「どうしたんじゃ、ナルト。さっきから出たり入ったりしおって」
2年半ぶりに帰ってきた里の門の前で、ナルトは出たり入ったりを繰り返していた。そんなナルトに、自来也は怪訝そうな声で問いかける。
「なんかさ、なんかさ…久しぶりでこう、なんかさぁ…」
「なんかさぁ、じゃわからんちゅーの。お前、けっこう緊張しいだったんじゃのォ」
にやにやと自来也はいやらしい笑みを浮かべながらナルトの背中をぽん、と叩いた。
「ちっ、ちっげーってば!緊張とかそーいうんじゃなくってさぁ…こう…なんて言っていいかわかんねーってば…」
2年半ぶりに戻ってきた木の葉の里は、そとから見たらなんにも変わってないように見えるけども、中はそうはいかないかもしれないと思うと、ナルトの胸はちょっと不安になってしまう。
例えば、恋人のカカシのこと。
会えなかった2年半、もしかしたら自分のことなんて忘れてるかもしれないと思うと、不安でたまらないし、もしかして他に好きな人ができてるかもしれない。さらにもしかすると結婚しちゃったりしていて『子供ができたんだ〜』なんて幸せそうに報告されたらまた旅に出たくなるかもしれない。
むしろ想像するだけでナルトはちょっと凹みそうになっていた。
「心配せんでもカカシもなーんにも変わってたりしとらんじゃろ…しっかしのォ…カカシのほうがべた惚れだと思ってたんじゃが、意外にお前もカカシにべた惚れなんじゃのォ…」
あれのどこがいいのかは儂にはわからん。という言葉をぐっと自来也は飲み込んだ。
「ぎゃっ!そんなこと言うなってばよ!はずかしーってば!たしかに、カカシせんせーはかっこよくて優しくって、俺ってば大好きだけどさぁ…」
顔を真っ赤にして両手で顔を隠すナルトを、自来也は死んだ魚のような目で見つめていた。
自来也が言ったことを一言も否定しない上に、さりげなくのろけてみせるナルトに今にも砂を吐きそうだ。
「カカシが聞いたら発狂するほど喜ぶじゃろーのォ…」
はっきり言って、見たくない。
そんなことを思いながら、自来也はぼそりと呟いた。
そんな折、ナルトは意を決したように里に足を踏み入れていた。
「エロ仙人!早く!置いていくってばよ?!」
先ほどまで里に入れずうろうろしていた人間の台詞ではないなと思いながら、自来也はゆっくりとナルトの後ろを追っていった。
ナルトが、帰ってくる。
その知らせが来たとき、カカシの心は震えた。
帰ってくるときは着く前に必ず連絡してくださいね、というカカシの願いを、半ば無理矢理自来也に了承させ、今日、文が届いた。
寝っ転がってごろごろしたいほど嬉しいが、ナルトが帰ってくる前に用意を調えて、誰よりも早くナルトを出迎えないとならない。
なにせまだ起きたばっかりで、髪もぼさぼさなら部屋着のままで、とてもナルトの前に出て行けるような格好ではない。
大あわてで顔を洗って、どの服で行こうかとカカシは真剣に悩んでいた。
けれど、何かものすごく気合いを入れてお洒落なんてしてみても、ちょっと自分がアホなような気がしてきて、カカシは結局いつもの忍服を選んだ。多分、どんな服で行ってもナルトは喜んでくれるだろうし、やっぱりこの服でナルトと接したことが一番多かったからナルトは喜んでくれるだろうから。
服を着替えて、浮き足だったこの心臓を落ち着けるために深呼吸をして、カカシは部屋の惨状に気がついた。
「…あー怒られるかなぁ」
部屋が汚いってば!と怒るナルトの顔を想像しても、カカシの顔は弛む。怒られることだってカカシにとっては嬉しくて仕方がなかった。
この2年半、一度もナルトに会えなかった。会いたかったけど、顔だけでも見に行きたかったけど、我慢した。
会えない時間が愛を育てるとはよく言ったものだと思う。会えなければ会えないほど、愛しさが募って、柄にもなく切なくなったりしたけれど、自分がこんなにも大あわてするくらい、会えることが嬉しいと思えることがとても幸せなのだと思う。
ナルトがどんな風に成長しているのか見るのも楽しみだ。その成長を、自分が見つめてられなかったのが少し残念だが、これから先、いくらでもナルトの成長を見つめていけると思えば、それすらも惜しくない気がしてくる。
「きっと、性格は変わってないんだろうなぁ…」
意外性ナンバーワンで、なにをするのも一生懸命なところ、話し方も、好きな食べ物も。
そして、自分への気持ちだって変わってはいないだろうと、カカシは妙に自信を持っている。
よくよく考えればどうしてそんなに自惚れられるかわからないけども、なんとなく、自分の変わってない気持ちと一緒で、ナルトの気持ちも変わっていないのだと確信していた。
戻ってくる時間にはまだ早いだろうけども、カカシは早々に家を出て、里の近くの門まで急いだ。
ナルトに会ったら最初なんて声を掛けようか。やっぱりおかえりかなぁ、なんて考えながら、一歩一歩、門に近づくたびに胸は高鳴る。
もうすぐでナルトに会えると思うと、カカシの世界は全て輝いて見えていた。
「おぉ、カカシ。お前早いじゃねぇか」
と、門に向かう途中でアスマとすれ違い、足を止めた。アスマは気怠げにあくびをしながらカカシに近づいてくる。
今日一番最初に会うのはナルトだと心の中で勝手に決めていたカカシは、少しむっとしたように顔をしかめる。
「なに?任務帰り?」
目の下にほんのりクマができているアスマを見て、カカシはそう声をかけた。
「あー…徹夜だぜ…くそ。五代目も人使いあらいよな…」
「あっそ。じゃぁさっさと帰って寝なよ」
自分で聞いたくせに、アスマの答えにそっけなくカカシは答えた。
「なんだぁ?お前今日はやけに不機嫌だなぁ」
それはナルトのところに行くのとをお前に邪魔されたから、なんてうっかり口に思想になったけれど、カカシはぐっとその言葉を飲み込んだ。
ナルトが帰ってくるとうっかり言ってしまったらもしかしたらアスマも行くと言い出しかねなかったから。
「…別に」
そう、当たり障りのない答えを返すけれども、やはりそわそわと様子の落ち着かないカカシに、アスマは首を傾げている。
「もしかして、今から任務か?」
「そうそうそーなのよ。だから俺急いでるから」
任務よりもよっぽど重要だったけど、この場を去るきっかけを与えてくれたアスマの言葉にカカシは頷いた。
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