのに、やがてそれが月1回になり、今では週に一度抱かれるようになった。
やめなきゃ、と思うのにカカシから触れられると止まらなくて、自分ではどうしようもなくなってしまう。カカシのことを好きだと思ってるのは嘘じゃない。けど、その思いがカカシと同じものか分からない。
だからカカシに抱かれた後は酷く罪悪感がつきまとう。同じ思いを返せないのに、求めるだけ求めてしまうことに。快感だけを求めているだけのような気がして。
そんなことを考えてると、下腹のあたりで燻っていた疼きがじわりと広がっていく。横にはサクラがいて、こんなことを考えている場合じゃないのに、広がりだした疼きは止まらない。
治まれ、治まれ、といい聞かせてもどうしようもなくて一心に草をむしる。
「ナルト」
後ろからカカシに声をかけられて、ナルトはびくっと身を震わせる。後ろを振り向くと、カカシが手を差しだしていた。そんなカカシにナルトは酷く動揺した。自分の体がなにを求めているか、カカシに気付かれていることが恥ずかしくて。
確かに、カカシは自分の求めるものを満たしてくれるけれど、それに甘えるのは今度こそやめようと思っていたのに。
「おいで」
差しのべられる手を、振り払うことはできなかった。
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